企業カルチャーは「ハピネスを届ける」 Zoomが「公共インフラ」に近づく日

提供: Zoom
ZVC Japan株式会社(Zoom)
社長 佐賀 文宣氏
ウェブ会議のツールとして、ビジネスシーンに欠かせない存在となったZoom。単なるツールにとどまらず、日本人の働き方改革を後押しし、さらには教育や医療などの公共分野を支える存在へと変貌しつつある。Zoomの持つフィロソフィーは何なのか。どのような企業戦略を描いているのか。Zoomを日本で提供するZVC Japan 社長の佐賀文宣氏に話を聞いた。
英語圏でZoomというワードは、ウェブでビデオ会議をするという意味の動詞になっているようですね。企業名やサービス名が動詞にまでなる企業はめったにありません。
まだまだこれからです。現在のZoomはウェブ会議のイメージが強いですが、将来はもっと意味が広がってくると考えています。例えばクラウドPBXという電話機能も、会議室における会議機能も、同じサーバーで提供できるのがZoomテクノロジーの強みです。相手のデバイスがパソコンだろうとスマートフォンだろうと、また、場所が自宅だろうと職場だろうと、「リモートで相手に連絡をする」=「Zoomする」という意味になってくると思います。
公共のインフラに近くなってくるのではないですか。
Zoomであることを人々が意識せずに使うようになったとき、本当の意味でインフラになったと言えるのかもしれません。

世界に先駆け
教育機関に無償提供
担当者即断の裏にある
企業哲学

写真:佐賀 文宣氏
ZVC Japan株式会社(Zoom)
社長  佐賀 文宣氏

1992年北海道大学工学部修士課程を修了。日本アイ・ビー・エム株式会社でThinkPadの開発、同社PC部門で日本およびアジア太平洋地域担当プロダクトマーケティングやパートナーセールスに携わった後、シスコシステムズ合同会社でWebexのパートナー開拓、ヴイエムウェア株式会社でパートナービジネスの統括を経て、2019年2月から現職。

新型コロナウイルスの感染拡大初期に教育機関などに向けてZoomを無償提供した動きが印象的でした。「学びを止めない」という国の方針を支えたわけですよね。
教育機関へのZoomの無償提供は、実は全世界で最も早かったのが日本です。最初の全国の小中高の臨時休校要請が出た直後の夜に、経済産業省のチームから当社の営業担当に相談がありました。その担当者はその場で無償提供を即断してきたんですよ。当時、まだ社員は35人程度でしたが、ライセンスを1件1件手作業で発行していきました。非常に忙しかったですが、皆ものすごくいい顔で働いていました。
それを可能にした企業フィロソフィーは何ですか。
グローバルでは、“Delivering Happiness”というのですが、「お客様に幸せを届ける、そのためには働く従業員も幸せであるべき」というフィロソフィーを持っています。創業者のエリック・ユアンは社員に対して「あなたは幸せに働いていますか」と常に問いかけます。日本ではそれに加えて、「互いを尊敬する」「法律を順守する」「アグレッシブにやる」など、いくつかのポイントがあって、それを全部満たしていれば、上司に相談しなくても実行すると皆が理解してくれています。あのとき、無償提供を決めてきた社員は、Zoomのフィロソフィーに合っているからやるべきと考えました。チームにとって大きなインパクトがありましたし、私もうれしかったです。
Zoomは急速に一般ユーザーにも広まった印象です。日本における拡大は、グローバルと比べてどうでしょう。
日本はグローバルと比較して圧倒的に速いです。2020年の売り上げを見ると、グローバルは前年比で3.5~4倍の伸びでしたが、日本はその倍以上でした。日本は欧米に比べて、ウェブによるテレビ会議がもともとあまり浸透していませんでした。それがコロナ禍で対面の会議が急速にウェブに置き換えられたのと、一般消費者へのサービス提供をZoomを使って提供するという動きが重なった結果、急速に伸びたと考えています。
コロナ禍にあって、あらゆる企業や組織が自社のサービスをZoomで提供し始めたというわけですね。
Zoomのテクノロジーの大きな特長は、“open”であること。あらゆるものに組み込めるのです。例えば病院の電子カルテにZoomが組み込まれ、オンライン診療にスムーズに入ることができます。
ウェブ会議は一般の人が利用していることが多いので、ZoomはBtoCのサービスというイメージでした。そうではなくて、実はBtoBマーケットを向いているのでしょうか。
一般消費者の方々に購入いただくよりも、企業が一般消費者にサービスを提供するときの共通のプラットフォームを用意するのが、Zoomのビジネスモデルです。ですので、プラットフォーム戦略が非常に重要になってくると考えています。

Zoomが引き出す
「現場」の力
予想を超えた使われ方

プラットフォームが成り立つにはまず、多くの人や企業に使ってもらうユーザーの「量」が必要ですよね。前述の教育機関への無償提供も、そういった意図があるのでしょうか。
そうですね。無料版でもいいので多くの方にZoomを使っていただければ、ビジネスとしては後で返ってくると考えています。Zoomという共通のプラットフォームの中で、物を販売したりサービスを提供したりしたい企業と個人が、スムーズにコミュニケーションを取れるようにしていきたいのです。
プラットフォームとして広がれば広がるほど、個人や企業の工夫で様々な活用をされると思うのですが、何か顕著な事例はありますか。
私がよく勉強させていただいているのは、日本航空(JAL)です。JALはまさに整備、空港カウンター、飛行機の客室サービスなど、業務の主体は現場です。驚くのは、新型コロナウイルスの影響で飛行機に乗る人が少なくなって売り上げが一気に下がる中、積極的にオンラインのコミュニケーションを取り入れていることです。通常は実物大のキャビンで行われていた客室サービスのトレーニングや、機体整備の訓練をZoomで実施していました。
整備士などはまさに現場のエッセンシャルワーカーで、オンラインでの働き方に不向きというイメージがあります。
JALにお話を聞くと、ITの担当はただ全従業員にZoomのライセンスを付与して使えるようにしただけだというのです。現場から「こういう使い方ができないか」という相談がたくさんあがってきたのだそうです。現場だからオンラインは関係ないというのではなく、少しでもオンラインに置き換えることができないかという発想がとても大切になってくるのではないかと思います。
現場に委ねる経営サイドの勇気も必要になります。
現場の発想と経営の勇気。この両方が必要だと感じています。JALのほかにも、例えばアート引越センターを運営するアートコーポレーションは、見積もりを取るのにZoomを活用して、引っ越し作業の一部をオンラインに切り替えたそうです。大分県とは包括連携協定を締結していまして、ドローンとZoomを組み合わせて農作物の生育管理や災害対策に活用していただいています。ネットワーク品質がよくない場所でもつながりやすく映像をお届けできるということと、オフィスワーカーのようにメールアドレスを持っていなくても現場から参加できるというZoomの2つの特長が生かされています。
やはり公共インフラの担い手に近づいている印象です。そうなるとますます、ハッキングなどへのセキュリティー対策や、利用者急増に伴うひずみが気になるところです。
セキュリティーに関しては、開発は米国本社がやっていますが、この1年半ほどの間に、本当にセキュリティーファーストになりました。セキュリティーのスペシャリストの採用も増やしましたし、エンドツーエンドの暗号化を、無料を含むすべてのお客様にご利用いただけるようにしました。日本の公益財団法人「金融情報システムセンター(FISC)」のセキュリティー標準にも対応済みです。
図:Zoomはあらゆる分野の共通プラットフォームに
写真:ミーティングイメージ

コミュニケーションの総量が増える社会へ

日本人の働き方は、新型コロナウイルス感染症の拡大によってどう変わったとみていますか。
5年かけて起きるような働き方の変化が1年で起きたとみています。多くの企業がテクノロジーを導入し、オンラインとオフラインが融合するハイブリッドな世界になりました。オンラインがいいのかオフラインがいいのかという単純な話ではなくなったということです。

 例えば、お客様に重要な提案をするときは、直接会って熱意を伝えたいと思うでしょう。一方で、オンラインを活用すれば移動時間を省くことができるので時間が生まれます。そうした時間を大切な人と会う時間に費やせます。それは大切な家族でもいいでしょうし、大切なお客様でもいい、どんどんリアルなコミュニケーションのために使うことができる。つまり、総量としてのコミュニケーションが増えていくのがあるべき姿です。

コロナ禍が終息に向かえば、オフィスに人が戻り始めるでしょう。一方で、コロナ禍によってリモートで働くという選択肢や、効率的なワークスタイルが促進されました。これからは様々な働き方が併存する世の中になると考えられます。そうしたとき、Zoomには何ができますか。
ハードウエアの中にZoomを組み込んで、誰とでもどこでもつながれる専用機をベンダーと一緒につくっています。また、在宅であろうとなかろうと参加者が1つの仮想会議場で議論できるサービスも提供しています。在宅勤務者も会議室にいる人も、現場で働いている人も、みんなが共存する世界にする。これはZoomに課された大切なミッションだと考えています。