部下が明らかに自分のキャパシティーを超えて仕事を抱え込みがち。こんなとき、あなたが上司だったらどうするだろうか。
「仕事を減らせ」とアドバイスする、と答えたあなたはきっと思いやりのある上司だろう。だが、それで本当に部下が変わるのかどうか、少し立ち止まって考えてみてほしい。
本書『気づかせる技術』は、上司が部下を変えるのではなく、部下自らが気づき変わっていくための「気づきマネジメント」を提唱。人間は自らの気づきによってでしか変わらない、という大原則のうえで、「相手に考えさせ自ら答えを出させる」手法を解説している。
本書は何かと問題の多いメンバーを率いる、本宮静奈を主人公にしたストーリー仕立て。部下とのコミュニケーションに四苦八苦しながら、部下やチームを変えていこうとする静奈とともに、31の「気づかせる技術」を学べるようになっている。
著者はインバスケット・コンサルタントの第一人者として活躍する鳥原隆志氏。インバスケットとは未処理の案件を処理済の箱に入れる、という意味で、上位職のマネジメント力の測定や教育に使われるツール。著者がインバスケットに出会って変わったことから、この気づきマネジメントが生まれたそうだ。
本書によると、気づきを生み出すには相手を「もやもやさせる」ことが欠かせない。
例えば部下が失敗をしたとする。失敗の理由を聞くと、外部的要因を並べ立てる。このとき、本質はそこじゃないだろう、と言いたくなったとしてもぐっと堪える。代わりに「それは本当の原因なのだろうか?」と問いかけるといい。冒頭の、仕事を抱え込む部下にも「こうしたほうがいい」とは言わない。問題に悩む部下に対して、「どうだろうか」と、解決策が分からないふりをするのだ。
悩む人間がいれば助言をし、忙しそうなら手伝いたくなるのが人間の性。だが、気づきマネジメントは、相手を喜ばせたり、相手から感謝されるのが目的ではない。もやもやした深い自省状態を作り出すことで、その人が「自分の答え」を探し出すことを目指すものだ。
部下が答えを導きだすまでに、時間がかかることもある。会話の最中には答えがなかったり、数日間にわたって反応がない場合もあるだろう。だがこのとき、沈黙を破ってはいけない、と著者はいう。実は、沈黙は思考の整理中のサインであり、気づきにとって欠かすことのできないプロセスなのだ。そして気づきが生まれる速度も人それぞれ。「間」を制してこそ、気づきマネジメントである。
気づきマネジメントのコツは「少し意地悪になる」ことのようだ。他者からのアドバイスは思いやりであっても「押し付け」になりかねない。相手の中にある答えを信じて、適度な距離感で刺激を与えていくことが肝要である。
部下の変化を目の当たりにし、イライラしていた静奈自身が徐々にイキイキと変わっていく様子もなかなか感動的だ。部下のマネジメントに悩んだら手にとってほしい1冊。