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今月の特選

同窓会に行けない症候群

『同窓会に行けない症候群』

  • 鈴木 信行 著
  • 日経BP
  • 2019/08 240p 1,540円(税込)

自信をなくした人への処方箋 過去ではなく今を生きる

 先日、「2倍成人式」なるもののお知らせを受けた。地元の40歳の同級生で、出身校の枠を越えて集まろうというイベントで、最近広がりつつあるらしい。大きなイベントで気にはなったが、予定があったため見送った。

 2倍成人式は呼び名を変えた同窓会である。近年この同窓会に対し、私のように予定がなくとも、何となく出席をためらう人たちが増えているそうだ。本書『同窓会に行けない症候群』は、そのあたりの事情に迫ったものである。著者は日経ビジネス副編集長である鈴木信行氏。本書によると、同窓会に行けない最大の理由は自信の喪失――すなわち同級生に合わせる顔がなくなったから、というものである。

こつこつやってもレベルは上がらず

 著者は、同窓会に行けなくなるのは特に50代くらいのビジネスパーソンが多いと指摘。その年代の人が自信を失う原因を探ると、一つには「出世しなかった」という事情が見えてくる。かつて(昭和)の会社員は、まるでロールプレイングゲームのレベル上げのように、定型的な仕事をこつこつやっていればある程度の地位を築くことができた。しかしテクノロジーの進化や労働環境が急激に変化する現代、出世の難度は上昇。無から有を生み出すような高度に創造的な能力がなければ出世できなくなってしまったのである。自分より年下の上司に仕えている人も珍しくない。かくして、同窓会で堂々と語れるようなことがなくなり、足が遠のいてしまうというのが著者の見立てである。

 同窓会に行かないとどうなるか。社会とのパイプを失い「孤立化」することにつながる、と著者は警鐘を鳴らす。メーカーにしつこくクレームを入れたり、保育園設営に反対する高齢者は、身近に人との交流がほとんどないことが説かれている。ここで本題。ではやはり、同窓会には行くべきなのだろうか。著者は、行きたくなければ行く必要はない、と言い切る。

同窓会をきっかけにこれまでの常識から抜け出そう

 著者は、行きたくもない同窓会に行くくらいなら「したいこと」をしよう、と呼びかけている。私が2倍成人式に参加しなかったのは、その日、カメラの講座で知り合った仲間と撮影会をしていたためだ。幅広い年代の様々な背景を持つ人たちと一つのイベントをやり遂げた充実感があった。そんな風に、好きなことを通じて新たに人とつながりを作り、生きがいを見いだしていけばいいのだ。

 ……さらに言うと、つながりを作らなければ、と思うこと自体もう時代遅れなのかもしれない。著者が最後に、一番やりたいこととして記しているのは、台北に行き、夜市のフードコートでB級グルメを食べながら騒がしさの中に身を置くことだという。人とのつながりや他人の共感を気にせず、自分の基準で自分のやりたいことをする「自由」な姿がそこにあった。

 つまるところ、同窓会に関わる問題はすべて他人からどう見られるか、ということを気にしているがために起こる。他人の評価を気にして「できないこと」が増えれば、孤独は深まる一方だろう。だが、自分の好きなことをやっている限り、社会との接点は何らかの形で維持されるし、何より楽しく人生を過ごしていける。人と比較することで自尊心を保つ同窓会は、もうその役割を終えるだろう。過去ではなく目の前の自分の人生を楽しむ先にこそ、未来は見えてくるということを教えてくれる1冊だ。

同窓会に行けない症候群

『同窓会に行けない症候群』

  • 鈴木 信行 著
  • 日経BP
  • 2019/08 240p 1,540円(税込)
安達 貴仁

情報工場 エディター 安達 貴仁

情報工場エディター。主にDTP組版、ときどきカメラマンの傍ら、書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームでも活動。東京都出身。

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