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今月の特選

ビジネスの未来

『ビジネスの未来』

-エコノミーにヒューマニティを取り戻す

  • 山口 周 著
  • プレジデント社
  • 2020/12 320p 1,870円(税込)

人間的衝動から行動せよ ビジネスの次なる使命とは

世界経済フォーラムの年次総会、通称ダボス会議の2021年のテーマは「グレートリセット」。従来の社会経済システムを見直そうという提案である。身近なところでも、世の中が変わりつつあることを肌で感じている人は多いのではないだろうか。

私たちが目指すべき社会の姿を、鮮やかに描くのが本書『ビジネスの未来』だ。独立研究者の山口周氏が、歴史的・国際的な視座からとくに資本主義の課題を分析し、新しい社会構想と、そこに必要な個人の行動様式や心性を示している。『遠野物語』や聖書など古今東西の文献を丹念に参照しているところも特徴だ。

著者は電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事した経歴をもつ。著書に、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』などがある。

経済合理性の外側にある問題に取り組む

著者はまず、ビジネスは歴史的使命を終えつつある、と指摘する。これまで担ってきた「物質的貧困を社会からなくす」という目的は、先進国においてはほぼ達成されているからだ。日本を含め各国のGDPが成長しないのは、生活に困らない程度にモノが豊かな社会であることの証左で、なんら悲観すべきことではないと説く。

いわば「文明的豊かさ」が頭打ちになった現代において、ビジネスの次なる使命が「文化的豊かさを生み出す」ことだ。友愛に満ち、瑞々しく、感性豊かな社会、「生きるに値する世界をつくりだす」ことだと著者は説明する。このために求められるのが、「経済性」ではなく「人間性(ヒューマニティ)」に基づくという、モチベーションの転換だ。

現代社会にも、子どもの貧困や希少疾病など、解決されていない課題がある。これらの課題が手つかずなのは、不確実性が高かったり利益が得られにくいという理由による。つまり、経済合理的なモチベーションに従う限り、解決されない問題は残り続け、真に生きるに値する社会はやってこない。そこで、事態を打破する解が「人間性に根ざした衝動」なのである。

人間には「そうせざるを得ない」といった衝動がある。福祉を支えるのはまさにこうした心の動きだ。他にも、歌い踊りたい、日差しを全身に浴び、崇高なものに人生を捧げたいといったような衝動がある。これらを生産や消費、労働に組み込むことで、経済活動と文化的豊かさを同調させる――これが本書の構想する新しい社会の姿だ。

観念的だが、いくつかヒントがある。例えば、LinuxというOSは、世界中のプログラマーが無償で協力して開発された。携わること自体が楽しかったからだ。あるいは、アーティストの活動。彼らは、自分が見つけた「看過できない問題」に損得勘定抜きに、衝動的に向かっている。ビジネスもまた、社会という作品に関わるアートプロジェクトと考えてみたらどうだろう。

実現のために、著者はUBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)の導入を訴える。理想論だろうか。だが、社会を変革するのはいつも名もなき個人だ。本書が気になったからには、ぜひ改革者を目指してほしい。

ビジネスの未来

『ビジネスの未来』

-エコノミーにヒューマニティを取り戻す

  • 山口 周 著
  • プレジデント社
  • 2020/12 320p 1,870円(税込)
安藤 奈々

情報工場 エディター 安藤 奈々

情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

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