今月の特選

逆境を活かす店 消える店

『逆境を活かす店 消える店』

  • 竹内 謙礼 著
  • 日本経済新聞出版
  • 2021/09 296p 1,760円(税込)

ガンプラ買える自動車販売店 従来ない発想で生き抜く

新型コロナウイルス禍で、多くの店が消えた。飲食店や宿泊施設の苦しみが連日のように報道され、コロナで店が潰れていると感じた人は多いだろう。しかし、本書『逆境を活かす店 消える店』は、破綻したビジネスの多くはそもそも問題があったと指摘する。脆弱な財務、時代遅れのビジネスモデル、「なんとなくの経営」など――。

本書では、消える店の問題点を探るとともに、従来にない発想でピンチを抜け出した社長たちの事例がまとめられている。著者はマーケティングコンサルタントの竹内謙礼氏。大小様々な企業を支援するほか、商工会議所等で研修や講演会も行う。

なお本書は、「日経MJ」の連載「竹内謙礼の顧客をキャッチ」を増補し、書籍化したもの。

既存ビジネスにプラスする

著者は、逆境を乗り越えられる店は、常に危機感をもって改善を繰り返し、ビジネスモデルを進化させていると分析する。

例えば、紳士服店の「イルサルト」(大阪市中央区)は、既存しない付加価値を生み出したことで、注目を浴びている。なんと同店は、日本唯一の経営者専門オーダースーツ屋である。

イルサルトでは、まず客に面談を行い、どんな思いで会社を経営しているのか聞き出す。その上で、会社の顔としてふさわしい装いの提案書を作成し、客の納得を得てようやく採寸となる。提案書にはキャッチコピーがついており、生命保険会社の社長ならば、「未来の年表で将来をひもとき、家族の絆を守る水先案内人」といった具合だ。

スーツができたら客に着てもらい、プロのカメラマンによる写真撮影を行う。会社ホームページのプロフィル写真などに利用できるとあって好評だ。「スーツを通じて会社のブランド力を高めてほしい」とイルサルト社長の末廣徳司氏は語る。「企業戦略」の一つとしてのスーツを提供することで他社と差別化を図り、アパレル不況と叫ばれる中でも好調を維持している。

従業員の満足度を上げる

自動車販売店「アローズ山形庄内中央店」(山形県鶴岡市)は、従業員を楽しませることで売上を伸ばした。実は整備工場に隣接する店内に、機動戦士ガンダムのプラモデル、“ガンプラ”を並べている。

東日本大震災の際、ショックで働くモチベーションをなくした従業員を励ますために始めたと同店社長は振り返る。車好きにはガンプラ好きが多いようで、店に活気が戻るだけでなく、ガンプラ目当てに来店する客が増えたという。ガンダムの話で盛り上がり、車の購入に至るケースも少なくなく、コロナ禍による逆境でも元気に営業を続けている。

著者いわく、従業員を喜ばせることや楽しませることを無駄だと考える会社は、窮地に立たされる。不満ばかりの従業員に、顧客を喜ばせることは難しい。

本書を読み感じるのは、新しい発想でピンチを脱した社長はいずれも、客や従業員の喜ぶ顔を想像しながら、楽しそうに次の手を考えているということだ。社長たちの物語を参考に、ぜひ逆境を吹き飛ばす力を得てほしい。

逆境を活かす店 消える店

『逆境を活かす店 消える店』

  • 竹内 謙礼 著
  • 日本経済新聞出版
  • 2021/09 296p 1,760円(税込)
川上 瞳

情報工場 エディター 川上 瞳

情報工場エディター。大手コンサルティングファームの人事担当を経て、書評ライターとして活動中。臨床心理士、公認心理師でもある。カリフォルニア州立大学卒。

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