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今月の特選

男の子みたいな女の子じゃいけないの?

『男の子みたいな女の子じゃいけないの?』

-トムボーイの過去、現在、未来

  • リサ・セリン・デイヴィス 著/上京 恵 訳
  • 原書房
  • 2021/10 342p 2,970円(税込)

子どもに性を探究する自由を 米ジャーナリストの提案

赤ちゃんの服売り場に、よく「男の子」「女の子」と書いてある。そのくくりに何の疑問も抱いてなかったが、本書『男の子みたいな女の子じゃいけないの?』を読むと、それがひどく無神経だったと思わされる。

本書は米国のジャーナリストが、自身の娘について書いた記事を発端としたジェンダー(生物学的な性別ではなく、社会的・文化的な意味合いの性別)論争をもとに、その議論の内容を深め、まとめた一冊だ。過去から現在までのジェンダーの扱われ方を追うとともに、社会学者や人類学者、心理学者、さらには生まれつきの性別に期待される行動をしない子どもらに取材し、複雑で多様なジェンダーのかたちをあぶり出している。

「トムボーイ」の含む意味

キーワードは「トムボーイ」だ。男の子っぽい服を着たり、スポーツを好んだりする独立心の強い女の子の総称で、米国では1970年代にかなり肯定的に使われてきた。ある時、周囲から男児に間違われるような著者の娘が、「私はトムボーイだ」と言った。著者はそのエピソードを記事にし、新聞社は次のタイトルを付けた――『娘はトランスジェンダーではない、トムボーイだ』。これが、トランスジェンダー(生まれつきの性と自認する性が異なる人々)嫌悪だと見なされ、大批判を浴びたのだ。

トランス擁護派でもあった著者は、意図しない批判を受け、ジェンダー、特にトムボーイの歴史について徹底的に研究する。そして、誰かをトムボーイと呼ぶ場合、「いずれは女の子らしくなる」、「ジェンダー不適合ではない」との意味合いが付きまとうことに気が付いていく。トムボーイとは女の子らしさに寛容なようで、どこまでも旧来の「男女」の二分法に根差しているのだ。

実際に話を聞くとトムボーイの生き方は実に多彩だ。男の子っぽい髪形や服装をしていても女の子であることに誇りを持つ者、大人になり男性になるための手術を受ける者、「(男らしさ、女らしさ)両方の世界のいいとこ取りをしている」と語る者もいる。

性を探究する余地を残す

トムボーイの幅広さに触れた著者は、トムボーイか、トランスかといった定義もまた、子どもに「男/女らしさ」を過度に意識させているのではないかと考える。そうではなく、子どもにはできるだけ多くの選択肢を与えていこう、というのが最終的な主張だ。ピンクを女子の色として売ることを止め、男の子にもバレエを習わせる。生まれた時の性別によらず、自身のジェンダー、生き方を探究できるような余地を、親は子どもに残すべきだと説いている。

現在では、トムボーイの代わりに「ノンバイナリー」(男女の中間か、その枠外にある)が使われるそうだ。ジェンダーに関する言葉は流動的で、理解が及びにくい。が、重要なのは言葉を正確に使うことではないだろう。著者のように、身をもって個人の曖昧な性のあり方と向き合っていくことが、多様化するジェンダーの理解を支える、基本の姿勢なのだと思う。

男の子みたいな女の子じゃいけないの?

『男の子みたいな女の子じゃいけないの?』

-トムボーイの過去、現在、未来

  • リサ・セリン・デイヴィス 著/上京 恵 訳
  • 原書房
  • 2021/10 342p 2,970円(税込)
安藤 奈々

情報工場 エディター 安藤 奈々

情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

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