今月の特選

海外メディアは見た 不思議の国ニッポン

『海外メディアは見た 不思議の国ニッポン』

  • クーリエ・ジャポン 編
  • 講談社(講談社現代新書)
  • 2022/02 252p 990円(税込)

「義理チョコ」と過労死の関係は? 日本の「謎」に迫る

五輪で銀メダルをとった日本人選手が「みんなに申し訳ない」と謝る。電車では車掌が1分の遅延を謝罪するし、落としたペンを拾ってもらっても、私たちは「すみません」と言ったりする。「なぜ日本人は、それほど謝るのか?」と問われたら、あなたはどう答えるだろう。

日本に生まれ育てば「当たり前」のことが、海外メディアの記者の目を通せば「謎」になる。そんなケースは少なくないようだ。本書『海外メディアは見た 不思議の国ニッポン』は、米ニューヨーク・タイムズ、仏ル・モンドをはじめ世界の有力メディアから厳選した記事を紹介するウェブメディア「クーリエ・ジャポン」より、近年の日本社会の謎に迫る記事を集めたもの。「なぜ生産性が低いのか」「なぜ年上がエラいのか」「なぜ自殺率が高いのか」など、日本人自身も知りたい謎の数々に、鋭く切り込んでいる。

「ファクス」はなぜ続くのか

例えば、インターネットの普及の一方で「ファクスがなくならない謎」。国内でも話題になったが、米ワシントン・ポストは、新型コロナウイルス大流行の最中、日本の行政がファクスに頼っているせいで医師や保健所が疲弊していると紹介。日本でファクスがなくならない背景に、手書きの文字に対する「畏敬の念」や、漢字をはじめ「何千字も使う複雑な書き言葉の存在」などを指摘する。文化的な理由とはいえ、対策は急務だ。

バレンタインデーの「義理チョコ」を深読みする記事もある。英フィナンシャル・タイムズは、職場で女性社員が配る義理チョコに、同調圧力や日本特有の「集団心理」を見出し、こうした「しがらみ」が過労死やマタニティ・ハラスメントなどの原因だと指摘する。では、どうすればいいのだろうか? 男性社員も、共に考えるべきテーマだろう。

老舗に見るSDGs時代のヒント

日本にポジティブな目を向ける記事もある。一例が、米ニューヨーク・タイムズから、創業1000年をこえる京都の餅屋「一和」(一文字屋和輔)について、「学ぶべきものがある」とする記事。1000年生き続けるためには、利益だけを追求することはできないという創業家の言葉を紹介している。一和でいえば、近くの神社への参拝客を「おもてなしする」という使命感が、経営を支えてきたという。世界的にSDGs(持続可能な開発目標)が注目される中で、老舗の経営には、日本人自身も学ぶべきヒントがあるだろう。

海外メディアの報道を介することで、初めて気付くことがある。冒頭の謝罪の話に戻れば、日本人の謝罪は「暗黙の感謝の表現」との説明に納得した。仕事の休暇をとる際、上司や同僚に「すみません」と謝る。そこには、感謝の気持ちが含まれる。銀メダルの選手の謝罪には、無念や謙遜に加えて、支えてくれた人たちへの感謝があったと想像できる。

本書には、日本人では気づきにくい、日本や日本人の長所・短所が多く登場する。それらを知ることで、日常生活の中にも新たな気づきが生まれそうだ。

海外メディアは見た 不思議の国ニッポン

『海外メディアは見た 不思議の国ニッポン』

  • クーリエ・ジャポン 編
  • 講談社(講談社現代新書)
  • 2022/02 252p 990円(税込)
前田 真織

情報工場 エディター 前田 真織

2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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