人的資本経営の時代➌株式会社リクルート

提供:株式会社グロービス

リクルートが実践する
人材開発の
取り組みとは?

内発的動機を大切にした自律的な学びの機会を提供

メインビジュアル

企業を取り巻く産業構造や少子高齢化に伴う労働力構造の変化が進む現在、多くの企業が従業員一人ひとりのキャリア観に基づいた多様なワークスタイルを選べる「働き方改革」を推進するようになってきた。それと時を同じくして、人材を“資本”と考え能力を最大限に引き出すことで企業価値を向上させる「人的資本経営」の時代が到来し、人材開発の在り方も大きく様変わりしつつある。そうした時代に合わせた先進的な人材開発の取り組みを進めているのが、リクルートだ。同社はどのような人材開発の取り組みを進めているのか。リクルートで人材・組織開発を担当する堀川拓郎氏と、法人向け人材サービスを展開するグロービスの井上陽介氏が意見を交わした。

内発的動機を大切にする人材開発が、
個人や組織のパフォーマンスを向上させる

写真:堀川 拓郎 氏

株式会社リクルート
スタッフ統括本部 人事
人材・組織開発室 室長
ヒトラボ ラボ長
堀川 拓郎

―― 人材開発を支援するグロービスの視点から、いま企業は人材開発に関してどのような課題を抱えているとお感じですか。

井上 先日、国内大手電機メーカーの元社長から、「いまは“超競争”の時代だ」という話を伺いました。かつては3年、5年先を見据えて事業や組織を変革するような時代でしたが、競争が激化した現在は常に変化し続けなければ生き残れない時代だということです。私もまったく同じ意見です。

 そうした“超競争”を生み出している要因の一つが、急速なデジタル化です。事業のあらゆる領域にデジタルが浸透するなか、リアルで提供している製品・サービスや顧客体験をどのようにデジタル化していくかというのが、いまの企業が直面している大きな課題となっています。その課題を解決していくには、会社組織のなかに高度なデジタルスキルを持って新しいビジネスを発想できる人材が欠かせません。また、そうした人材と連携しながら変革を推進するリーダーも必要です。このように組織全体の能力を高める人材を開発していくことが“超競争”の時代を乗り切るために不可欠ですが、人材開発を担当する人事部門の施策がなかなか追いついていません。ここにも企業の課題があると考えています。

写真:井上 陽介 氏

株式会社グロービス
グロービス・デジタル・プラットフォーム
マネジング・ディレクター
井上 陽介

堀川 いまが“超競争”の時代だというのはとても興味深い話ですね。リクルートは創業以来60年以上にわたって事業や組織を絶えず変革してきた企業であり、「今日の常識」を常にアップデートし続けながら、変化に強い組織や個人をつくることを大事にしてきました。また、競争よりも“協創”を強く意識しており、2021年4月に国内のグループ7社が統合した際には、新会社を従来の事業会社や事業領域、社内外の垣根を超えた協働・協創を加速させる「CO-EN」のような場にするという構想を掲げました。CO-ENとは「出会い(Co-Encounter)」と「公園」を掛けた言葉であり、自由に自律的に働く個人が集まって新しいことに挑戦し続け、変化に強い会社にしようという決意を込めています。

 この会社統合の前は、各事業会社が自社のマーケットに最適なビジネスを展開することに注力していた縦割り組織だったため、事業会社間の連携や知の交換が十分ではありませんでした。そこでグループ全社の人材を新しい会社に再結集し、新しい価値を生み出すことを狙ったわけです。自由に自律的に働く個人を統制するのは容易なことではありませんが、個人個人が仕事を通じてどのような貢献ができるのかを考え、実践していくという内発的動機を大切にする人材開発を推進することが、個人や組織のパフォーマンスの向上につながると考えました。

従業員がパフォーマンスを発揮できるよう
学ぶ機会を提供する自律型の人材開発

―― 統合後の人材開発や人材マネジメントにはどのような変化がありましたか。

堀川 まず会社が統合するタイミングで、「私たちはどういう組織を目指すのか」という議論を徹底的に行いました。リクルートはもともと「価値の源泉は人である」という考え方を大切にしてきましたが、この土台を変えることなく「個人に求めるもの」と「会社が提供するもの」を再整理しました。新しい会社は従業員数約1万7000人という規模であり、いろいろな働き方、雇用形態の従業員が在籍しています。こうした多様な従業員に対して、一人ひとりが自身の強みを開放し、所属するチームの中で強みを持ち寄り、個人では成し遂げられない進化を実現することを目指しました。それに対し、会社からは「能力をいかんなく発揮できる機会や場を提供すること」「安心安全で働きやすい環境をつくること」「成果に応じた報酬をきちんと支払うこと」を約束しました。

 統合後の人材マネジメントには、変更ポイントが三つあります。一つ目は、人材マネジメントの意識を個人からチームへと変更したことです。異なる才能をもった人たちが集まり、チームを組んで成果を出すことが重要だと考えました。

 二つ目は、弱みを埋めるよりも強みを伸ばすことを重視するようになったことです。従来の人材マネジメントでは、課題を克服するところに目が行きがちでしたが、それでは平均的な人材だけになってしまいます。個人の特長を生かして強みを伸ばすことに重きを置くことにしました。

 三つ目は、会社は個人の成長を定義せず、個人がやりたいこと、目指す方向への成長を支援するようにしたことです。従業員一人ひとりがどんなキャリアを積みたいのかを明確にし、それに対して会社がそれを支援するさまざまな提案を行うように変更しました。人材開発を担当する私たちの役割は、そうした多様な働き方をする人たちが働きやすく、内発的動機に基づいたパフォーマンスを発揮しやすいような環境づくりをすることです。

井上 いまは多くの企業がビジネスモデルを見直す時期にあると私は見ています。かつては強い営業マンがいれば業績が伸びるという時代でした。それが現在は、お客さまとの長期的な関係を築き上げていくことが重要であり、そのためにはチームで価値を創出することが必要です。多くの人たちを巻き込んでいくコミュニケーション力や、新しいビジネスモデルの在り方を発想する力をもった人が求められていると感じています。

 そうしたビジネスモデルの変化に対応するために、人材開発のトレンドも変わり始めています。2000年代の研修といえば、ほとんどが階層別研修でした。ところが近年では、会社の将来を担う人材の育成や、自律型の人材育成にシフトしてきています。成長意欲の高い個人に対してキャリア開発への意欲を引き出し、学ぶ機会やチャレンジの場を提供するというのが人事部門の役割になってきています。

リクルートの人材マネジメントポリシー
リクルートの人材マネジメントポリシー

場所や時間の制約を受けずに
自律的に学べる「GLOBIS 学び放題」

―― リクルートではそうした人材開発の施策として、具体的にどのような取り組みを進めていますか。

堀川 まず、従業員一人ひとりに「自分は何に関心があり、どこに強みがあって、どんなことにチャレンジしたいのか」という自己理解を深めるためのMBO(目標管理)シートを記入してもらい、それをもとに上長と面談をして会社が個人の目標達成に向けた機会を提供するようにしています。ここで大切にしているのは、直属の上長だけに人材開発を委ねないということです。人材開発委員会という従業員の育成について議論をする場があるのですが、従業員から見たときに2階層上の責任者や、隣の組織の組織長も会議に参加し、複眼的に見立てを行い、育成議論を行うようにしています。さらに、自律的に学ぶ機会を創出するためにRBC(リクルート・ビジネス・カレッジ)オンラインというオリジナルの研修プログラムも展開しています。このRBCオンラインの研修コンテンツの一部には、場所や時間の制約を受けずにすべての従業員が自律的な学びの機会を提供するために、グロービスの「GLOBIS 学び放題」を採用しました。

 これらの施策を基本に人材開発を進め、ほかにもマネージャー向けのマネジメント研修、現場リーダー向けのトラディション研修などを実施しています。リクルートは人材開発にかなりの時間を費やしており、例えば役員や組織長が人材開発にあてる時間は年間300時間にも及んでいます。

井上 「GLOBIS 学び放題」はリクルート以外にも多くの企業で活用されています。例えば、ある自動車メーカーでは、ビジネス全体を横断的に考えられる専門性を持ったエンジニアを育成するための学習プラットフォームとして利用され、毎年数百人規模の従業員が自律的な学習に取り組んでいます。

 また、ある大手インターネット企業では、デザインシンキングやビジネスプランニングといった従業員がチャレンジしたい業務への理解を深めるための学習プラットフォームとして「GLOBIS 学び放題」を活用しています。同社がユニークなのは、社内SNS上に「GLOBIS 学び放題」を利用する従業員のコミュニティーが形成されており、個人がどんなコースで学び、それをどのように実践に役立てたかという議論が活発に交わされています。個人の自律的な学びを、「組織能力開発」につなげているわけです。

堀川 いまのお話で、組織能力開発に取り組むことの重要性を改めて感じました。従業員一人ひとりの自律的な学びがチームに還流されることでチームそのものがアップデートされ、さらに個人の学びを促すという好循環のサイクルをつくり出すというのは、リクルートが目指す強いチームづくりにもつながるものです。

井上 自律的に学べるということに加えて、「GLOBIS 学び放題」が組織の共通言語になるという側面もあります。例えば、営業担当とエンジニアなど異なる職種の人が、クリティカル・シンキング、マーケティング、アカウンティングといった同じコンテンツを学んでおくことで共通のナレッジ基盤となり、コミュニケーションがとりやすくなるということも大きな価値だと思います。

オンラインとオフラインが混ざり合った
ハイブリッドな学びの機会を提供するグロービス

―― リクルートの今後の人材・組織開発の取り組みに対する展望をお聞かせください。

堀川 まず、いま私たちが人材開発の方針として掲げる「強みを伸ばし、強みを生かし合う関係をつくる」ことにさらに注力していきたいと思っています。個人の自律的な学びがチームに進化をもたらすことを期待しているわけですが、実際にはそれぞれ異なる強みを持った人たちが一つのチームに集まって成果を出すのはとても難しいことです。最初は個性のぶつかり合いから生産性が上がらないこともありますが、チームのパフォーマンス向上に結び付けるためにチャレンジし続けます。

 もう一つ、OJTとOff-JTを行き来しながら成果を出すために仕事の中で生まれたナレッジを蓄積し、それを学ぶような仕組みを構築することで人材開発の施策を個人や組織のケイパビリティー向上や事業貢献に役立ていこうという展望も描いています。

井上 グロービスは創業30年を迎え、これまでに累計で約6000社に及ぶ企業の人材開発をお手伝いしてきました。このなかにはリクルートのように先進的な人材開発に取り組んでいる企業もあれば、発展途上段階にある企業もありますが、いずれの企業にとってもオンラインとオフラインの両方が混ざり合ったハイブリッドな学びの機会が必要とされていると認識しています。グロービスでは今後も、「GLOBIS 学び放題」をはじめとするデジタルを活用した人材開発と、選抜型や管理職育成などの研修サービスの双方に投資し、企業の人材開発をご支援してまいります。

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 「グロービス経営大学院(MBA)」など人材育成・組織開発を手掛けるグロービスが、MBAで培ったノウハウを生かした独自のカリキュラムで構成する定額制の動画学習サービス。スマートフォンやPCから、いつでも、好きなだけ学習できる。

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