スマートシティ エキスポ ワールド コングレス(SCEWC)

提供:スマートシティ・インスティテュート(SCI–Japan)

ゼロカーボン・ウェルビーイング社会の実現へ

スマートシティエキスポワールドコングレス(Smart City Expo World Congress; SCEWC)の写真

世界最大級のスマートシティ関連イベントである「スマートシティエキスポワールドコングレス(Smart City Expo World Congress; SCEWC)」が2023年11月7〜9日にスペイン・バルセロナで開催された。今年のメインテーマは「都市新時代へようこそ(Welcome to the New Urban Era)」。世界140カ国・地域の800都市以上から1100超の企業・団体が出展した。来場者も2万5300人に達し、会期中は展示に加え講演や討論会も実施。脱炭素社会の実現や都市政策におけるデータ活用などスマートシティ経営の喫緊の課題について提言や議論が交わされた。

Smart City Expo World Congress

2011年からバルセロナ市新市街の展示会場「Fira Barcelona Gran Via」で毎年11月に開催している世界最大級のスマートシティ関連イベント。主催するFira de Barcelonaはバルセロナ市、カタルーニャ州政府、バルセロナ市商工会議所が出資する第三セクターだ。

23年は過去最大規模となり、展示面積は昨年比55%増、来場者数も23%増えた。マレーシアとインドネシアが初出展し脚光を浴びたほか、欧州委員会と国連人間居住計画(UN-Habitat)は広域市町村を対象としたプロジェクトを発表した。

このほかにもIT(情報技術)関連の民間企業やコンサルティング大手も参加した。今年は①「トゥモロー・ビルディング(建築)」②「トゥモロー・モビリティー(交通と移動)」③「トゥモロー・ブルーエコノミー(海洋環境と経済)」——の3イベントも同時に開催。焦点を絞ったテーマでディスカッションを展開するとともに、「パズルX」と名付けた最先端テクノロジーの紹介の場も設けた。

会場外観

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脱炭素へデジタルツイン活用

8トラックで会議を開催

展示と並行して開催されたコングレスは「実現可能な技術」「エネルギーと環境」「移動と交通」「ガバナンスと経済」「生活とインクルージョン」「インフラと建築」「安全とセキュリティー」「ブルーエコノミー」の8トラックで構成。各トラックで講演やパネルディスカッションを実施した。8トラックに共通して取り上げられた課題もあり、その代表例が「ゼロカーボン都市の実現」だった。

都市部の環境対策、脱炭素が不可欠

オープニングセッションでは欧州イノベーション・技術機構(EIT)のマリア・ツァバキディス都市交通部門最高経営責任者(CEO)が登壇した。同氏は「欧州は温暖化ガス排出量を30年までに1990年比で55%削減する目標を掲げている。また2023年9月には欧州議会が空気清浄度を35年までに世界保健機関(WHO)の大気汚染指針に適合させる方針を採択した。これらは非常に野心的な目標だが、都市交通手段の技術革新などで達成は可能」と強調した。

続いて英国の元気候・エネルギー担当大臣クレア・オニール氏が「都市の脱炭素を推進する政策とパートナーシップ」のテーマで登壇した。同氏は「1950年に都市圏で生活していた人口は世界で7億5000万人にすぎなかったが、今は約42億人。2050年までに60億人に達する見込みだ」と指摘。「都市部での環境対策が脱炭素化には不可欠」と指摘した。

会場の写真
つくば市の五十嵐立青市長(右から2人目)も登壇し、自治体でのデータ活用方法に関して説明した
街づくりは市民参加がカギ

脱炭素を推進するツールとして、現実世界を仮想空間で再現する「デジタルツイン」やビッグデータ分析、人工知能(AI)などスマートシティならではの技術を挙げる声が多かった。

「デジタルツインと都市データ」と題した討論会に出席した独ミュンヘン市議会議員兼最高デジタル責任者(CDO)のローラ・ドルンハイム氏はミュンヘン、ハンブルク、ライプチヒの3市が共同で進める「Connected UrbanTwins」プロジェクトを説明。同プロジェクトでは交通関連データや熱検知カメラがとらえた建物周辺の温度情報など多様なデータを収集し、仮想空間で新たな道路や建物を建設した際にどの程度の温暖化ガスが発生するかなどを事前検証できる。さらに温暖化ガス削減や景観保存につながる都市計画も可視化された形で立案できるという。ドルンハイム氏は「こうした施策が成功するカギはオープンデータにして市民も街づくりに参加できるようにすることだ」と強調した。

データ収集には課題提示が必要

地元のバルセロナ市もブースを構え、データを活用した脱炭素戦略などをPRした。

同市は13年から市内データの収集プラットフォームを設け、交通渋滞や駐車スペースの利用状況、ゴミ収集量など様々なデータを蓄積してきた。データは既に行政施策に活用されているが、「今後はデジタルツインやAIによる分析に生かし、ゼロカーボンな街づくりを進める」(同市情報局イノベーション担当ディレクター ジョルディ・シレラ氏)という。

プライバシー保護の観点から国や自治体による市民のデータ収集を不安視する声も一部である。「データは政策決定を変革するか」と題したパネルディスカッションに参加した五十嵐立青茨城県つくば市長はこうした指摘に対し、「市民にまずイシュー(課題)を示し、そのイシュー解決のためにデータが必要。その結果、ソリューションが生まれるというサイクルを説明することが重要だ」と発言し、他の出席者から賛同を得た。

会場の写真
「トゥモロー・モビリティー」という併設イベントが開催されたため、交通・移動関連の展示も目立った

欧州の技術革新ハブに頭脳流入

デジタルノマドも
積極誘致

11年からSCEWCを開催し、デジタル技術を駆使した街づくりで世界の先頭集団に位置するバルセロナ市。それを根底で支えるのは、国内外から集まる優秀なIT関連人材だ。既に市民の25%が外国籍保有者だが、今後も海外人材を積極的に誘致するために市が進めている政策が「360度プラン・フォー・インターナショナル・タレント」だ。

起業家、投資家、高度な専門技能者、リサーチャー、大学生などに加え、場所・時間・組織にとらわれない働き方をするデジタルノマドも同プランの対象だ。「世界中の都市間で人材争奪戦が起きている。それを勝ち抜くための目玉政策」とバルセロナ市経済局国際広報課長のジュディス・ロメラ氏は強調する。

バルセロナでの就労を検討している人は「バルセロナ・インターナショナル・ウェルカム・ウェブサイト」で移住の基礎情報を収集できる。さらに詳細な情報を入手したければオンライン個別面談も可能だ。「住居、子どもの学校、税金やビザ取得などの情報をきめ細かく提供する」(ロメラ氏)。

バルセロナ移住後もサポートは続き、セミナーなどを通じて現地での人脈を広げる機会も提供する。年1回は「バルセロナ・インターナショナル・コミュニティー・デイ」と称したイベントを開催し、移住者が現地コミュニティーに円滑に溶け込めるよう配慮する。「人を引き付けるには不断の努力が必要。定着した人がさらに友人・知人など才能ある人を呼び込んでくれる好サイクルを実現したい」とロメラ氏。

また、バルセロナにはバルセロナ・スーパーコンピューティング・センターやデジタル先端医療のバルセロナ・ヘルス・ハブ(BHH)など国際競争力のある研究開発拠点が多い。市の誘致策と相まって、世界からの「頭脳流入」が加速しそうだ。

会場の写真
バルセロナ市はSCEWC会場にもブースを開設し、スマートシティ関連施策をアピールした
サン・パウ病院の写真
BHHが拠点として活用している世界遺産の建造物、サン・パウ病院

日本の自治体施策に注目集まる

スマートシティ・インスティテュート(SCI-Japan)は、昨年に続いて2回目となる日本パビリオンを開設。内閣府地方創生推進事務局(スーパーシティに選定したつくば市、大阪府・市と共同出展)をはじめ、自治体、企業、研究機関など前年比約50%増の25社・団体が出展した。出展関係者・SCI-Japanの視察研修プログラムに参加した人数は計192人となった。東京都は日本パビリオンと連携しながら、独立ブースを初出展した。

官民連携をアピール

日本パビリオン内で最大ブースのNECは国内・海外の製品・システムの納入実績を紹介。例えば、グリーン領域で富山大学と進めている人工知能を活用した画像解析による高品質リサイクルアルミ製造過程での不純物除去技術を発表した。

また、めぶくグラウンドは前橋市などで展開する、ダイナミックオプトイン機能を備えた本人デジタル証明の仕組み「めぶくID」を紹介した。

東京都はスマートシティの先行実施エリアの取り組みやインフラ事業などの施策を幅広く展示。特に環状7号線地下広域調節池での治水技術に海外視察者は高い関心を寄せた。

横浜市は、環境省の脱炭素先行地域事業に選定された「みなとみらい21」地域の取り組みを紹介したほか、SCEWCの翌週に横浜市で開催した国際会議「Y-SHIP 2023/第12回アジア・スマートシティ会議」をPRした。

初出展の名護市から参加した渡具知武豊市長は、日本パビリオン内のシアターで講演。産官学民協働によるまちづくり「響鳴都市」の構想を発表した。国土交通省が主導する3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「プラトー」のブースも脚光を浴びた。

会場の写真
「めぶくID」を紹介するめぶくグラウンドのブース
会場の写真
シアターで講演する名護市の渡具知市長
会場の写真
SusHi Tech TOKYOというスマート東京のスローガンを掲げた東京都ブース
会場の写真
NECブースには多くの海外視察団が訪れ、海外メディアの注目を集めた
海外と都市間協働推進

会期中に台湾のスマートシティ関連団体とSCI-Japanが協力の覚書(MOU)を締結した。そのほかにも韓国、英国、EU諸国、インドネシアの視察団やスペイン政府の閣僚が日本パビリオンを訪問するなど、今後の海外との都市間協働推進に期待が高まった。

会期2日目に開催された日本スペイン友好“Sake&Cava"レセプション「パデルナイト」では、スペイン発祥のスポーツ「パデル」を通じた住民の幸福感向上、日西間の都市間交流の提言があった。SCI-Japanエグゼクティブアドバイザーであるインターネットイニシアティブ(IIJ)の村林聡副社長は「世界に発信することで日本の技術が世界標準になっていく」と、SCEWCへの参加の意義を語った。

日本パビリオンの主な出展団体と 展示内容展示内容
団体・企業名取り組み内容
東京都 「スマート東京」の実現を目指す。“つながる東京”“街のDX”“都庁のDX”の3本柱を掲げ、官民連携のもと、東京全体のスマート化を推進。
内閣府
地方創生
推進事務局
スーパーシティ型国家戦略特区(つくば市、大阪府・市)において、規制改革と併せ、データ連携基盤を活用して複数分野の先端的サービス実現を目指す。
京都府 大阪・関西万博の開催に合わせ、けいはんな学研都市において科学技術と文化学術が融合した「けいはんな万博」を実施し、スマートシティの取り組みを促進。
ジェトロ京都 京阪神地域のスタートアップ企業の成長を促進し、地域・世界の課題解決を図る。今回はNeuralPort、CONNEXX SYSTEMS、PEEL Labと出展。
横浜市 エネルギー関連事業者など34社と取り組んできた実証事業をもとに、エネルギーの地産地消の推進、エネルギーの効率利用や防災力の向上を目指す。
沖縄県 名護市 人や企業が集まり活気あふれる地方都市の理想像「“響鳴都市”名護」実現のため、デジタル技術を活用したまちづくりを行う。
茨城県 境町 自動運転バス、ドローン物流、などのデジタル技術を活用したまちづくりで、子育て世代や高齢者が住み続けられる街を目指す。
めぶくグラウンド 本人による情報提供の同意をON/OFFできるダイナミックオプトイン機能を備えた本人デジタル証明の仕組み「めぶくID」を展示。
JAXA 衛星地球観測コンソーシアム「CONSEO」に参加する企業や大学などに地球観測データを提供し、まちづくりに生かす取り組みを行う。
PLATEAU インフォ・ラウンジと山手総合計画研究所が、XR(クロスリアリティー)技術を用いた住民も参加可能な体験型の都市設計ツール「Tangible Interface XR」を展示。
NEC 国内・海外にて、行政から生活者サービスまで幅広い分野のサービスを展開。データ活用を通じた新たな価値創出、およびグリーン領域含め持続的なまちづくりに取り組む。
NEC
ソリューション
イノベータ
AIやバイオ技術を活用し未来の疾病リスクを解析するデジタルヘルスケアサービスを提供。また住民一人ひとりに必要な情報を届けるポータルも提供。
アビーム
コンサルティング
産業主体でのスマートシティ支援サービスなど提供。“スマートコミュニティ”を掲げ、地域住民のQOL向上に貢献する地域インフラのスマート化を目指す。
インターネット
イニシアティブ(IIJ)
クラウド・ネットワーク・IoTを組み合わせ、様々な分野におけるスマートシティを実現するエッジコンピューティング基盤「DX Edge マイクロデータセンター」を提供。
H-UTokyo Lab.
(日立東大ラボ)
東京大学と日立製作所の共創プロジェクト「日立東大ラボ」では、「Urban Well-being」をコンセプトにしたスマートシティに関する研究成果を出展。
Eukarya 「Re:Earth」を東京大学渡邉英徳研究室と共同開発。時系列浸水データを用いた3D避難経路シミュレーションマップ等を展示。
ProPadel Japan スペイン発祥のスポーツ「パデル」の普及を通じた地域住民、コミュニティー間のエンゲージメント、Well-Being向上と日西間をはじめとする都市間交流推進を提言。

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一般社団法人
スマートシティ・インスティテュート
(SCI–Japan)

smart City Institute Japan

日本のスマートシティを推進するナレッジ&産官学民共創プラットフォームとして、2019年10月に設立。企業、自治体、大学・研究機関、国内外の政府関係機関など約700の会員数を誇る。地域のWell-Beingを計測する地域幸福度(Well-Being)指標を開発し、デジタル田園都市国家構想のもと政府と連携しながら自治体への普及活動を進めている。海外事業の柱であるバルセロナSCEWC日本パビリオンの推進にあたり、主催者であるFira de Barcelonaと戦略的パートナーシップおよび日本の代理店としての契約を締結した。

お問合せ先  SCI–Japan事務局