提供:Splunk
Splunk Services Japan合同会社 西尾龍彦 氏 × 株式会社カインズ 菅武彦 氏

カインズECサイト

全面リニューアル
成功要因

チーム意識改革

稼働・利用状況のリアルタイム監視が
顧客体験向上へつながる

グループ企業29社全体の年間売上が1兆円を超えるベイシアグループの中核企業の1つで、各地にホームセンターを展開するカインズは、2021年8月にECサイトを全面リニューアルした。目指したのはストレスフリーでショッピングができることだ。しかし、いくつものシステムとの連携が求められ、その実現は容易ではなかった。何度も頓挫しそうになりながらも成功にこぎつけた背景には何があっただろうか。同プロジェクトを指揮したデジタル戦略本部の菅武彦氏と、監視ツールの導入を支援したSplunk(スプランク)の西尾龍彦氏に話を伺った。

デジタル化推進のために
内製化に大きく舵を切る

 “第3の創業”を目指して2019年に3カ年の中期経営計画「PROJTECT KINDNESS」をスタートさせたカインズは、「世界を、日常から変える。」をビジョンに掲げ、企業変革を推進している。その柱の1つに位置づけられているのが「デジタル戦略」であり、その中心となるのがECサイトだ。

カインズのECサイト
カインズのECサイト:https://www.cainz.com/
株式会社カインズ デジタル戦略本部 システム統括プロダクト開発部 部長 菅 武彦 氏
株式会社カインズ
デジタル戦略本部
システム統括プロダクト開発部 部長
菅 武彦

 同社のデジタル戦略本部 システム統括プロダクト開発部 部長の菅武彦氏は「以前からECサイトを運営していましたが、外部に委託していたために機能を追加するのに時間も費用もかかり、やりたいことができない状態でした。そこで2018年頃からリニューアルを検討してきました」と当時のECサイトの課題を語る。

 しかし、当時はエンジニアの数も少なくベンダー依存が大きかったため、プロジェクトは難航した。一旦検討を停止し、デジタル人材を採用して内製化の体制が整った2020年4月頃から半年間かけて要件を再定義し、2020年10月に再スタートした。

 2021年8月の本稼働に向けて再スタートしたプロジェクトだったが、課題は山積していた。「私自身は直接担当していなかったのですが、メンバーたちはすごく大変そうでした。はたから見ていて“このままではリリースに間に合わない”と危機感を覚えました」と菅氏は振り返る。

 思い悩んだ菅氏はこのプロジェクトを救うべく自ら手を挙げる。そこにあったのは「やっと動き出したデジタル化への取り組みをここで止めてはいけない」というデジタル人材としての使命感と、同社がこれからも成長を続けるためにはデジタル化が不可欠という強い想いがあった。

広がった開発要件を絞り込み、
コミュニケーションを強化

 菅氏がプロジェクトの指揮をとるようになって断行したことは大きく2つ。1つは膨らみすぎていたシステム要件を絞り込むことだ。商品情報や在庫情報を持つ既存の基幹システムとの連携をスムーズに行うために設計変更に着手した。

 もう1つはコミュニケーション面だ。当時リニューアルに関わっている人員は約70人で、新型コロナウイルス禍により会議はすべてオンラインで行われていた。しかし、人数が多いために時間を調整することが難しく、開催されても各担当の進捗報告に終始していた。これではスピーディーに課題を解決することはできない。

 そこで菅氏が同社の執行役員CDO兼CIOでデジタル戦略本部本部長も兼務する池照直樹氏に提案したのは、リーダーによるデイリーミーティングを開催することだった。全員を集めて間隔を置いて会議を開くよりも、キーマンだけで毎日会議を行うほうがスピーディーに課題を解決できると考えたからだ。

 菅氏の改革により、フォーカスは絞られ、スピード感を持って動き出したリニューアルプロジェクトだったが、菅氏には別の心配があった。ユーザーに対してストレスフリーなサービスを提供できているかどうかをモニタリングする仕組みがなかったことだ。

 例えば、アプリケーションを稼働させるプラットフォームには扱えるリクエスト数やデータ量に制約があり、上限を超えるとエラーになる。ユーザーに対して価格や在庫が表示できない状態に陥ってしまう。これでは目指すストレスフリーなサービスとは言えない。

 「ECサイト以外にも個別のサービスがいくつも稼働していることもあります。すべてを俯瞰して稼働状況や利用状況をリアルタイムに監視できる仕組みが必要と考えるようになりました」と菅氏。適切なソリューションを探していた菅氏の目に止まったのは、Splunkのデジタルエクスペリエンス監視のソリューションだった。

パフォーマンスを可視化、
監視することで
改善策を打つ体制を確立

 菅氏は「候補に上がっていた3社のソリューションを検討し、やりたいことにぴったりなのはSplunkだとすぐに確信しました」と話す。話を聞いたのはリニューアルオープンの1カ月前で当面必要なことはフロントエンドの監視だったが、後々ほかにも適用範囲を広げられることが実証実験でも確認できた。

 「実際に画面を見せてもらいましたが、使いやすそうなユーザーインターフェースで細かく計測ができ、結果がフローチャートで示されていました。いろいろな監視の方法もあり、これは使えると思いました。障害の原因が素早く特定できるとメンバーからも好評でした」と菅氏は当時の手応えを語る。

Splunk Services Japan合同会社 エンタープライズ営業部 第二営業部チームリード 西尾 龍彦 氏
Splunk Services Japan合同会社
エンタープライズ営業部
第二営業部チームリード
西尾 龍彦

 Splunk Services Japan合同会社 エンタープライズ営業部 第二営業部 チームリードの西尾龍彦氏は、システム構成や必要な機能をヒアリングしたうえでオブザーバビリティのソリューションを提案した。「求められている機能が具体的だったので適切なソリューションを提案できました」(西尾氏)。

 検討開始から1カ月というスピードで導入した監視ツールの効果はすぐに現れた。「リニューアルプロジェクトでは開発スピードを重視していたために、パフォーマンスに手が回っていませんでした。実際にSplunkで計測したところ、惨たんたる結果であることが分かりました」と菅氏は話す。

 パフォーマンスが悪いと検索サイトの評価も下がってしまう。同社ではすぐに原因を分析して改善策を講じた。その結果、10点台だった検索サイトの評価点が80点にまでアップした。

 テレビコマーシャルを放映したことで一気にアクセスが集中した際にも、モニター画面を常時チェックし、パフォーマンスが落ちてきたことを検知してすぐに修正することで元の状態に戻すことができたという。

経営陣のコミットメントが
デジタル化を加速させる

 クラウド活用が主流となっている今、エンジニアのパワーをアプリケーション開発に集中させたいと考えるのは当然だろう。稼働状況の可視化をSplunkという外部のツールで実現したことで、インフラ管理に割り当てる時間が短縮できることは大きなメリットである。

 しかし、メリットはそれだけではない。自らECサイトのパフォーマンスを計測し、原因を特定して改善策を打つというサイクルが確立できたことでエンジニアの意識も変わっていった。「パフォーマンスの変化だけでなくユーザーがどこでサイトから離脱するのかも分かるので、お客様の目線でチェックするようになりました」(菅氏)。

 ECサイトではちょっとしたレスポンスの遅れがユーザーにストレスを与える。ツールによってそれが見える化できたことにより、エンジニアがより快適な顧客体験を意識するようになったことはビジネス上の大きな成果につながるはずだ。

 ツールの導入を支援した西尾氏は「画期的なプロジェクトの一翼を担えたことは光栄だと感じています。今回はフロントエンドでしたが、これをきっかけにバックエンドにも監視の目を広げ、さらにはグループ全体に貢献していきたいと考えています」と意欲を語る。

 今回の成功の背景には“IT小売企業”を目指す経営層の強力なコミットメントがあることも見逃せない。「プロジェクトが頓挫しそうになって悩んでいたときに、本部長の池照から“失敗しても気にしなくていいからチャレンジしなさい”というメッセージをもらい、勇気づけられました」と菅氏は振り返る。

 デジタル化の加速には、目指すべき姿を明確にするとともに、経営層からの強力なコミットメントが必要である。そのうえでこそプラットフォームやソリューションを効果的に利用することができる。それが伝わってくる成功事例と言えるだろう。