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今月の特選

年金不安の正体

『年金不安の正体』

  • 海老原 嗣生 著
  • 筑摩書房(ちくま新書)
  • 2019/11 208p 858円(税込)

年金は破綻するのか? 年金制度を基本から知る

 「老後資金2000万円問題」が大きく取り上げられたことは記憶に新しい。連日報道されるニュースを見て、年金は破綻すると悲観した人も少なくなかったのではないか。だがそれは理解不足によるものと喝破するのが本書『年金不安の正体』。年金制度の基本的な知識を解説しつつ、日本の年金制度の枠組みやこれまでの経緯について調査。年金にまつわるよくある誤解や不安についての答えを明らかにしている。

 著者の海老原嗣生氏は雇用ジャーナリスト、中央大学大学院客員教授。人材・経営誌『HRmics』の編集長を務める。

年金制度への誤解が不安をもたらす

 まずは日本の年金制度についておさらいしておこう。日本の年金制度は、他の多くの先進国と同じように、現在の高齢者の年金を現役世代が負担する「賦課方式」だ。個々人が現役時代に年金を積み立て、高齢になってからその積立額を受け取る「積立方式」ではない。賦課方式では積立金も原則的に必要とせず、運用コストもかからない。要は「国と制度がある限り続く」方式だと著者は述べる。

 とはいえ少子高齢化の影響はもちろん大きい。原資の規模は縮小するにもかかわらず、支給対象者は増加するからだ。財源確保のため、保険料率が継続的に引き上げられ、さらに消費税の導入・税率アップが行われてきた。このまま負担が増え続けるのかと現役世代に不信感が募っているが、制度はどのように対応してきたのか。

 2004年の年金制度改革では、高齢世代への給付減のため、「マクロ経済スライド方式」が盛り込まれた。これは年金原資を年金受給者の数で割るもので、受給者が増えれば1人あたりの額が自動的に減るというもの。それでも100年後の2104年に所得代替率50%を加減の目途としている。同時に現役世代の負担増も盛り込まれたが、こちらも2018年度までの料率アップで固定化されている。

 また、本来賦課方式では必要ないほどの大きな積立金を日本は有しているという。制度初期、高齢者が少なく現役世代が多かったために膨大な余剰金が生まれたのだ。それを計画的に費消して、現役および後の世代の負担をできるだけ抑えようとしているのが現状である。つまり、現役世代の負担は増え続けるわけではなく、年金財政も今後は安定する、という予測なのだ。

現状を前向きに受け止める姿勢が大切

 制度への理解不足の他にもう一つ、年金不安の正体として著者が指摘するのが「日本人の心」だ。日本人は、負担や損失といった悪い面にだけ目を向けて不安に駆られている傾向がある、という。少子高齢化は本来、長寿を楽しみ活躍の場を広げていくことにもつながるはずだ。それによって支給開始年齢を遅らせれば受給額も増やせる。現状を前向きに受け止め、他世代のための負担を受け入れることが今後の社会に必要な姿勢なのだと説く。

 冒頭の2000万円問題も、20年以上前から総務省の公表資料で明らかなものだった。年金制度の意義を理解するためには、政策の経緯や今後の日本社会の動向を含めた、長期的な視野が求められるのだろう。やみくもに不安になるよりも、年金に限らず、お金の仕組みについてより積極的に学んでいきたい。

年金不安の正体

『年金不安の正体』

  • 海老原 嗣生 著
  • 筑摩書房(ちくま新書)
  • 2019/11 208p 858円(税込)
安達 貴仁

情報工場 エディター 安達 貴仁

情報工場エディター。主にDTP組版、ときどきカメラマンの傍ら、書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームでも活動。東京都出身。

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