副題にある「スパイス、石油、サーキュラーエコノミー」の共通点とは何だろう? 本書『資源争奪の世界史』を手に取る人はそう思うはずだ。これらはすべて資源争奪の歴史における「主役」である。
資源とは、石油や石炭など地下から取り出される化石燃料だけを指すのではない。本書では、「人間が働きかける対象となりうる事物」といった、より広い概念で資源を捉えることを提案する。そして、中世から現在のEU(欧州連合)の取り組みまで、資源をめぐる世界各国の攻防を俯瞰(ふかん)しつつ、資源の未来象を考察している。
著者の平沼光氏は、東京財団政策研究所研究員。現在同研究所の資源エネルギープロジェクトでリーダーを務めている。
かつて、スパイスもひとつの資源だったと著者は見なす。中世、ヨーロッパの人々は胡椒(こしょう)やクローブ(チョウジ)、ナツメグなどのインド・インドネシア原産のスパイスを手に入れるには、イスラム商人を経由するしかなかった。そのため希少性が高く高価で、胡椒の価値は金と同等だったという。
この状況を変えたのが、コロンブス、バスコ・ダ・ガマといった冒険家だ。彼らの航海を通してスパイスの原産地が知られ、胡椒などを安価に手に入れられる「スパイスロード」と呼ばれる航路の発見に至る。こうして各国がスパイスを争奪する「スパイス戦争」へと突入していくのだが、この航路の開拓には、造船技術の進化が一役買っている。積載力が高く、長期間航海可能な船を造れるようになったからこそ、大航海が可能になったのだ。
その後、1770年にフランス人提督が、アフリカ大陸東沖のモーリシャス島でクローブとナツメグの栽培に成功することで、スパイスを巡る争いは終わる。つまり、造船技術がスパイス戦争を引き起こし、植物栽培技術がその争いを終結させたのだ。
現在、主導権を巡る争いが繰り広げられていると著者が注目するのが「サーキュラーエコノミー」だ。サーキュラーエコノミーとは、廃棄物を管理し、廃棄物から資源を再生し、再生資源で生産をする資源循環型経済のこと。EUでは、これを単なる環境政策ではなく経済戦略と位置付け、構築に力を入れている。
ただサーキュラーエコノミーを実現させるには、流通促進のために、廃棄物の管理や流通プラットフォームなど多くのルールを定める必要がある。実際にISO(国際標準化機構)でサーキュラーエコノミーの標準化内容が議論され始めており、WTO(世界貿易機関)加盟国は、原則として従わなくてはならない。このため、各国政府は自国の技術が標準化されることを狙っている。捨てられた廃棄物を資源として見れば日本も資源大国だ。サーキュラーエコノミーの流れは日本にとって見逃せないチャンスだと著者は説く。
技術の進化や人々の関心によって資源の意味は変わる。これからの争奪戦がどう移り変わるかを、本書とともに考えたい。