日東電王株式会社

「ニッチトップ戦略×Nitto流ESG戦略の実践」

#1 髙﨑秀雄社長インタビュー

「ニッチトップクリエーター」として、
なくてはならないESGトップ企業に

日東電工 髙﨑秀雄社長

日東電工 髙﨑秀雄社長

日東電工(Nitto)は、ESG(環境・社会・企業統治)を経営の中心に置き、Global Niche Top(グローバルニッチトップ)™戦略を推進している。シリーズの#1は、同社の髙﨑秀雄社長にインタビュー。Nittoが目指す「2030年のありたい姿」、Global Niche Top™戦略とESG戦略の融合と実践などを聞いた。

Nittoの「Global Niche Top™」
「見せる化」で実績・実現力を示す

――5月に発表した新中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」で、今回初めてニッチトップ製品の売上高比率目標を発表し、自社企業サイトで認定製品を開示しました。どのような意図があるのでしょうか。

髙﨑 「Global Niche Top™」という言葉は、Nittoが1990年代半ばに打ち出し、2002年に日本で商標登録しました。変化しながら成長する市場で「ニッチ」な領域を見つけ、他社と差別化することでシェアNO.1を狙うNittoの経営戦略です。「あったらいいな」ではなく、お客さまにとって「なくてはならない」製品や機能、ビジネスモデルを開発、提供しています。2010年代に入り、国や地域固有のニーズに応じた製品でトップシェアを狙うArea Niche Top(エリアニッチトップ)™戦略を始めました。これらニッチトップ製品が売上高に占める割合は、2022年で47%。2030年には50%以上を目指す計画です。

ニッチトップ売上高比率

これからは、言葉や概念だけではなく、実績と実現力をアピールすることにしました。どんな製品が世の中に貢献しているか、どれほど売り上げに貢献しているか。具体的な数字や一部製品の「見せる化」で、我々が意味するGlobal Niche Top™を理解いただくことが狙いです。

EVバッテリーのキーワードは「熱」
核酸事業、商用化時代を見据え強化

――新たに定めた3つの重点分野とそれぞれの戦略について教えてください。

髙﨑 「パワー&モビリティ」「デジタルインターフェース」「ヒューマンライフ」の3分野で攻めていきます。「パワー&モビリティ」で一番フォーカスしているのはEV(電気自動車)化です。中でもバッテリーが肝で、現状は固体電池、水素など業界全体で試行錯誤が続いています。我々は「熱」をキーワードに、安全性を確保しながら走行距離や充電時間の性能アップにつながるバッテリー周辺材料の提供を目指していきます。

燃料電池(FC)サブガスケット材、防錆・防湿テープ、LIBセル間断熱材、内圧調整材、車載ディスプレイ、絶縁材料

「デジタルインターフェース」では、主力製品の偏光板に加え、スマートフォンの高機能化に欠かせない高精度基板に注力しています。ディスプレーパネルで拡大を期待しているのは、透明粘着シートと偏光板を一体化させた「PWO(Polarizer with OCA)」と呼ぶ製品です。Nittoが全ての部材を積層して一括で供給することで無駄を省き、お客さまの環境価値と経済価値の向上に貢献します。

「ヒューマンライフ」では、新型コロナウイルスのワクチンにも貢献した核酸事業が、本来の創薬・商用化に向け大きく前進しています。商用化時代を見据え差別化技術を磨き、CDMO(医薬品の開発製造受託)体制を強化しているところです。「ヒューマンライフ」は、中間材料を扱う我が社にとって、社会に直接貢献できる数少ない領域でもあり、2030年度には営業利益比率を現在の1%から15%まで拡大したいと考えています。

ESGはコストではなく投資
「環境貢献製品」「人類貢献製品」

――昨年、ESGを経営の中心に置くと宣言されました。社内の反応はいかがですか?

髙﨑 最初は、ESGという言葉は理解していても、具体的にどうすればいいのか、コストがかかるだけでは、といった戸惑いがありました。そこで、ESGをコストではなく投資と捉え、適正な利潤を得て回収できるビジネスに育てようと考えたのです。その具体策が「環境貢献製品(PlanetFlags™)」「人類貢献製品(HumanFlags™)」という2つの指標です。これから開発する技術テーマは、どちらかの指標に入らないと認めないと宣言しました。お陰様で認定製品は昨年の5つから10製品に増えています。

ESGへの投資は、「未財務」と呼んでいます。将来、財務価値を生むポジションとみているからです。新中計では「未財務」の数値目標を9項目に増やしました。例えば、環境系の「未財務」では、既存の二酸化炭素(CO2)排出量に加え、廃プラスチックリサイクル率やサステナブル材料使用率の目標を掲げています。化学物質規制などの影響にも注意を払いながら、原材料の安定調達に向けた対策とともに、環境負荷の低減につながる提案をお客さまへ継続していくことが重要です。

髙﨑秀雄社長
髙﨑秀雄社長 
たかさき・ひでお 1953年大阪府生まれ。78年明治大学商学部卒、日東電気工業(現日東電工)入社。電子材料、光学材料など同社の幅広い部門を歩む。2005年日東ヨーロッパ社長、08年取締役、14年4月から現職。

3つの重点分野と交わる領域でも
変化する成長市場にフォーカス

――ESGとGlobal Niche Top™が両立する新事業を開発するのは難しそうです。

髙﨑 新事業の開発にあたっては、3つの重点分野の交わる領域でニッチトップが狙えると考えています。例えば「人類貢献製品」につながる、「デジタルインターフェース」と「ヒューマンライフ」が重なる領域では、患者さんへの負担の少ない高機能素材を生かしたデジタルデバイスなどデジタルヘルス事業を立ち上げたところです。

ほかにも、「人類貢献製品」候補として5G関連やフレキシブルセンサー、「環境貢献製品」ではCO2分離膜などの環境技術に注目しています。変化する成長市場にフォーカスし、知見を融合しながら、お客さまに「なくてはならない」と思っていただける事業を創出していきます。

新重点分野

2つのマーケティング戦略がDNA
アイデアのレベルアップ図る

――Nittoの強みとは? また、その源泉はどこにあると考えますか。

髙﨑 Nittoの強みは、新用途開拓と新製品開発に取り組むことで、新しい需要を創造する独自のマーケティング活動「三新活動」と、Global Niche Top™戦略がDNAとして根付いていることです。また、チャレンジする人を応援する風土が、強みにつながっているのではないでしょうか。スポーツ戦略でも特定の人やチームではなく、チャレンジする人全員を応援する。11月開催の、男子プロテニスの最終戦「Nitto ATP Finals」の協賛も、こうしたコンセプトからです。

社内では「Nitto Innovation Challenge」というアイデアコンテストを実施しています。4年目の今年も世界中から900件のアイデアが集まりました。最終審査に残ったアイデアには、技術マネジメント層を伴走者として付け、アイデアを煮詰めていく仕組みです。既に製品化への道筋がついたものもあるんですよ。こうした活動を継続することでアイデアの底辺を増やし、レベルアップしていきたいですね。

Nitto Innovation Challenge

――日経電子版読者にメッセージをお願いします。

髙﨑 新中計で、2030年のありたい姿を「なくてはならないESGトップ企業」としました。目指す姿の実現に向け、ESGを経営の中心に置き、これまで実績を積み重ねてきたGlobal Niche Top™戦略をさらに進化させていきます。真の「ニッチトップクリエーター」として、社会課題の解決と経済価値の創造の両立を目指すNittoに、今後もご期待ください。

※「Global Niche Top」「Area Niche Top」は、日東電工の登録商標です。

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