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TRAILBLAZERS 旭化成の若き開拓者たち

VOL.4 博士人財の活躍

アカデミアで培ったスキルを、
産業界で生かす

(左から)高田さん、伊勢田さん

(左から)高田さん、伊勢田さん

旭化成は創業以来、社会の変化を先取りして挑戦し、自ら変化を遂げてきた。100周年を迎えた2022年には「中期経営計画2024-Be a Trailblazer-*」を発表し、さらなる変革への道しるべを掲げている。同社で活躍する若き開拓者たち(Trailblazers)の姿を紹介する本シリーズの4回目は、「博士人財の活躍」がテーマ。大学院博士課程修了を通じて得たスキルやマインドを武器に、ビジネス分野でキャリア開拓に挑む2人に聞いた。

* Trailblazer:未開の地の木に道しるべとなる印を付ける人、先駆者

インターンシップで印象的だった
社員の主体性の高さ

――簡単な自己紹介と入社した動機を教えてください。

中学生の時、宇宙飛行士の毛利衛さんの講演を聴講したことをきっかけに、物理学の道を志しました。大学時代に実験主体の物性研究に取り組み、その後より興味を持った理論主体の研究テーマに変更し、博士号(ドクター)を取得しました。

旭化成に入ったのは、博士課程時代に「電子コンパス」の開発者である山下昌哉さんの部署でインターンシップを経験したのがきっかけです。そこで働く社員の方々が皆、主体的に動いていた姿がとても印象的でした。学生だった当時は、会社での仕事は上から降りてくるもの、というイメージを漠然と持っていたので、そのイメージが大きく打ち砕かれました。また、旭化成は化学分野のみならず、エレクトロニクス分野でもハードとソフト両方を手がけるなど事業領域が幅広いことも魅力に映りました。

大学・大学院時代は高分子・超分子化学の分野を研究していました。実は研究室を選択する際、明確にやりたいことが定まっていなかったので、研究に対してストイックな博士課程の先輩が多く在籍している研究室を選びました。妥協が許されないような厳しい環境に身を置くことで、一つでも多くの気づきを得たいと思ったからです。

アカデミアではなく産業界に進んだ理由は二つあります。取り組んできた基礎研究から一歩踏み出し、自分が研究した製品を世に出してみたいと思ったことが一つ。もう一つは研究生活を通じて重要性を痛感した「産学官連携」を推進させるには、産業界を知っておく必要があるという思いです。博士課程時代に大学が主催した企業交流会の場で、旭化成の人たちと出会いました。技術畑以外の方々とも価値観が合い、この会社であれば自分の軸を持って働ける環境があると感じ、迷わず入社を決めました。

伊勢田さん 監査役室

「産学官連携のためには、
産業界を知る必要がある」

伊勢田さん 監査役室

意外な部署を経験したことで
見える景色が変わった

――入社後、どんな仕事をしてきましたか。

2017年に入社後、配属されたのはまさにインターンシップでお世話になった山下さんがトップを務める部署でした。その部署のミッションは、最近生まれた技術や文化の先にどんなニーズや課題が生まれるかを想像し、ビジネスチャンスを探ること。私のテーマはロボットでしたが、今後普及が想定される中で、人は何を感じ、ロボットと共生していくには何が必要か、といったことを2年ほど追究しました。

その後、現在のマーケティング&イノベーションセンターへ異動して4年になります。こちらでも業務内容は引き続き新規事業開発なのですが、取り組み方が“社内にある新規事業開発チームの技術的支援”に変化しました。自分自身が取り組んだ経験を生かしつつ、リーン・スタートアップ的な考え方で、チームで仕事に取り組むようになったと思います。

私は2014年に入社し、まず研究・開発部門で4年間、自動車の窓ガラスなどに使われる高機能コーティング材料の研究に従事しました。その後、まったくの想定外だったのですが人事部に異動し、2年間新卒の技術系採用を担当しました。その中で、私が思う“博士人財・技術系人財の価値”や“真理を追究することの重要性”を、学生に対してはもちろん、大学教員の方々にも発信する活動を精力的に行いました。その後再びコーティング材料の研究開発に従事し、2022年6月からは監査役室に所属しています。自分では想像もしなかった部署でのキャリアを通して、博士課程の経験が自分の武器になっていることを実感しますし、本当に自分自身が成し遂げたいことの解像度が上がり、見える景色が大きく変わったと感じます。

物理学の研究で体得した
数学的思考法がプラスに

――博士課程修了までに培ったスキルが、今の仕事に生きていると思うのはどんなところですか。

物理学が直接仕事に役立つ場面は少ないかもしれません。しかし物理の研究プロセスで繰り返し使ってきた「数学的思考法」はプラスに働いている実感があります。また、答えが分からない問題に対するアプローチの仕方も役立っています。まずは事実とそうでない部分の仕分けから始め、文献探しなどを続ける過程で、自分なりの“知”を積み上げていく。博士課程も含め大学院時代の5年間で磨いてきた研究の素地が、現在の仕事にも応用できていると思います。

山本さん カーインテリア事業部 技術推進部

「素地を磨いた、自分なりに“知”を積み上げる力」

高田さん マーケティング&イノベーションセンター

私の場合は「仮説力」ですね。変化が激しい現代では、正しい答えを探るよりも、正しい問いを立てられるかが重要だと思います。研究は、問いを立て、それが正しいか否かを実験で検証する繰り返しです。その研究のアプローチは様々な部署で役立ってきました。修士・博士課程時代を振り返ると、うまくいかないことの連続でしたが、ひたすら実験データと向き合い、ゴールが見えない孤独な時期を乗り越え、何とか博士課程での成果を体系化し、博士論文という形にできた。この小さな成功体験が、人生の分岐点において未知の領域に一歩踏み出す後押しになっていると感じています。

現場の主体性を尊重し、
人の価値を信じる会社

今後、挑戦したいことや「旭化成らしさ」について感じることを教えてください。

旭化成は、マニュアルよりも“人”を重んじる会社だと感じることが多いです。もちろんガバナンスは重要で、ルールや方針の整備も年々強化されているのですが、会社全体の風土としては、現場の主体性を尊重し、社員を信じ、一人ひとりの価値を大切にしてきた。そういう人対人の基本的な信頼関係が根付いている気がします。

チャレンジしやすい環境でもあると思いますが、場合によっては難しいこともあります。私は会社全体を見渡す立場に身を置いてからますます、個々人の挑戦の気概をもっと生かし切る組織づくり、環境づくりをしていかなければならないと感じています。会社も大学も結局は人で成り立っており、人の価値をいかに最大化できるかがカギと考えているからです。

旭化成は号令一下で動くだけの会社ではなく、各組織が自律的に最善と考えることを実践しているように感じます。マニュアルを例に挙げても、私がいる部署では「業務効率向上のためにマニュアルは作成するが、それに縛られる人間にはなるな」というマインドで臨んでいます。マニュアルは手段であって、安全、品質、イノベーションなど、より上位の目的を忘れない、ということだと理解しています。今後は、現在の新規事業開発の業務をまだまだ頑張りたいです。過去、現在、そしてこれからの新規事業開発に取り組む人たち皆で、これまでの知見を共有し、世の中に“より価値のある事業”を生み出し続けられる土壌を形成したいです。

どのような環境やテーマであっても、興味が湧くなら何でも挑戦する価値があると思います。そこで全力投球し、うまくいかなければ次の方法を考えればよいだけです。立場や分野が変わると改めて気づくことは多くあります。アカデミアの世界では専門分野の変更は簡単ではないと思いますが、企業ではそれができるのです。そこが、産業界でキャリアを考える面白さかもしれません。

※記事内容は2023年12月時点のものです。