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TRAILBLAZERS 旭化成の若き開拓者たち

VOL.5 命を支えるバイオプロセス事業

製薬企業のプレミアムパートナーとして、
知恵結集させ成長加速

(左から)宮岡さん、ゲヒトマンさん

(左から)宮岡さん、ゲヒトマンさん

創業以来、社会の変化を先取りして挑戦し、自らも変化を遂げてきた旭化成。100周年を迎えた2022年には「中期経営計画2024-Be a Trailblazer-*」を発表し、さらなる変革への道しるべを掲げている。同社で活躍する若き開拓者たち(Trailblazers)の姿を紹介する本シリーズ5回目は「命を支えるバイオプロセス事業」をテーマに、バイオ医薬品の開発製造受託(CDMO)事業を展開するグループ会社の米Bionova Scientific(バイオノバ・サイエンティフィック)社で活躍する2人に話を聞いた。

* Trailblazer:未開の地の木に道しるべとなる印を付ける人、先駆者

人の役に立ちたいと
創薬の分野へ
化学の比重大きい
ダウンストリーム工程

――バイオノバで働くようになった経緯について教えてください。

私は大学の博士課程で、「ラマン分光法」という分析手法を生物試料に使う研究をしていました。これまで無機物の分析に利用されていた方法を生物学との新しい組み合わせで活用すると、それまで見ることができなかった現象を可視化できることを経験しました。就職活動では旭化成の人事担当者の熱量に圧倒されたと同時に、多角的な事業を手掛ける旭化成だったら、また何か従来にない組み合わせで新たなものを生み出せるのではと思い、入社を決めました。

2022年に旭化成グループとなった米バイオノバへの赴任は、自ら希望しました。海外の大学と共同研究をした時に、英語で発信される世界のあらゆる情報をそのまま英語で理解して研究がダイナミックに進んでいくのを目の当たりにして、そのアドバンテージを強く感じたためです。入社1年目から海外赴任を希望したことを覚えていた上司が、同社への赴任を後押ししてくれました。実はバイオノバの買収においても、少しだけ技術評価に関わっていたんです。バイオ医薬品の開発製造受託という分野に飛び込み、新しいことが学べるとてもいい機会になるとも感じていました。

宮岡さん バイオノバ社 バイオ製剤プロセス開発

「研究がダイナミックに進む英語圏へ。
入社時から海外赴任を希望」

宮岡さん バイオノバ社 バイオ製剤プロセス開発

子供の頃から料理が好きで、材料を熱したり混ぜたりする作業が似ている化学の分野には、自然と興味を持ちました。高校時代にはハイレベルの化学を学び、大学ではさらに化学にのめりこみました。勉強してきた化学の知識をどう活用するかを考えた時に、人の役に立てることに魅力を感じ、あえて創薬の分野を選びました。

バイオ医薬品を作る工程の中でも、後半の「ダウンストリーム(下流)」は生物学よりも化学の比重が大きいので興味を持ちました。大学の先生からバイオノバについて紹介され、双子の兄と一緒に就職しました。大企業よりも小さな企業の方が、いろいろな経験が10倍早く積めると思っています。

ユニークな分子の研究にワクワク
顧客と密に
情報交換しながら工程開発

――CDMOの工程には「アップストリーム(上流)」と「ダウンストリーム(下流)」があるんですね。

バイオノバでは、製薬会社のための抗体やタンパク製剤などのバイオ製剤の製造プロセスと、臨床試験のためのGMP(製造・品質の管理基準)製造を行っています。私はプロセス開発の「アップストリーム」チームで、細胞を培養する工程を担当しています。培養スケールを段階的に拡大しながら細胞を培養し、細胞が作り出した抗体やタンパク製剤が含まれるプロセス原料を「ダウンストリーム」チームに引き継ぎます。

宮岡さんがいるアップストリームのチームが作ったプロセス原料の溶液から、私のいるダウンストリームのチームが効率的に最終製剤に必要なものを抽出して純度を高めるという、精製工程の開発を担っています。5~8種類の機器ユニットを組み合わせますが、私が主に関わっているのはウイルス除去のユニットです。効果的な方法を特定するのは料理のレシピ作りにも似ていますね。旭化成が製造しているウイルス除去フィルターの試作品の性能を以前私たちが評価した経験もあったので、旭化成のグループ会社になったことには縁を感じました。

――どんなことに、やりがいを感じますか。

製薬会社の開発製造受託を行うCDMOという分野では、お客さんである製薬会社とのミーティングが週に1度くらいあり、日本の研究開発に比べると顧客との距離が近いと感じます。製薬業界の研究開発の最前線をうかがえることも非常に興味深いです。お互いに顔が見えるので、お客さんにいかに満足してもらえるかも、従来以上に深く考えられるようになりました。

一番大事なのは好奇心を満たすことですね。幼い頃は両親に1日中、何百もの質問をしているような子で、今も世界の仕組みが知りたいという思いがあります。バイオノバでは世界中のほんの数人しか見たことがないようなユニークな分子について研究しているので、世界の仕組みに迫れているようでワクワクします。

人の役に立てるということにもやりがいを感じます。私たちは患者さんのために1分でも早く研究を進めることが大事だと考えていて、いつもそのことが頭の片隅にあります。

ゲヒトマンさん バイオノバ社 バイオ製剤プロセス開発

「患者さんのために1分でも早く研究を進めたい」

ゲヒトマンさん バイオノバ社 バイオ製剤プロセス開発

目の前の現象の理解へ試行錯誤
リスク低減措置をとりながら実験

――仕事で困難なことはどんなことでしょうか。

アップストリームの工程開発では、生き物である細胞を扱っているので、思い通りに増えてくれなかったりわずかなストレスで生産性が下がってしまったりします。時にはチームで議論し、全員で原因特定に努めます。お客さんのスケジュールに合わせた納期がある仕事なので責任重大ですが、さまざまなリスク低減措置をとりながら実験に臨んでいます。

英語という言葉のハードルもやはりあります。ネーティブ会話を聞き取るのは難しいですが、めげずに分からないことはその場で聞いて教えてもらいます。仕事の後や休日にも勉強しているので、受験生時代を思い出しますね。

ある時、溶液をどんなフィルターに通しても分子が凝集してしまって、フィルターが目詰まりを起こすことがありました。何カ月も実験を続けて、なんとかフィルターの目よりも小さい状態に分子を保つ方法を編み出しました。

ユニークな分子が相手だと論文やインターネットの情報が参考にならないこともあり、結局は目の前の現象を理解するために自分で手を動かす実験で試行錯誤を繰り返すしかありません。アイデアを出し合って議論をすることも大事ですね。私の場合は双子の兄と議論できることが解決策を探るのにも役立っています。

買収後も組織変わらず
互いの企業文化を受け入れる

――今後、挑戦してみたいことはありますか。

旭化成グループで重点成長領域として位置付けられているヘルスケア事業の中でも、CDMOは旭化成が新規参入した分野です。今後どうやって旭化成らしさを出していくかが大事だと思います。例えば、同じメディカル事業のCRO(研究受託)と組み合わせればワンストップのサービスを提供できると思いますし、事業会社の垣根を越えてファーマ事業とも相乗効果が生み出せるかもしれません。私はバイオノバで学んだ経験を生かして事業戦略や経営企画提案、そして少額投資やM&A(合併・買収)なども踏まえた技術導入で、CDMO事業のさらなる成長に貢献できたらと思っています。

今はとにかく化学が面白いと感じていますが、いずれはマネジメントの立場でチームを率いていきたいです。MS(理学修士)やMBA(経営学修士)など、大学院での研究も可能性としては考えていますが、いずれにしても化学とのつながりは持ち続けたいです。

CDMOでは、工程の上流から下流まで全体を監督する立場の「CMC(化学・製造および品質管理)リード」にも興味があります。全工程について深く理解しなければならないので、現在の担当から少しずつ範囲を広げていければと思っています。

――旭化成の社風については、どう感じていますか。

バイオノバが旭化成グループに加わった時にびっくりしたのは、管理職も組織体制も「これまで通り変わらない」とはっきり言われたことでした。買収では組織にも大きな変化があるものだと思っていたのです。今後の方向性についても、例えば新規投資テーマをバイオノバ側から提案するなど、双方向の対話ができているのはオープンマインドな旭化成の社風のおかげかもしれません。

バイオノバには、旭化成にとって未知だったCDMOという分野のプロが大勢いるので、その企業文化や強みを尊重することが大前提にあったのだと思います。旭化成には、一人ひとりの意見や個性を大切にしようという風土があるように思います。

私自身も就職活動で自分が思ったことを素直に伝えて、それが、会社が考えていた方向性とマッチしていることが事前に確認できていたので、入社後も働きやすく感じられています。改めて、旭化成は個々の意思を最大限受け止め、やりたいことが実現できるようにサポートしてくれる会社だと感じています。

※記事内容は2024年2月時点のものです。