提供:アイルランド政府産業開発庁

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日本のテック企業が注目するアイルランドのシリコンドックスとは  Vol.1 テクノロジー企業編 トレンドマイクロ

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巨大IT企業も拠点をかまえる
シリコンドックスとは

 アイルランドの首都ダブリン中心部の南、産業用運河の埠頭に面したグランド・カナル・ドック地区。かつては鋳物工場や化学工場などの建設ラッシュに沸いたこの地が、最近は新たな分野で名をはせている。

 近年ここにテクノロジー企業の進出が相次ぎ、今ではシリコンバレーならぬ「シリコンドックス」と呼ばれるまでになっている。Google、Facebook、Twitterといった巨大IT企業も、ここに実質的な欧州拠点を構えている。

 アイルランド政府産業開発庁が積極的に企業誘致を進めてきた結果、今や国内外の大手テック企業がひしめき合うまでになったシリコンドックスだが、イノベーション大国の一つである日本からも進出する企業が増えている。

 アイルランドのビジネス機会への関心が高まるにつれて、日本からの海外直接投資(FDI、Foreign Direct Investment)も伸びてきた。それには理由がある。高価値FDIの受け入れ額で見ると、近年、アイルランドは世界トップの常連となっているのだ*1

 アイルランドのテック分野における強みを享受している企業の一つに、楽天グループで、カナダのトロントに本社を置くKoboがある。電子書籍リーダーを手がける同社は2013年にソフトウエア開発センターをダブリンに開設し、現地のリソースを活用してサービス開発に取り組んでいる*2 。その後も同社にならってアイルランドに欧州拠点を置く日本企業が相次いだ。

アイルランドの首都ダブリンの街並み

アイルランドの首都ダブリンの街並み。ダブリンだけでも2000社以上のスタートアップ企業が事業拠点を構える

パンデミックで危機に陥った
海外直接投資

 こうして日本からの企業誘致が順調に進んでいたさなかに起こったのが、新型コロナウイルスのパンデミックだ。多くの企業では先の見通しが立たず、事業が中断し、会社の存続すら危うくなっていた。海外投資や事業拡大などの計画は脇に追いやられても仕方のない状況となった。

 皮肉なことに、コロナ禍は投資にブレーキをかける一方で、テレワークへの大きなシフトを促した。在宅勤務をサポートするソフトウエアやテクノロジーサービスに対する需要が企業と個人の双方から殺到したのである。

 しかし、「油断は禁物」とアイルランド政府産業開発庁のマーティン・シャナハン長官は言う。シャナハン長官は昨年7月、国連と経済協力開発機構(OECD)のデータをもとに、FDIが2021年にかけて40%も減少しかねないことを示した。アイルランドに25万人近い雇用をもたらしたFDIが危機にさらされていると警告したのだ。

 「私たちを取り巻くグローバルな経済環境は依然として厳しい。FDIの確保競争はし烈になるだろうと覚悟しています」とシャナハン長官は語る。

 グローバル市場の不透明さが続くなか、アイルランドが日本のテクノロジー企業にとって世界屈指の投資先であり続けるためには、アイルランドには好機があるということを、まずは日本のビジネスリーダーに知ってもらう必要があるという。

グランド・カナル・ドック地区

Google、Facebook、Twitterといった巨大IT企業が拠点を構えるグランド・カナル・ドック地区

トレンドマイクロが
欧州拠点として選んだ
アイルランド

 英国のEU離脱はさまざまな意味を持つが、2020年以降もEUとの良好な貿易関係を維持したいという企業の視点からみると、アイルランドが立地面で大いに魅力を増したことは確かだろう。

 「ヨーロッパに興味を持つ日本企業なら、アイルランドにも興味を示すでしょう。アイルランドとヨーロッパには相通じる点が多い」と話すのはトレンドマイクロのアイルランド子会社で人事責任者を務めるマリアン・リー氏だ。

 トレンドマイクロ(本社:東京都渋谷区)は時価総額7600億円を超える(21年3月末現在)サイバーセキュリティー企業大手。社員数は全世界で7500人前後に及ぶ。アイルランドには2003年に進出し、南部の都市コークに拠点を構えた。将来はヨーロッパ事業のバックボーンになることを見据えて、外部の販路に頼ることなく、自力で全欧に営業を展開していった。

トレンドマイクロ トレンドマイクロ

トレンドマイクロは2003年、アイルランド南部の都市コークに拠点を構えた。写真は現在のオフィス

 英国のEU離脱はさまざまな波紋を呼んでいるが、トレンドマイクロはアイルランドに欧州拠点を設けていたことが大いに奏功し、順調に業務を続けている。英国を拠点にしていた他社と比べると、就労ビザの取得や各種手続きなどに悩まされずにすむ点が大きい。

 「人材移動に関しては、アイルランドは何ら支障がありません。同じEUの一部なので、ヨーロッパから人材を呼ぶのは簡単です。もし拠点が英国だったら、ヨーロッパの言語や人材へのアクセスには、かなり手間取っていたでしょう」(リー氏)

 トレンドマイクロの成功を支えたもう一つの要因はコーク周辺に広がる業界エコシステムの存在だ。ここではテクノロジー企業の現地社員が約2万9000人にも上る。アイルランド南部ではテクノロジー関連業種の成長が最も目覚ましい地域となっている*3。 アイルランド南西部で220社以上のテクノロジー企業をメンバーに持つNPO法人、it@Corkのアンソニー・オキャラハン代表は「テクノロジーハブとしてのコークのポテンシャルは今後も伸び続けるだろう」と2019年に述べている。

専門性の高い優秀な人材を
競争力あるコストで採用

 アイルランドに拠点を移す利点としては、単に人材移動が容易であるだけでなく、労働者が高い専門性と能力を備えていることも挙げられる。ヨーロッパで最も若く教育の行き届いた、しかも英語を話す労働力が得られることは起業を支える投資家にとっては魅力だ。確かにアイルランドは法人税や研究開発費への税額控除が他の地域より有利で、それを目当てにやってくる多国籍企業も多いが、トレンドマイクロは違う、とリー氏はいう。

 「トレンドマイクロがアイルランドを選んだ理由は、法人税でも研究開発減税でもありません。ひとえに人材です。技術、ファイナンス、業務運営など特定のスキルを持つ人材を獲得できることが決め手でした」(リー氏)

リムリックの街並み

リムリックの街並み。毎年約6000人の学生がリムリック工科大学などの高等教育機関で専門技術を学ぶ

 人材のコストパフォーマンスの高さがアイルランドに投資を誘致する原動力になっているとリー氏はいう。

 「アイルランドが理想的な拠点といえる理由は多く、コストの低さもその一つです。アイルランドの賃金水準はヨーロッパ諸国と比べて、はるかに競争力があります。大規模なオフィスを構える場合には当然考慮すべき利点です」

 リー氏はさらに「現地で指導者的な立場にある人の多くは数十年の経験を積んでおり、激しい変化の波にさらされても不動の安定感を発揮している」と語る。

 コーク以外にもアイルランドの人材を活用できる都市は多い。たとえばリムリックでは、毎年6000人ほどの学生がリムリック工科大学などの高等教育機関で必要な専門技術を学んで卒業しており、近隣の企業は求人しやすい状況となっている*4

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コーク

コークではテクノロジー企業に勤務する社員が約2万9000人を数え、業界内のエコシステムが活発に機能する

共存共栄の
強固なエコシステム

 アイルランドのテクノロジー部門に関心を持つ日本企業にとっても、このエコシステムがもたらす潜在的なメリットは大きい。ダブリンだけでも2000社以上のスタートアップ企業があり、成長に必要なシード投資やベンチャーキャピタルの資金調達を呼び込んでいる。

 非営利のスタートアップ支援団体TechIrelandが発表した数字では、2020年上半期にスタートアップ企業が調達した資金は5億4500万ユーロ。前年同期を25%上回り、2016年以降では最高水準となっている。ただし資金調達に成功している企業数は減っている。急速に規模を拡大する企業ほど投資を多く集めている状況がうかがえる*5

 テクノロジー部門のメリットが生む爆発的な成長はダブリンだけにとどまらない。首都から遠く離れたコークやゴールウェイもテック企業の誘致に乗り出して成果を上げているほか*6、 リムリック(評価額数百億ドル規模の大手フィンテック企業ストライプを創設したパトリックとジョン・コリソン兄弟の出身地にほど近い都市*7 )は60数社の地元テック企業とともにイノベーションハブを形成している*8

ゴールウェイ中心部のメインストリート

ゴールウェイ中心部のメインストリート

 近年、ゴールウェイでは投資流入を受けて企業誘致が進み、エコシステムが自然形成されてきた。具体的には、ゴールウェイメイヨー工科大学を中心とする研究ハブと、隣接するスタートアップ企業のハブが協力し合い、2015年からゴールウェイ市イノベーション地区として発展を続けている*9

 トレンドマイクロがアイルランドに進出したのは20年近くも前のことだが、その後McAfeeやVMwareといった競合他社も近くに拠点を設け、同業者間のつながりも生まれているとリー氏はいう。

 ダブリン以外での積極的な活動例としてリー氏が挙げたのが、先日、コークで開催された情報セキュリティーのプロフェッショナルによるオンライン会議だ。このイベントには各社から合計で1500人近くの専門家が参加してアイデアを出し合った*10。 日本企業であるトレンドマイクロにとって業界リーダーたちに現地で接することができた意義は大きい。

 「参加企業各社は確かにライバルかもしれませんが、ここでは市場ニーズに合った人材の育成などについて協力し合っています。情報セキュリティー分野では特に共存・共生する体制が次第に整ってきました。エコシステムが生まれたのです」(リー氏)

政策立案者による
的確な理解と提案

 コロナ禍のなかでイノベーションを進め、顧客にさまざまなソリューションを提供するうえで企業が果たす役割は大きい。政策立案者がその点を理解していることが、アイルランドに拠点を置くメリットの一つだ。トレンドマイクロはじめアイルランドに進出している日本企業の多くは一様にそう認識している。

 もちろんグローバル市場は今も不確実性に満ちている。新型コロナの変異株が及ぼす脅威も未知数で、この時期に強気に外国投資に打って出るべきかどうか迷う企業が多いのも無理はない。

 しかし、企業がいったん投資を決断した後は世界のマクロ的な動向がどうであれ「アイルランドの価値提案が、いかに的確で実際的かが分かるはずです」とリー氏はいう。「ヨーロッパに進出するなら、あらゆる業務の中核となるハブをどこかに構える必要があります。アイルランドには、まさにその条件がそろっています」(リー氏)

*1 
https://www.irishtimes.com/business/economy/ireland-named-best-country-for-high-value-fdi-for-sixth-year-in-a-row-1.3204594

*2 
https://www.siliconrepublic.com/jobs/kobo-opens-european-software-development-centre-in-dublin

*3 
https://irishtechnews.ie/cork-tech-sector-optimistic-about-the-future/

*4 
https://www.ilovelimerick.ie/limerick-tech-hub/

*5 
https://www.rte.ie/news/business/2020/0812/1158837-startup-fundraising-techireland/

*6 
https://www.siliconrepublic.com/careers/sci-tech-city-limerick-jobs

*7 
https://www.telegraph.co.uk/technology/2021/02/23/two-brothers-rural-ireland-built-115bn-payments-giant/

*8 
https://www.ilovelimerick.ie/limerick-tech-hub/

*9 
https://gcid.ie/

*10 
https://www.meetup.com/CorkSec/

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緑豊かな広大な田園風景

アイルランドは国土の半分近くが牧場や牧草地として利用されている。郊外には緑豊かな広大な田園風景が広がる

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日本企業がアイルランドを
欧州進出の拠点とする理由

INDEX

Vol.1

Vol.1 テクノロジー企業編 トレンドマイクロ

アイルランドのシリコンドックスに
日本のテック企業が注目する理由

Vol.2

Vol.2 ライフサイエンス企業編 アステラス製薬

ライフサイエンスの最先端でも優位に立つアイルランド

Vol.3

Vol.3 半導体企業編

世界の半導体競争でアイルランドが強みを発揮する理由

Vol.4

Vol.4 ポストコロナ時代の海外直接投資

日本企業がアイルランドに注目すべき5つのポイント

アイルランド進出のメリット

SMBCグループ、アステラス製薬など
グローバル企業が
アイルランドを選んだ理由とは?

Invest in Ireland - Japan 2019 (日本語版、1分15秒)

アイルランドはヨーロッパの心臓部。
アイルランドをヨーロッパ進出の
拠点にするメリットとは?

Ireland, the beating heart of Europe(日本語版、20秒)

グローバル企業の
アイルランド進出の最新動向

その他のニュース(日本語)はこちら ▶
リフィー川沿いのオフィス街

ダブリン湾に注ぐリフィー川沿いのオフィス街。川にはワイヤーで吊(つ)るされた美しい流線型の橋「サミュエル・ベケット橋」がかかる。
スペインの著名な建築家、サンティアゴ・カラトラバの設計

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日本企業のアイルランド進出をどうサポートするのか?
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東京都千代田区麹町2-10-7 アイルランドハウス2F
TEL:+81 3 3262 7621 FAX:+81 3 3261 4239
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日本企業がアイルランドを
欧州進出の拠点とする理由