日本企業がアイルランドを欧州進出の拠点とする理由
Vol.4 ポストコロナ時代の海外直接投資

日本企業が
アイルランドに
注目すべき
つのポイント

 コロナ後の日本では海外直接投資(FDI)の相手先を賢明に選ぶ必要がある。アイルランドは日本からのFDI受け入れ先として以前から人気が高く、今後もその状況は続くだろう。 主な理由は5つある。

5つの理由イメージ 5つの理由イメージ

ポストコロナ時代の
海外直接投資

新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、多くの日本企業は海外直接投資(FDI)の見直しを迫られている。

しかし、アイルランドに進出した日本企業を見ると、ライフサイエンス、半導体、IT(情報技術)などの幅広い分野で、現地のエコシステムを活用しながら意欲的にビジネスを継続している様子がうかがえる。

アイルランド銀行でFDIの責任者を務めるデレク・コリンズ氏はこの4月、「アイルランドのポストコロナ復興戦略において、FDIは引き続き重要な役割を担うだろう」と述べている*1

そこで、アイルランドにはどのような利点があり、同国へのFDIを検討する投資家に何を提供できるのかを探ってみた。

1ヨーロッパへの
ゲートウェイ

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日本の投資家にとって、アイルランドは欧州連合(EU)という世界最大の単一市場への入り口にあたり、日本は製造分野でもEUの躍進を支える重要なプレーヤーとなっている。

0%

EUが2030年までに目指す
半導体生産量の世界シェア。
EUはその達成に向け
半導体生産能力の増強を
進めている*2

0%

アイルランドのGDPのうち、
各種規制産業における
ヨーロッパでの
製造関連部分が
占める割合*3

ヨーロッパに関心を持つ日本企業はアイルランドにも興味を示すでしょう。アイルランドとヨーロッパには相通じる点が多いからです” トレンドマイクロのアイルランド子会社、
Trend Micro (EMEA) Limited 
人事責任者 マリアン・リー氏

海外の投資家にとって世界有数の単一市場であるEUは、従来から魅力ある投資先だったが、英国のEU離脱で多くの日本企業はEUへの入り口を失うことになった。

日本の投資家にとって、英語でビジネスができる英国に窓口を置く利点は大きかった。ブレグジット後は、EUで唯一、英語を第一言語とする国であるアイルランドに目を向ける日本企業が増えるだろう。

アイルランドに進出しているサイバーセキュリティー企業のトレンドマイクロは、人の移動に制限が少ないEUの強みを生かし、大陸部から多様な人材を確保している。

トレンドマイクロはなぜアイルランドを欧州拠点として選んだのか? >>> Vol.1 アイルランドのシリコンドックスに日本のテック企業が注目する理由

2最先端の
イノベーション力

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先進的な医薬品研究施設や近く開設される国立先進製造センター(AMC)を擁するアイルランドは、イノベーションのリーダーとしての地位を確立している。

  • 0

    医薬品の輸出額におけるアイルランドの
    世界ランキング*4

  • 0億ユーロ

    アイルランドの2020年における
    医薬品輸出額*5

  • 0

    0,000万ユーロ

    アステラス製薬がケリーとダブリンでの
    生産能力増強に投じた金額

アイルランドは、世界でも数少ない医薬品産業のセンター・オブ・エクセレンス(COE)を有する国の一つです” アステラス アイルランド 石井裕介社長

アイルランドがひときわ精彩を放つのはイノベーションの領域だ。ライフサイエンス分野では、国立バイオプロセス研究研修機関(NIBRT)が細胞・遺伝子治療などの分野で最先端の研究開発を手がけている。同分野の市場規模は2020年代半ばまでに数十億ユーロに達すると見られる*6

このほかEUは、テクノロジー新時代を支える分野への取り組みを強化しつつある。イノベーションの最先端を指向する日本企業は、アイルランドにしかるべきパートナーを見つけて拠点を構え、EUでの好機をとらえることが望ましい。

そうした新技術分野の一つにマイクロチップがある。EUはこの3月、チップ生産の世界シェアを2030年までに20%に引き上げる計画を発表した*7。 アイルランドはこの分野で一歩先行し、スマートファクトリーの導入によるコスト効率化などに力を入れている。

医薬品業界有数の頭脳が集結するNIBRT(国立バイオプロセス研究研修機関)とは >>> Vol.2 ライフサイエンスの最先端でも優位に立つアイルランド 日本企業が海外に半導体製造施設を設ける場合に必要な視点とは >>> Vol.3 世界の半導体競争でアイルランドが強みを発揮する理由

3活気ある
スタートアップ分野

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  • fig3-3

気鋭の創業者たちが率いるアイルランドのスタートアップ企業の中には多額の資金を調達して実績を上げているところが多い。

  • 0億ユーロ

    アイルランドで
    テック分野の
    スタートアップ企業が
    2020年に調達した資金*8

  • 0

    上記の資金調達を行った
    アイルランド企業の数。
    企業エコシステムの力強さと
    層の厚さがうかがえる*9

  • 0億ユーロ

    ゴールウェイとコークに
    拠点を持つ
    医療機器会社300社の
    2020年における売上高*10

スタートアップ企業を育む地域風土は、新たな発想を事業化する潜在能力の高さを映し出している。アイルランドにスタートアップ企業が多い理由もそこにある。

メイヌース大学で経済地理学を教えるクリス・ファン・エゲラート准教授は、アイルランドの大学から、高度な学術研究を武器にスピンアウトした企業の活躍を指摘する。

近年では、海外からの投資家が資金調達ラウンドや買収を通じてアイルランドのスタートアップ企業に出資する例が増えている。非営利のスタートアップ支援団体TechIrelandによれば、2020年にアイルランドのテック企業264社が調達した資金は12億ユーロに上り、なかでも調達額が3000万ユーロを超えた企業は10社を数える*11

企業支援を担当するアイルランド政府商務庁は昨年、「High Potential Start-Up」と「Competitive Start Fund」という2つの支援プログラムを通じてスタートアップ企業125社に4800万ユーロを超える資金を提供した。対象企業の活動分野にはサイバーセキュリティー、フィンテック、デジタルヘルスなどが含まれる。投資先は首都ダブリンのほか、地方にも広がり、支援を受けたスタートアップ企業の半数はダブリン以外に本拠を置いている*12

企業各社が投資の優先順位を見直しつつあるなかでも、アイルランドのスタートアップ企業は投資家の注目を集め、政府からも潤沢な資金による支援を受けている。

2000社以上のスタートアップが集結する首都ダブリン。急成長するコーク、ゴールウェイ、リムリック >>> Vol.1 アイルランドのシリコンドックスに日本のテック企業が注目する理由

4豊富な人材

高等教育を受ける学生の数は増え続け、優秀なテクノロジー人材がプールされているため必要なスキルが手に入りやすい。

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  • fig4-4
  • 0,000(アイルランドの人口の4.7%)

    2019/2020年に高等教育機関に
    入学した学生数*13

  • 0,000

    アイルランドで働くテック分野の
    プロフェッショナルの人数*14

  • 0,000

    アイルランドで人口第2位のコークで働く
    テック分野の従業員数。首都ダブリン以外
    にも人材が多い*15

しかし、つまるところ、海外へ進出する企業が最も確保したいのは優秀な人材だ。2014年から17年にかけて収集されたデータによれば、アイルランドはSTEM(ステム、Science, Technology, Engineering and Mathematics/科学・技術・工学・数学)分野の大卒者の割合がEU諸国のなかでトップないしは2位を占め、EU平均を大きく上回っている。

トレンドマイクロのアイルランド子会社で人事責任者を務めるマリアン・リー氏は、同社がヨーロッパの拠点にアイルランドを選んだ理由の一つとして「競争力のある給与水準」を挙げている。同様の意見は他の役員からも聞かれた。

アイルランドには、投資を誘致・拡大しやすい分野(ソフトウエアや医療機器など)に強みを持つ教育機関や大学がそろっており、しかも人口の50%が35歳以下と若いため、優秀な人材が今後も豊富に供給され続ける見通しだ。

専門教育を受けた才能ある人材がアイルランドに多い理由 >>> Vol.2 ライフサイエンスの最先端でも優位に立つアイルランド アイルランドのスタートアップ企業が持つユニークな魅力とは >>> Vol.3 世界の半導体競争でアイルランドが強みを発揮する理由

5エコシステムによる
連携効果

政府機関の強力な支援を受け、企業は潤沢なリソースを活用して相互に強固な連携を築いている。

  • 0万ユーロ

    アイルランド政府商務庁(Enterprise Ireland)が
    2020年にアイルランドのスタートアップ企業に
    投資した金額*16

  • 0

    100カ国のスタートアップ企業
    エコシステムの比較における
    アイルランドの順位*17

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  • fig5-2
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  • fig5-4
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  • fig5-8
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海外投資を検討するにあたっては、対象分野でのエコシステムの有無も重要なファクターとなる。エコシステムが健全で裾野が広いほど、必要なリソースが手に入りやすいからだ。

アイルランドではエコシステムの利点が広く認知されている。有力な業界団体が存在すると、ビジネスリーダーが協力して課題に取り組む場が生まれるほか、政府に強く支援を要請することも可能となる。

ライフサイエンス分野では、バイオファーマケム(アイルランドのビジネスロビー組織Ibecの一部門)がその好例だ。同団体の理事会にはアステラス製薬やイーライリリーをはじめ、グローバルな製薬会社の役員が名を連ねる。バイオファーマケムはその活動を通じて、アイルランドを「イノベーションと開発のセンター・オブ・エクセレンス」として認知させたいとしている*18

アイルランド南西部のコークではテック産業がコラボレーションに前向きで、サイバーセキュリティーの専門家たちが毎月ミーティングを開き、コロナ禍によるロックダウン中もオンラインでこれを継続している。コークにはトレンドマイクロ、デル・テクノロジーズ、マカフィーといった多国籍企業も拠点を構えている。

アステラス製薬がアイルランドを欧州進出の拠点として選んだ背景とは >>> Vol.2 ライフサイエンスの最先端でも優位に立つアイルランド トレンドマイクロのアイルランド子会社の人事責任者が語るアイルランド人材の魅力 >>> Vol.3 世界の半導体競争でアイルランドが強みを発揮する理由

これら5つのインセンティブを備えたアイルランドはFDIの対象として十分検討に値するといってよい。
アイルランドへの投資に関するご相談はアイルランド政府産業開発庁(IDA Ireland)まで。

*1 
https://www.rte.ie/news/business/2021/0413/1209595-bank-of-ireland-joins-ibos/

*2 
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-03-09/eu-sets-2030-goals-to-secure-tech-sovereignty-from-u-s-asia

*3 
https://data.worldbank.org/indicator/NV.IND.MANF.ZS?locations=IE

*4 
https://www.idaireland.com/newsroom/publications/ida_pharma

*5 
https://www.rte.ie/news/business/2021/0215/1197179-cso-export-figures/

*6 
https://www.nibrt.ie/cell-and-gene-therapy-training-and-research-facility-at-nibrt/

*7 
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-03-09/eu-sets-2030-goals-to-secure-tech-sovereignty-from-u-s-asia

*8 
https://www.techireland.org/content/snapshots

*9 
https://www.techireland.org/content/snapshots

*10 
https://www.gov.ie/en/publication/d3fe9-annual-business-survey-of-economic-impact-2019/

*11 
https://www.techireland.org/content/snapshots

*12 
https://www.enterprise-ireland.com/en/News/PressReleases/2021-Press-Releases/Tanaiste-announces-euro-48-million-invested-in-startups-by-Enterprise-Ireland-in-2020.html

*13 
https://hea.ie/statistics/

*14 
https://enterprise.gov.ie/en/What-We-Do/Workplace-and-Skills/Skills-for-Enterprise/Attracting-Tech-Talent-to-Ireland

*15 
https://irishtechnews.ie/cork-tech-sector-optimistic-about-the-future/

*16 
https://www.enterprise-ireland.com/en/News/PressReleases/2021-Press-Releases/Tanaiste-announces-euro-48-million-invested-in-startups-by-Enterprise-Ireland-in-2020.html

*17 
https://about.crunchbase.com/blog/top-startup-ecosystems-in-2020-ranking-1000-cities-and-100-countries

*18 
https://www.ibec.ie/connect-and-learn/industries/life-sciences-and-healthcare/biopharmachem-ireland/about-us/our-board

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アイルランド政府産業開発庁(IDA Ireland)は
アイルランドへ進出する日本企業をサポートします。
詳細はこちら >>>

聖パトリック大聖堂

400年以上の歴史を持つアイルランド最古の国立大学、ダブリン大学トリニティ・カレッジ内にある図書館。写真は65mの奥行があるという「ロングルーム」

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日本企業がアイルランドを
欧州進出の拠点とする理由

INDEX

Vol.1

Vol.1 テクノロジー企業編 トレンドマイクロ

アイルランドのシリコンドックスに
日本のテック企業が注目する理由

Vol.2

Vol.2 ライフサイエンス企業編 アステラス製薬

ライフサイエンスの最先端でも優位に立つアイルランド

Vol.3

Vol.3 半導体企業編

世界の半導体競争でアイルランドが強みを発揮する理由

Vol.4

Vol.4 ポストコロナ時代の海外直接投資

日本企業がアイルランドに注目すべき5つのポイント

アイルランド進出のメリット

SMBCグループ、アステラス製薬など
グローバル企業が
アイルランドを選んだ理由とは?

Invest in Ireland - Japan 2019 (日本語版、1分15秒)

アイルランドはヨーロッパの心臓部。
アイルランドをヨーロッパ進出の
拠点にするメリットとは?

Ireland, the beating heart of Europe(日本語版、20秒)

グローバル企業の
アイルランド進出の最新動向

その他のニュース(日本語)はこちら ▶
IDA Ireland リンク IDA Ireland(アイルランド政府産業開発庁)とは? IDA Ireland(アイルランド政府産業開発庁)は
日本企業のアイルランド進出をどうサポートするのか?
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アイルランド政府産業開発庁

東京都千代田区麹町2-10-7 アイルランドハウス2F
TEL:+81 3 3262 7621 FAX:+81 3 3261 4239
MAIL:idatokyo@ida.ie

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