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ライフサイエンスの最先端でも優位に立つアイルランド  Vol.2 ライフサイエンス企業編 アステラス製薬

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写真提供:NIBRT

世界第3位の医薬品輸出国

 「アイルランドは、世界でも数少ない医薬品産業のセンター・オブ・エクセレンス(COE)を持つ国の一つです。専門教育を受けた才能ある人材がアイルランドに多い理由は、そこにあります」とアステラス アイルランドの石井裕介社長は言う。同社は日本のアステラス製薬の海外グループ会社として現地での生産を担っている。

石井裕介社長

アステラス アイルランドの石井裕介 社長

 石井氏がアイルランドの優位性を示す好例として挙げたのは、10年ほど前にダブリンに設立された国立バイオプロセス研究研修機関(NIBRT、The National Institute for Bioprocessing Research and Training)の存在だ。医薬品業界では同業各社が協力し合うようなケースは珍しいが、NIBRTには業界有数の頭脳が集結している。アイルランド国内への投資誘致に取り組むアイルランド政府産業開発庁や、アイルランドの一流大学各校も、その活動を支援している。NIBRTに刺激を受けて、韓国やその他の国でも同様の機関を設ける動きが出てきた*1

 NIBRTをはじめ、さまざまな誘因を備えたアイルランドには多くのライフサイエンス企業が集まっている。現在では85社を超える医薬品会社が、この地に拠点を構え、世界第3位の医薬品輸出国となっている*2。新型コロナウイルスのパンデミックにもめげず、アイルランドの製品輸出額は2020年に1,608億ユーロと過去最高を記録したが、その39%を医療機器および医薬品が占めている*3

 この優位性を維持できるかどうかが、アイルランドの今後の課題だ。諸外国もライフサイエンス分野に新たな資本を呼び込もうと投資家への働きかけを強めている。コロナ禍の教訓が示すとおり、ライフサイエンス産業の活力維持は、まさに死命を制する課題なのだ。

 「し烈化するグローバル競争のなかで、自国の魅力をライフサイエンス企業にどうアピールし続けるかがアイルランドの課題」と石井氏は話す。はたしてアイルランドのライフサイエンス産業はコロナ後の世界でも存在感を示せるだろうか?

ケリー工場 ケリー工場

アステラス アイルランドはダブリンとケリーの2都市に拠点を持つ。写真はケリー工場

技術革新に前向きな姿勢

 アステラス製薬は1980年代後半にアイルランドに進出、建物や工場、その他の設備に3億3千万ユーロを超える戦略的投資を行ってきた。石井氏によれば、医薬品の製造要件が複雑化の一途をたどったことがその一因だという。同社は現在、ケリーとダブリンの両事業所で500人以上の従業員を雇用している。

 アステラス製薬がアイルランドを選んだ背景には何があったのだろうか? 石井氏が大きな理由として挙げたのは、イノベーションにあくまで前向きなアイルランドの姿勢だ。ライフサイエンスの先端分野であるバイオロジックにNIBRTが意欲的に挑戦していることも、その表れといえよう。

 NIBRTが取り組んでいる細胞・遺伝子治療は、がん、アルツハイマー病、関節リウマチなど重い疾病への効果が期待されるライフサイエンスの新分野だ*4。NIBRTは、こうした次世代療法を発展させることで新たな海外直接投資(FDI)の波を呼び込みたいと考えている*5

 実際、細胞・遺伝子治療は今後飛躍的に伸びる見通しだ。市場規模は2025年までに300億ドルに達する可能性もあるという*6

 製造の高度化を進めるアイルランドでは、2021年第4四半期までに国立先進製造センター(AMC、The National Advanced Manufacturing Centre)を開設する予定で、医薬品・医療機器分野への効果も大いに期待されている*7。アイルランド政府産業開発庁が統括するこのセンターは、新技術の試験、導入、展開を望む多国籍企業や中小事業のハブとしてニーズに応える予定だ。

 AMCの目標は、各種製造分野のステークホルダーに向けたコラボレーション支援環境を整備し、新テクノロジーに没入できる場と、迅速な実用化を支える豊かな専門知識を提供することにある。その活動はグローバルなインパクトをもたらすに違いない。

ケリー工場 ケリー工場

アステラス アイルランドのケリー工場。専門教育を受けた才能ある人材が活躍している

高い技能を持つ労働力

 武田薬品工業も、アイルランドへの投資を一段と強化した日本の製薬企業の一つだ。同社は20年来アイルランドで事業を展開しているが、このほど現地の工場に3,600万ユーロを追加投資することを発表した。細胞治療薬の製造設備を拡張し、今後3年間で約100人の新規雇用を創出する予定だという。

 アイルランドのレオ・バラッカー副首相兼企業・貿易・雇用担当大臣は「同国が武田薬品工業のようなバイオ医薬品企業からグローバル拠点として評価される理由の一つは高い技能を持つ労働力を備えていることにある」と述べている*8。これはライフサイエンス分野での国内雇用が5万人を超えていることからも分かる*9。しかし、重要なのはそれだけではない。

 同分野で働く人々の多くは、業界エコシステムの一員として専門技能のフロー促進にも寄与している。武田薬品工業はすでにダブリン郊外にグレンジキャッスルに工場を建設・整備*10しているが、近く追加投資が行われるのも、やはりこのバイオテクノロジー施設だ*11。同工場があるビジネスパーク内には、ファイザーも世界最大級の総合バイオテクノロジー工場を構えているほか、有力なIT企業各社の拠点も隣接するなど、世界トップクラスの業界パートナーともコンタクトがとりやすい環境にある*12

NIBRT

NIBRTには業界有数の頭脳が集結、最先端のライフサイエンス分野の研究に取り組む。写真提供:NIBRT

 また、バイオファーマケム*13 をはじめとする有力な業界団体は、会員企業がコロナ禍の課題を乗り越えられるよう、問題解決に向けたアイデアを共有する場を設けている。近く設立されるAMCも、将来のニーズに応じた人材育成やスキル向上にリソースを投入する予定だ。

 ダブリン大学トリニティ・カレッジで国際ビジネス・経済開発を教えるフランク・バリー教授によれば、アイルランドに投資を誘致すべき分野を考える際には輸送コストが大きな判断材料の一つになるという。

 「アイルランドは低輸送コストの物品・サービスの取引で特に定評があるので、最近では医薬品、ITサービス、財務サービスといった分野に輸出関連のFDIが集中する傾向が見られます」(バリー教授)

医療機器分野にも好機

 ライフサイエンス産業の拡大を後押しする条件は十分そろっている。石井氏も指摘するとおり、イノベーションを重視する同業界では細胞・遺伝子治療など最先端のテクノロジーを扱う必要上、きわめて高度な専門技能が求められ、その獲得コストも跳ね上がる。その点でアイルランドは他のヨーロッパ諸国よりコスト効率が高く、優位性を保っている。

 細胞・遺伝子治療といった新テクノロジーの登場に伴い、製造能力をどのように拡充してスケールメリットを得るかが新たな課題となるが、これはアイルランドのイノベーターにとって好機でもある。そうした取り組みはすでに一部で始まっている。たとえば、NIBRTはコラボレーティブ・ソリューションに焦点を当てた白書を発表し、製薬、医療技術、食品業界のハイテク施設の設計、建設などのプロジェクトを管理するスペシャリスト企業のPMグループやその他の企業の協力を得て研究支援施設の拡張を進めている*14

 ライフサイエンスでは、このほか医療機器などの分野でもアイルランドが主導権を握るチャンスはあると一部の専門家は指摘する。

NIBRT

アイルランド政府産業開発庁や、アイルランドの一流大学各校も、NIBRTの活動を支援する。研究施設も充実している。写真提供:NIBRT

 アイルランドのメイヌース大学で経済地理学を教えるクリス・ファン・エゲラート准教授は、医療機器分野でのビジネス機会が大きい理由をこう説明する。「医薬品に比べ、医療機器の臨床試験ははるかに短期間で、審査もそこまで厳格ではありません。開発サイクルが短縮され、より少ない資本で会社を成功に導けるのです」

 アイルランドの医療機器部門は現在約300社規模で、従業員は4万6800人以上。年間売上高は60億ユーロ規模。特にステント(血管内に留置する金属製の網状チューブ)の生産では世界シェア80%を誇り*15、その多くはゴールウェイとコークで作られている*16

 特にゴールウェイは医療機器分野のグローバルハブとして注目を集め、業界の有力企業数社が拠点を構えているほか、日本からも投資が集まっている。

 2013年には日本の医療機器大手ニプロ(本社:大阪市北区)がゴールウェイのグッドマン・メディカル・アイルランドを傘下に収め、心臓循環器系の製品を拡充している。親会社のグッドマン(本社:愛知県名古屋市、2013年からニプロの子会社)は1975年設立の医療機器企業で、心臓循環器、脳外科、消化器、泌尿器などの分野に関わる診断・治療用医療機器の開発、製造、販売を手がけている。グッドマン・メディカル・アイルランドはグッドマンが2004年にアイルランドの現地企業を子会社化して、主に日本や中国市場向けに血管内治療カテーテル(PTCAバルーンカテーテル)を製造している。

 コロナ禍の影響がライフサイエンス業界全体に降りかかるなかで、アイルランドは先手を打って着実に体制を強化しつつあるようだ。

*1 
https://www.ft.com/partnercontent/cytiva/biopharma-reaches-for-homegrown-talent.html

*2 
https://www.idaireland.com/newsroom/publications/ida_pharma

*3 
https://www.morningstar.co.uk/uk/news/AN_1614024648755368200/irish-pharma-exports-jump-in-2020-but-brexit-hits-trade-with-britain.aspx

*4 
https://www.asgct.org/education/more-resources/gene-and-cell-therapy-faqs#:~:text=Gene%20therapy%20and%20cell%20therapy%20have%20the%20potential%20for%20high,ideally%20having%20a%20survival%20advantage.

*5 
https://atmpmanufacture.org/wp-content/uploads/2019/11/nibrt-niall-barron.pdf

*6 
https://www.nibrt.ie/cell-and-gene-therapy-training-and-research-facility-at-nibrt/

*7 
https://www.great.gov.uk/export-opportunities/opportunities/provision-of-the-digital-factory-at-the-national-advanced-manufacturing-centre-amc-national-technology-park-limerick

*8 
https://www.gov.ie/en/press-release/1f8c0-takeda-announces-expansion-of-stem-cell-therapy-production-facility-in-ireland/

*9 
https://www.enterprise-ireland.com/en/Start-a-Business-in-Ireland/Startups-from-Outside-Ireland/Key-Sectors-and-Companies-in-Ireland/Medical-Devices-sector-profile.html

*10 
https://www.takeda.com/newsroom/featured-topics/grand-opening-of-takedas-new-production-facility-grange-castle-ireland/

*11 
https://www.idaireland.com/newsroom/takeda-announces-expansion-of-stem-cell-therapy-pr

*12 
https://www.pfizer.ie/pfizer-grange-castle

*13 
https://biopharmachemireland.ie/Sectors/BPCI/BPCI.nsf/vPages/About_us~overview!OpenDocument

*14 
https://www.nibrt.ie/cell-and-gene-therapy-training-and-research-facility-at-nibrt/

*15 
https://www.gov.ie/en/publication/d3fe9-annual-business-survey-of-economic-impact-2019/

*16 
https://www.getreskilled.com/medical-device-companies-galway/

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モハーの断崖

年間約100万人の観光客が訪れる、アイルランドで最も人気のある観光地「モハーの断崖」。大西洋からそびえ立つ高さ約120m〜210mの断崖絶壁が8kmにわたって連なる

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日本企業がアイルランドを
欧州進出の拠点とする理由

INDEX

Vol.1

Vol.1 テクノロジー企業編 トレンドマイクロ

アイルランドのシリコンドックスに
日本のテック企業が注目する理由

Vol.2

Vol.2 ライフサイエンス企業編 アステラス製薬

ライフサイエンスの最先端でも優位に立つアイルランド

Vol.3

Vol.3 半導体企業編

世界の半導体競争でアイルランドが強みを発揮する理由

Vol.4

Vol.4 ポストコロナ時代の海外直接投資

日本企業がアイルランドに注目すべき5つのポイント

アイルランド進出のメリット

SMBCグループ、アステラス製薬など
グローバル企業が
アイルランドを選んだ理由とは?

Invest in Ireland - Japan 2019 (日本語版、1分15秒)

アイルランドはヨーロッパの心臓部。
アイルランドをヨーロッパ進出の
拠点にするメリットとは?

Ireland, the beating heart of Europe(日本語版、20秒)

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10年ほど前にダブリンに設立されたNIBRTはライフサイエンス分野におけるアイルランドの優位性を示す好例だ。写真提供:NIBRT

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