培った知見や技術・ノウハウを生かし
情報加工による独自ポジション確立へ
柴谷世界が大きな転換期を迎え、直面する様々な社会課題を解決し、持続的な社会を構築することが危急の課題になっています。妹尾先生は現状をどのように捉えていらっしゃいますか。
妹尾今まさに「X(変革)の時代」を迎えています。大量消費・大量生産といった「買い替え型の線形経済」が限界を迎え、サステナビリティー(持続可能性)を重視した「使い続け型の循環経済」へと移行せざるを得ない状況にあります。そこでサステナビリティートランスフォーメーション(SX)が求められています。SX推進に向けて、いくつものトランスフォーメーションが加速します。線形経済から循環経済へと変わる「EX(エコノミートランスフォーメーション)」と、それを支える「DX」。この2つのXにより、モノの見方が変わる「CX(コンセプトトランスフォーメーション)」が起き、ビジネスモデルが変わる「BX(ビジネストランスフォーメーション)」へとつながっていきます。サステナビリティーを実現する循環経済に向け、新たなビジネスモデルのデザインが必須となり、その基盤であり、かつ大きな柱がデジタルだと考えています。
柴谷同感です。トッパンもDXとSXによってワールドワイドで社会課題を解決するリーディングカンパニーになることを目指して、事業ポートフォリオの抜本的変革に取り組んでいます。印刷事業をスタートに、これまで印刷に関わる情報の加工を核としたコミュニケーションビジネスで事業を拡大してきました。今社会のデジタル化が加速する中、世の中のコミュニケーションインフラが大きく変わりつつあります。そこでトッパンとしての新しい立ち位置を見いだすことが必要不可欠だと考えています。コミュニケーションを軸に企業や業界、社会全体のDX基盤構築を下支えする事業へと主体的に変革することが、これからのトッパンの使命だと捉えています。
妹尾事業変革を進める際に重要なのは、自社の持つ特長や資源を見極めて、それをビジネスに最大限生かす戦略のデザインです。御社の場合、対象となる分野やサービスは変わっても、情報の加工というプロセスの中で情報に付加価値を付けていく産業であることは変わらないでしょう。軸足をどう変えていくか、そこがポイントですね。
柴谷例えばインターフェース。コミュニケーション手段が紙の印刷からデジタルに置き換わっても、最終的にインターフェースは人間が対象です。そこで必要となる表現、例えば色彩再現に必要なカラーマネジメントはメタバース(仮想空間)でも必ず必要になります。印刷では視覚情報が中心でしたが、今後は五感を使ってコミュニケーションする時代になる。そこで、感性情報を数値で取り扱ってきた知見や技術・ノウハウを生かして、情報加工における独自のポジションを確立していく考えです。
妹尾ブロックチェーン(分散型台帳)や対話型人工知能(AI)「Chat(チャット)GPT」など、世界におけるDXの流れがイノベーション(新価値創出)に向かう中、日本企業のDXはインプルーブメント(改善・改良)にとどまっていると危惧しています。その中で御社が新しいイノベーションモデルに気付き、学び、考えようと取り組んでいることはとても心強く感じます。