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提供:TOPPANデジタル

印刷からDXへ事業ポートフォリオ転換

産学連携推進機構 理事長 妹尾 堅一郎氏×凸版印刷 執行役員 DXデザイン事業部長 柴谷 浩毅氏

高齢化に伴う人口減少、深刻化する地球温暖化、新型コロナウイルス禍で一気に加速したデジタルシフトなど、ビジネスを取り巻く環境は大きく変化。新たな価値創造と本格的なデジタル社会への移行が必須となり、その実現に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が一段と高まっている。そんな中、凸版印刷は印刷事業で培った知見や技術・ノウハウを生かし、情報を加工して社会価値を創造する企業へと進化する。シリーズ企画「顧客価値を創出するDXパートナーへ」では、同社が推進するDX戦略とその取り組みを紹介する。第1回は産学連携推進機構の妹尾堅一郎理事長を迎え、凸版印刷のDX事業をけん引する柴谷浩毅執行役員が事業変革の在り方やDXビジネスについて熱く語り合った。

培った知見や技術・ノウハウを生かし
情報加工による独自ポジション確立へ

柴谷世界が大きな転換期を迎え、直面する様々な社会課題を解決し、持続的な社会を構築することが危急の課題になっています。妹尾先生は現状をどのように捉えていらっしゃいますか。

妹尾今まさに「X(変革)の時代」を迎えています。大量消費・大量生産といった「買い替え型の線形経済」が限界を迎え、サステナビリティー(持続可能性)を重視した「使い続け型の循環経済」へと移行せざるを得ない状況にあります。そこでサステナビリティートランスフォーメーション(SX)が求められています。SX推進に向けて、いくつものトランスフォーメーションが加速します。線形経済から循環経済へと変わる「EX(エコノミートランスフォーメーション)」と、それを支える「DX」。この2つのXにより、モノの見方が変わる「CX(コンセプトトランスフォーメーション)」が起き、ビジネスモデルが変わる「BX(ビジネストランスフォーメーション)」へとつながっていきます。サステナビリティーを実現する循環経済に向け、新たなビジネスモデルのデザインが必須となり、その基盤であり、かつ大きな柱がデジタルだと考えています。

フォト:妹尾 堅一氏

妹尾 堅一郎

新たなビジネスモデルのデザインが必須

柴谷同感です。トッパンもDXとSXによってワールドワイドで社会課題を解決するリーディングカンパニーになることを目指して、事業ポートフォリオの抜本的変革に取り組んでいます。印刷事業をスタートに、これまで印刷に関わる情報の加工を核としたコミュニケーションビジネスで事業を拡大してきました。今社会のデジタル化が加速する中、世の中のコミュニケーションインフラが大きく変わりつつあります。そこでトッパンとしての新しい立ち位置を見いだすことが必要不可欠だと考えています。コミュニケーションを軸に企業や業界、社会全体のDX基盤構築を下支えする事業へと主体的に変革することが、これからのトッパンの使命だと捉えています。

妹尾事業変革を進める際に重要なのは、自社の持つ特長や資源を見極めて、それをビジネスに最大限生かす戦略のデザインです。御社の場合、対象となる分野やサービスは変わっても、情報の加工というプロセスの中で情報に付加価値を付けていく産業であることは変わらないでしょう。軸足をどう変えていくか、そこがポイントですね。

柴谷例えばインターフェース。コミュニケーション手段が紙の印刷からデジタルに置き換わっても、最終的にインターフェースは人間が対象です。そこで必要となる表現、例えば色彩再現に必要なカラーマネジメントはメタバース(仮想空間)でも必ず必要になります。印刷では視覚情報が中心でしたが、今後は五感を使ってコミュニケーションする時代になる。そこで、感性情報を数値で取り扱ってきた知見や技術・ノウハウを生かして、情報加工における独自のポジションを確立していく考えです。

妹尾ブロックチェーン(分散型台帳)や対話型人工知能(AI)「Chat(チャット)GPT」など、世界におけるDXの流れがイノベーション(新価値創出)に向かう中、日本企業のDXはインプルーブメント(改善・改良)にとどまっていると危惧しています。その中で御社が新しいイノベーションモデルに気付き、学び、考えようと取り組んでいることはとても心強く感じます。

DXコンセプト「エルヘートクロス」
現場の情報を起点にサイクル型事業を構築

柴谷DXビジネスへと舵(かじ)を切る上で、トッパンとして進む方向を明確化するため、2021年にDXコンセプト「Erhoeht-X(エルヘートクロス)」を発表しました。トッパン創業の原点である当時の最先端印刷技術「エルヘート凸版法」から名付けました。「エルヘート」には「高度な」という意味があり、培ってきた技術・ノウハウをさらに高めると同時に、先進のデジタル技術や高度なオペレーションノウハウを掛け合わせ、データ活用を機軸としたハイブリッドなDX事業を自ら展開するという意味を込めています。

フォト:柴谷 浩毅氏

柴谷 浩毅

DXを支援するとともに自らDXを起こしていく

妹尾自らのイノベート経験を顧客のイノベーションにつなげたり、連動させることはとても重要です。最近、SXにおけるグリーンウオッシュ(見せかけの環境対策)が問題視されていますが、DXも同じで、どんなに立派なビジョンを掲げても、実践・結果が伴わなければ、顧客は安心かつ信頼して仕事を任せてくれませんし、投資家の評価も得られません。

柴谷トッパンがDXビジネスを進める上で目指しているのは、サイクル型のビジネスモデルです。まず自社で設計・開発したシステムなどの「デジタル化」ソリューションと、現場の運営・運用をリアルで支援する「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」を組み合わせて提供。その過程で触れる現場実態を反映した良質な情報を分析する「データ分析」と、それを価値創出へと導く「コンサルティング」を行うことで、イノベーションを起こすサイクルを回していく。2万社を超える多様な企業との間で築いてきた関係性を持つトッパンだからこそ、こうした現場の情報やデータを起点とする変革の提案が可能であると考えています。

妹尾循環経済に向けて、従来とはモノの見方、概念を変える必要があります。そして技術のみならず、価値形成(商品形態)と価値提供(事業形態)を掛け合わせたビジネスモデルが欠かせません。もう一つ、本格的なデジタル社会ではサイバー空間とデジタル空間を融合したサイバー・フィジカル・システム(CPS)の構築が必要です。その点、フィジカルな現場での状況をデジタルとの組み合わせで価値形成する仕組みは、御社だからこそできる価値提供のカタチだと思いました。

柴谷エルヘートクロスの事業テーマでは、「マーケティングDX」「製造・流通DX」「ハイブリッドBPO」「セキュアビジネス」「デジタルコンテンツ」の5つを重点カテゴリーとしました。そしてこれらを共通に支えるのが「ID管理」のセキュリティー技術です。今お話のあったCPSで生み出される情報や価値によって、産業の活性化や社会課題の解決を図っていく上でも、人やモノが一つひとつ適切に把握・マネジメントされることが欠かせません。印刷で培った数百万、数千万というユニーク情報を一つの重複も欠落もなくマネジメントできるセキュリティー技術の保有が、先端表現技術の保有と並ぶ当社の特長です。

図:トッパンが目指すサイクル型ビジネスモデル

協業を通じた創発が大切
社会的価値創出企業を目指す

柴谷20年からDXビジネスに向けた基盤づくりに取り組んできました。最近社内外の連携がスムーズになり、実績も上がってきています。例えば、お客さまの製造現場のDXを支援する「NAVINECT(ナビネクト)」は、製造ラインの設備稼働だけでなく、人が関与する検査工程管理や作業者管理なども行える機能をご用意したところ、今までなかったサービスだと高い評価を頂いています。従来の受注型ビジネスから、顧客ニーズをパターン化した製品・サービスをつくり、それを最適に組み合わせて提供する。創造の「創」と注文の「注」から名付けた創注型ビジネスへとシフトしています。

妹尾自前主義・抱え込み主義で自社だけでビジネスが成り立つ時代とは異なり、環境変化が激しく、先行きの見通せない現在、創発性を導く協業はとても大切です。顧客とやり取りしながら価値を見いだしていく御社の取り組みは時宜を得たものだと思います。DXは手段であり、目的ではありません。顧客が直面する課題にデジタルやデータというツールを使って取り組んでいくこと。DXビジネスでは何より、まず顧客価値を提供した上で、次に自社がどう稼ぐかという順番が重要であって、その逆ではありません。

柴谷DXビジネスにおいて、顧客価値ファーストを前提に、トッパンの特長をきちんと打ち出していく。その上で、お客さまと一緒に価値を高めていくビジネスをデザインしていきます。そして「社会的価値創造企業」を目指し、ビジネスと社会貢献を両立するビジネスモデル構築へと挑戦していきます。

妹尾ぜひトッパンらしさを押し出して、DXもSXも「突破」していただきたい。大いに期待しています。

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※記事内容と肩書きは2023年5月時点のものです。

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