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提供:TOPPANデジタル

先進デジタル技術を活用し、事業化を推進

名古屋商科大学ビジネススクール 教授 澤谷 由里子氏×凸版印刷 執行役員 DXデザイン事業部長 柴谷 浩毅氏

5月31日、経済産業省と東京証券取引所はビジネスモデルと経営変革にチャレンジし続けている企業を選定する「DX銘柄2023」を発表した。凸版印刷は3年連続でDX銘柄に選ばれた。シリーズ企画「顧客価値を創出するDXパートナーへ」では、同社が印刷事業で培った知見や技術・ノウハウを生かし、社会、業界、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する姿を紹介している。第2回は名古屋商科大学ビジネススクールの澤谷由里子教授を迎え、凸版印刷DXデザイン事業部長の柴谷浩毅執行役員が、注力するデジタル技術やその取り組み状況、事業化への道筋について意見を交換した。

人のぬくもりとデジタルが協働する世界へ
印刷で培った技術をベースに社会価値創出

柴谷ブロックチェーン(分散型台帳)や対話型人工知能(AI)「Chat(チャット)GPT」など、先進のデジタル技術が生活やビジネスに変化をもたらす可能性に大きな注目が集まっています。澤谷先生は、こうしたデジタル化の進展をどのように見ていらっしゃいますか。

澤谷とてもワクワクしています。例えばChatGPTは大量のデータを学習し、入力された質問などに人間のように自然な回答を生成します。こうした大規模言語モデルは、規模が大きくなればなるほど正確性が増すという相関関係があり、可能性は無限大です。こうした新技術の登場はもちろん、新しい技術を開発した人がつくり上げたい世界観への期待が大きいからです。

一方で、新型コロナウイルス禍を経て、リモートの可能性が大きく広がったと同時に、私たち人間は人のぬくもりが欠かせないことを再認識させられました。すべてデジタルに囲まれた世界は、人間にとって「ディストピア(暗黒世界)」。人のぬくもりとデジタルがうまく協働したハイブリッドな世界が、人類の求めている世界なのだと明確になった気がします。

トッパンも時代変化に合わせて、印刷からデジタルへと事業ポートフォリオの抜本的変革に取り組まれているそうですね。

フォト:澤谷 由里子氏

澤谷 由里子

技術を持つ人こそ未来をつくっていける

柴谷2010年代にスマートフォンやタブレットが登場し、コミュニケーションのメディア、デバイスが大きく変わりました。それ以前から我々もデジタル対応の必要性を強く意識はしていたのですが、当時は印刷とデジタルを併存させる、印刷はなくならないという考えでした。しかし2017年に印刷事業が大きく縮小したことをきっかけに、本格的にデジタルへと事業変革の舵(かじ)を切ったのです。

1970年代には、コンピューターを活用した組み版システムの導入が始まり、1990年代にはデジタルによる画像処理が進むなど、もともと印刷事業はデジタルとの親和性が高く、トッパンもデジタル技術を蓄積してきました。例えば、1997年から文化財のデジタルアーカイブの公開手法として、VR(仮想現実)技術を用いた「トッパンVR」の開発に取り組んでいます。モノを正確にデジタル化する計測技術、色彩や質感を表現するカラーマネジメント技術、高精細な画像を扱うデータ処理技術など、これまで培ってきた技術を下地に、いまDXに取り組んでいます。

澤谷印刷がデジタル化したことで、デジタルのデータや技術が蓄積され、それを従来のプロセス以外のところで活用してきた。トッパンにとって、培ってきたデジタル技術が新たな社会価値を生み出す源泉となっているわけですね。技術を持つ人こそ、新たな価値を提案でき、未来をつくっていけると思います。

柴谷いま我々が目指しているのが、社会的価値創造企業です。その実現には、最先端技術をしっかりとキャッチアップし、主体的に活用していくことが必要不可欠と考えています。

技術の立脚点は表現とセキュリティー
種まきから事業化の段階に踏み出す

澤谷具体的には、どのような最先端技術に取り組まれているのですか。

柴谷トッパンのDX事業における技術の立脚点は表現技術とセキュリティー技術です。まず色彩の再現などの感性情報を数値で管理する表現技術を、メタバース(仮想空間)などにどう拡張させていくか。さらにそれを聴覚や嗅覚、触覚といった五感に広げていくための研究を進めています。またバーチャル世界における真正性の確保、例えばアバター(分身)の不正防止など、セキュリティー対応にも注力しています。

これら技術を進化させていく上で、最先端技術の動向を把握することが欠かせません。本格的な活用が始まったAI技術、分散型ウェブサービス「Web3.0」を支えるブロックチェーン技術、さらに量子コンピューティング技術にも注目し、研究・開発を進めています。大阪大学と共同で研究している、「リアルタイムAI」もその一つです。単位時間あたりの対象の動きのパターンを学習し、Aパターンの次にはαパターンが発現しやすいというような傾向値をつかんで将来予測を行います。一般的なAIはモデル作成に際して膨大なデータの蓄積が必要ですが、「リアルタイムAI」は入力データから即時にモデルが作成でき、データ準備などのコスト削減や傾向変化による精度低下防止といったメリットがあります。当社ではものづくりを支援する製造DXサービスなどで活用しています。

光学文字認識機能にAIを活用した「AI-OCR技術」、画像や動画などを自動作成・自動加工する「画像生成AI技術」などにも取り組んでいます。また情報通信研究機構(NICT)などと連携し、量子技術を活用した高度な情報処理と安全なデータ流通・保管・利活用を可能とする量子セキュアクラウド技術の確立に向けたプロジェクトにも参画しています。

フォト:柴谷 浩毅氏

柴谷 浩毅

事業化推進力を強化し具体的成果に

澤谷先進のデジタル技術をモニタリングして、そこに自社技術を融合させ、社会課題の解決を図り、社会実装へと進めていこうとしているわけですね。新しい技術が出れば、それをうまく取り入れ、ビジネスプロセスを効率化して、新たなビジネスを創出していくことは、企業活動にとって当然のこと。つまりDXは特別なことではありません。ただ、その実践は体制が整っていなければできません。トッパンはDXを通じて、自社ビジネスの枠を超え、顧客との接点を広げていく準備が整っていると感じました。でも新規の取り組みに対して、拒否反応はなかったですか。

柴谷ないですね。むしろ、あれやりたい、これやりたいといった提案の方が多くて(笑い)。新しい技術の活用などに積極的に取り組むのは、トッパンのDNAではないかと捉えています。2020年にDXデザイン事業部ができたのも、いろいろな部署でDXに関わる新しい取り組みがでてきたので、横串連携でもっと戦略的に大きな取り組みにしていこうとの意図があったからです。

澤谷ひらめきの人がたくさんいらっしゃるんですね。事業創出を推し進める上で、「ホライゾン・モデル」というのがあります。3段階あって、本業がホライゾン1で、新たな事業の種がホライゾン3。ホライゾン2はそのブリッジの役目を担います。DXデザイン事業部はホライゾン2を推進する重要なポジションですね。何か課題はありますか。

柴谷これまで種まきしてきたことを、大きな成果へとスケールアップさせていく、事業化推進力の強化が課題です。2021年にDX事業コンセプト「Erhoeht-X(エルヘートクロス)」を策定し、トッパンとして注力する重点カテゴリーとして、「Hybrid(ハイブリッド)-BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」「セキュアビジネス」「マーケティングDX」「デジタルコンテンツ」「製造・流通DX」の5つを設定しました。5つのカテゴリーの中に、培ってきた技術やソリューションを集約、連動させて、戦略的かつスピーディーに進め、手応えが出始めつつあるところです。

図:Hybrid-BPO・セキュアビジネス・マーケティングDX・デジタルコンテンツ・製造・流通DX

「創注」型ビジネスへ事業モデル転換
チャレンジし続ける先に成功が見える

柴谷これまで印刷事業は個別案件に対応する受注型ビジネスでしたが、今後は多くのお客様のニーズを聞き、「型化」した自社サービスを開発して広く課題にお応えする「創注」型ビジネスへと事業モデルの転換を図っていきます。印刷物をつくるプロセスで、お客様の現場に入るケースが多々あります。お客様のビジネスがどう流れ、動いていくか、とてもよく見えます。また2万社を超える多様な企業と常時お取引させていただいているのも当社の特長です。そうした多くのお客様の現場を起点に、デジタル技術やデータを活用した業務改革や事業変革の提案などを実践していきます。

澤谷DXとはデジタル技術を用いたビジネスモデルの創出です。デジタル技術だけでなく、お客様の現場を起点に蓄積したデータや情報を生かしてDXを提案できることは、トッパンの強みですね。

柴谷ありがとうございます。強みを生かした独自のポジションを確立し、DXに挑戦し続け、顧客価値を創出するDXパートナーを目指します。

澤谷チャレンジし続ける先に、新しい未来が見えてきます。技術をベースに、顧客の課題に寄り添ったDXの提案ができる創注型ビジネスは期待大です。ぜひたくさんのアイデアを出して、それを顧客とのコ・クリエーション(共創)につなげ、社会的価値創造に結びつけていっていただきたい。

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※記事内容と肩書きは2023年7月時点のものです。

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