技術の立脚点は表現とセキュリティー
種まきから事業化の段階に踏み出す
澤谷具体的には、どのような最先端技術に取り組まれているのですか。
柴谷トッパンのDX事業における技術の立脚点は表現技術とセキュリティー技術です。まず色彩の再現などの感性情報を数値で管理する表現技術を、メタバース(仮想空間)などにどう拡張させていくか。さらにそれを聴覚や嗅覚、触覚といった五感に広げていくための研究を進めています。またバーチャル世界における真正性の確保、例えばアバター(分身)の不正防止など、セキュリティー対応にも注力しています。
これら技術を進化させていく上で、最先端技術の動向を把握することが欠かせません。本格的な活用が始まったAI技術、分散型ウェブサービス「Web3.0」を支えるブロックチェーン技術、さらに量子コンピューティング技術にも注目し、研究・開発を進めています。大阪大学と共同で研究している、「リアルタイムAI」もその一つです。単位時間あたりの対象の動きのパターンを学習し、Aパターンの次にはαパターンが発現しやすいというような傾向値をつかんで将来予測を行います。一般的なAIはモデル作成に際して膨大なデータの蓄積が必要ですが、「リアルタイムAI」は入力データから即時にモデルが作成でき、データ準備などのコスト削減や傾向変化による精度低下防止といったメリットがあります。当社ではものづくりを支援する製造DXサービスなどで活用しています。
光学文字認識機能にAIを活用した「AI-OCR技術」、画像や動画などを自動作成・自動加工する「画像生成AI技術」などにも取り組んでいます。また情報通信研究機構(NICT)などと連携し、量子技術を活用した高度な情報処理と安全なデータ流通・保管・利活用を可能とする量子セキュアクラウド技術の確立に向けたプロジェクトにも参画しています。
澤谷先進のデジタル技術をモニタリングして、そこに自社技術を融合させ、社会課題の解決を図り、社会実装へと進めていこうとしているわけですね。新しい技術が出れば、それをうまく取り入れ、ビジネスプロセスを効率化して、新たなビジネスを創出していくことは、企業活動にとって当然のこと。つまりDXは特別なことではありません。ただ、その実践は体制が整っていなければできません。トッパンはDXを通じて、自社ビジネスの枠を超え、顧客との接点を広げていく準備が整っていると感じました。でも新規の取り組みに対して、拒否反応はなかったですか。
柴谷ないですね。むしろ、あれやりたい、これやりたいといった提案の方が多くて(笑い)。新しい技術の活用などに積極的に取り組むのは、トッパンのDNAではないかと捉えています。2020年にDXデザイン事業部ができたのも、いろいろな部署でDXに関わる新しい取り組みがでてきたので、横串連携でもっと戦略的に大きな取り組みにしていこうとの意図があったからです。
澤谷ひらめきの人がたくさんいらっしゃるんですね。事業創出を推し進める上で、「ホライゾン・モデル」というのがあります。3段階あって、本業がホライゾン1で、新たな事業の種がホライゾン3。ホライゾン2はそのブリッジの役目を担います。DXデザイン事業部はホライゾン2を推進する重要なポジションですね。何か課題はありますか。
柴谷これまで種まきしてきたことを、大きな成果へとスケールアップさせていく、事業化推進力の強化が課題です。2021年にDX事業コンセプト「Erhoeht-X(エルヘートクロス)」を策定し、トッパンとして注力する重点カテゴリーとして、「Hybrid(ハイブリッド)-BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」「セキュアビジネス」「マーケティングDX」「デジタルコンテンツ」「製造・流通DX」の5つを設定しました。5つのカテゴリーの中に、培ってきた技術やソリューションを集約、連動させて、戦略的かつスピーディーに進め、手応えが出始めつつあるところです。