【鼎談】住友商事 南部智一氏×SCSK 當麻隆昭氏×アビームコンサルティング 山田貴博氏

社会が必要とする新たな価値創造に挑戦し続ける住友商事、先進テクノロジーの実装力を強みに共創ITカンパニーへとさらなる進化を遂げようとしているSCSK、アジア発・日本発のグローバルコンサルティングファームとして、企業や組織の変革をつなぎ、共創による社会変革を目指すアビームコンサルティングの3社によるダイナミックな価値共創が動き出した。3社の共創は企業や社会にどのような価値を提供していくのか。共創の背景やこれまでの取り組みと実績、その将来像を語ってもらった。

新たな価値創出に向けた社会変革が求められている

--「3社による共創」に取り組むことになった背景について教えていただけますか。

山田貴博 氏

アビームコンサルティング株式会社
代表取締役副社長
山田貴博

山田 一番の大きなポイントはデジタルテクノロジーの進化により企業や組織を取り巻くビジネス環境が大きく変化しているということです。これまではAI(人工知能)やIoT、クラウドなどのデジタルテクノロジーやデータを活用し、企業や組織変革の中でも業務効率化を中心に推進されてきました。しかしながら、デジタルテクノロジーやデータ活用の領域が拡大し、経営の高度化やサプライチェーンの最適化、新たな顧客接点の構築や既存事業のバリューアップ、新たな事業の創出等も可能になってきたのです。また、こうしたデジタルテクノロジーやデータを活用して新たな市場を創出し、既存市場へ新たな価値とともに参入してくる企業も出てきました。

 一方で脱炭素やサーキュラー・エコノミーをはじめとするグローバルレベルの社会課題はESG(環境・社会・企業統治)やパーパス等、中長期の視点へと経営をシフトさせていますし、スマートシティのような単一の企業では解決できない取組テーマも発生しています。企業には、株主をはじめ様々なステークホルダーから、こうした課題の解決や新たな社会価値・企業価値の創出を求められています。こうした変化の中で、企業は顧客起点からの事業の見直しやバリューチェーン全体の視点で既存事業の提供価値を変えていく、そうした企業経営や組織運営、ビジネスモデルの再構築や新たなビジネスモデルの創造の必要性が生じています。

 当社はこれまで主として一企業や一組織の業務、組織、人材、ITの変革の実現を得意としてきました。これからは企業や組織の変革をつなぎ、「価値共創パートナー」として産業全体、バリューチェーン全体、さらには社会における変革や新たな価値創出の実現に挑戦する必要が出てきています。そこには、社会・産業・事業の現場を理解した上で多岐にわたってビジネスを展開し、社会・産業への事業価値提供を志向されている住友商事と圧倒的な技術力により事業価値創出を支えるSCSKとの共創は必然となっており、3社をコアとした共創でこの複雑で多様な課題に取り組むことを決め、今に至っています。

南部智一 氏

住友商事株式会社
代表取締役 副社長執行役員
最高デジタル戦略責任者(CDO)
メディア・デジタル事業部門、生活・不動産 事業部門管掌
南部智一

南部 従来型のビジネスモデルだけでは持続的な成長が望めないという時代背景が色濃くあります。ビジネス環境やニーズが変化し続け、新たなスキルセットやリソースが求められています。それをすべて自前で用意するのは限界があり、信頼できる仲間たちと力を合わせることが効果的となります。

 我々3社の連携にはその観点で大きな意義があります。連携を料理に例えると、お客様の好みを理解し、何をメインディッシュにするかをアビームが考え、旬のネタを使って調理するのがSCSKで、場所やコース全体を提供するのが当社という枠組みです。これはお互いのことを理解し、得意領域を組み合わせることが重要になります。

多様な現場から抽出した課題を3社共創で解決

--どのような領域で共創していくのでしょうか。

南部 当社の強みは多くの事業の現場を持っていることです。約900の投資先を含めた幅広い事業フィールドとネットワークを持ち、当事者として参画することで具体的な解決すべき課題を捕捉できます。例えば、操業の効率化、売上成長、市況予測といったレベルから、脱炭素など企業のサステナビリティを確保する必要性などです。これらの課題をテーブルに乗せるところから共創をスタートさせます。

 重要なのはアジリティー(俊敏性)を持って課題を解決する手段を提供することです。私たち3社は価値観(志)を共有し、活動しているので、効率的に迅速に、対応することができます。

事業共創における3社の役割

--これまでの実績としてはどのようなものがあるのでしょうか。

南部 当社内のほぼ全ての事業領域において3社で連携していますが、例えば、アジア6ヶ国、8ヵ所の工業団地で従来の土地分譲プラス水・電気・ガスといったサービスだけでなく、入居企業様の労務管理、品質保証、工程の最適化など個社のDXを支援する活動を3社で展開し、工業団地のモデルの改革に取り組んでいます。

 また、CO2排出量の可視化から削減の実現までを伴走型で支援する「GXコンシェルジュ」サービスも3社で立ち上げています。削減に向けたコンサルティング支援や、クラウドサービス、削減ソリューションを組み合わせて一気通貫で温室効果ガス対策を提供しています。

日本やアジアの企業に向けた独自の成長シナリオを描く

--3社によってどのような社会的価値を創出できるとお考えでしょうか。

當麻隆昭 氏

SCSK株式会社
代表取締役 執行役員 社長
最高執行責任者
當麻隆昭

當麻 当社はビジネスに必要なITサービスをフルラインアップで提供し、 多様な業種にわたる約8000社のお客様のIT基盤を支えてきました。もともと合併によって成立した経緯もあり、常に共創を経営テーマに掲げてきました。現在はお客様先500カ所超の拠点に、協力会社の社員の方を含め約1万人のITエンジニアが常駐しています。その拠点を軸に、お客様とともに新しい価値をつくりだす共創を進め、「2030年共創ITカンパニー」の実現を目指しています。

 当社の強みはデジタルサービスを実現する力です。GXコンシェルジュでは温室効果ガス排出量の可視化や分析、予測、最適制御などのサービスの開発を担っています。そこではIoTやAIなど当社ならではの先端技術が活用されています。

 住友商事の持つグローバルなネットワークとビジネス現場、アビームの持つビジネスとデジタルをつなげるデザイン力、そして当社の持つデジタルサービスの構築力を合わせることで新たなビジネスモデルを創出し、社会変革の方向性を決定づけることができると確信しています。

山田 当社の強みはテクノロジーを組み合わせて変革や価値創出につなげる具体的なプロセスをデザインし、推進できることです。そこで求められるのが、持続可能な変革のプロセスと価値創出のプロセスを構築し、それに携わる人たちの行動変容を起こすことです。

 変革に対しては抵抗感が常に存在し、新たな価値創出についても難易度は高いのですが、3社がコアになり、多様な専門性を持った他も巻き込んで、成長や変革のテーマによって必要とされる組織や人材を整え、日本やアジアにおける特異性や複雑性に対して携わる人々の行動変容を持って継続的に取り組むことで、欧米のベストプラクティスを持ち込むという非連続な変革や成長ではなく、独自の成長シナリオを描くことが可能になると考えます。

南部 これまでは業務改善のDXが中心でしたが、今後はデータを活用した意思決定やマーケティングの領域でもイネーブラーとして、国内外の課題解決の伴走者になりたいと思っています。また、それらを通じてビジネスモデルの改革が促進できればと思っています。

南部 氏

「次のステップのキーワードはデータを活用した意思決定の高度化と
グローバルな競争力の強化であると考えています」(南部氏)

同じ志を持った集団の力で新たな価値を創出していく

--今後の展開についてお聞かせください。

山田 今、社会や企業が抱えている課題は複雑で、これまでのように企業1社で解決できるものではありません。その解決には様々な視点と専門性が必要です。社会や産業構造上に様々な接点があり、事業の現場に深く入り込んでいる住友商事の力で課題を抽出し、当社がその課題解決に向けたシナリオを描き、当社の技術に対する目利き力と構想力、SCSKの技術力でデジタルに実装していくことを徹底的にやっていきます。

 また、社会や産業、企業の未来像を描くことや未来の実現に向けて新たな価値を創造していくために価値創造ストーリーを定義していくことも共創の重要な役割であると認識しています。

山田 氏

「グローバルレベルの競争力の強化を実現する
新しい成長プラットフォームを構築することが
産業変革と社会の成長に貢献することにつながるはずです」(山田氏)

 3社の共創で日本とアジアの企業の価値向上とグローバルレベルの競争力の強化を実現する新しい成長プラットフォームを構築し、社会変革や産業全体の変革と成長、未来の実現に貢献していきたいと考えています。

當麻 当社を従来のSIerから脱皮させることが私の使命です。今まではお客様のシステムを陰で支える縁の下の力持ち的存在でしたが、今後はクラウドサービスインテグレーターとして、より積極的にお客様の成長や社会の課題解決に貢献していきます。

當麻 氏

「従来のSIerから脱皮させることが私の使命。」(當麻氏)

 そのためには、社員の意識改革が必要です。働き方改革と同時に働きがい改革を進め、社員のモチベーションを向上させることで、さらなる共創を実現できると信じています。

南部 3社の連携を軸に、志を同じくするパートナーの皆様と共創し、国内外の社会課題を上流から解決案と具体策が提供できるデジタルソリューションプロバイダーを目指していきたいと思います。

當麻隆昭 氏 南部智一 氏 山田貴博 氏
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