NIKKEI FT Communicable Diseases Conference
第10回 日経・FT感染症会議〈Special 5 Session〉

感染症に強い社会へ感染症に強い社会へ

Special Session 3.Special Session 3.
ファイザー

With Japan で革新を起こす
~日本におけるオープンイノベーションの活性化に向けて~

ワクチン開発の司令塔として先進的研究開発戦略センター(SCARDA)が設置されるなど、次なる感染症のパンデミック(世界的大流行)に備える動きが活発化している。日本経済新聞社が10月に都内で開催した「第10回日経・FT感染症会議」におけるファイザー日本法人の特別セッションでは、産官学が連携してワクチン開発などを進めるための課題を共有。グローバルでオープンな創薬エコシステムに参加し、「With Japan」で革新を起こすことが必要だと訴えた。

次なるパンデミックへの
平時の備え急ぐ

河岡 義裕氏
国立国際医療研究センター
国際ウイルス感染症研究
センター長/
東京大学国際高等研究所
新世代感染症センター機構長/
東京大学医科学研究所
ウイルス感染部門 特任教授
河岡 義裕

ワクチン開発の拠点形成
リーダーシップも重要に

海外では約1年で新型コロナワクチンの開発・接種にこぎつけた。一方、日本では開発が思うように進まなかった。この反省を踏まえて、ワクチン開発のための世界トップレベルの研究開発拠点を形成する事業が始まった。

具体的には、日本医療研究開発機構(AMED)内に新組織SCARDAを設立。東京大学をフラッグシップ拠点とし、北海道大学、千葉大学、大阪大学、長崎大学にシナジー拠点を設けて、6つのサポート機関が活動を支援する。

各拠点ではワクチン開発に有効なシーズ(種)やモダリティ(創薬手法)を見つけ、ワクチン新規モダリティ研究開発事業により第1相、第2相試験に展開していく。民間企業との連携も強化する。

ワクチン開発が遅れた背景には、安全性の考え方やリーダーシップの問題もある。米国ではワクチン開発の責任者に全権を委ね、臨床試験の期間も圧縮した。次のパンデミックで日本に同じことができるか。社会全体で考える必要がある。

鷲見 学氏
内閣感染症危機管理統括庁
内閣審議官
鷲見 学

新たな感染症危機見据え
行動計画などの整備急ぐ

9月1日に内閣感染症危機管理統括庁が発足した。厚生労働省や2025年度以降に新たな専門家組織として設置される国立健康危機管理研究機構などとも連携して活動する。

統括庁の主な役割は、感染症危機に対して平時・有事における司令塔機能を果たすことだ。平時には政府行動計画の拡充や訓練の実施を通じ、危機に際して迅速・的確に対応するための体制を整備。有事には政府対策本部の下で各省庁などの対応を統括する。

エボラ出血熱などパンデミックにはならないが危険な感染症や、薬剤耐性菌(AMR)などへの対応も担う。

政府行動計画の拡充では、水際対策や保健・医療体制、ワクチン、治療薬といった項目について議論している。デジタルトランスフォーメーション(DX)や国際連携も課題だ。平時からワクチン承認プロセスや接種体制、副反応の把握システムなどを整備し、有事に生かせる体制を整える。対策のためのに必要な予算のあり方なども議論になるだろう。

危機意識を保ち、人材を育てながら、取り組みを進めたい。

原田 明久氏
ファイザー 代表取締役社長
原田 明久

世界の創薬エコシステムで
イノベーション目指す

製薬会社はシーズを見つける研究から開発、製造、供給までのエコシステムがなければ製品を世に出せない。それだけオープンイノベーションの機会と可能性は大きい。グローバルでオープンな創薬エコシステムに加わり、「With Japan」でイノベーションを目指すことが重要で、後押しする政策も求められる。

ライフサイエンスの世界では、バイオベンチャー企業との協働が一層重要になる。当社がバイオベンチャー企業とインフルエンザワクチンの開発に取り組んでいたとき、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生。新型コロナワクチンの開発にシフトし、迅速な開発・提供を実現した。

感染症領域に限らず、日本の基礎研究は世界レベルにある。経済産業省の「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」などの政策支援も活用して、日本のアカデミアやベンチャー発の研究成果を海外に展開し、グローバルな創薬エコシステムを利用してイノベーションを実現させ、世界的な最終製品を生み出し、日本を含む世界の人々に貢献する。そうしたエコシステムを構築していく必要がある。

グローバルなエコシステムを利用し
日本と世界に貢献
グローバルなエコシステムを利用し日本と世界に貢献
パネルディスカッション
  • 島国意識捨てて世界展開 河岡
  • 前進のため最善策考える 原田
  • 国民守るしたたかな戦略 鷲見
  • 障害乗り越える対話重要 乗竹
乗竹 亮治氏
モデレーター
日本医療政策機構理事・
事務局長/CEO
乗竹 亮治

乗竹新型コロナウイルス感染症のパンデミックを振り返って、日本の課題をどう見るか。

河岡ワクチン開発について言えば、初動はそれほど遅くなかった。その後のステップに課題が残った。

乗竹ワクチン開発においてファイザーの動きは速かった。その成功の要因は。

原田ワクチンの開発力だ。4つの候補品があり約2カ月の間に第2相試験まで済ませ、どの製品を進めるか決めて集中的に投資した。今後、日本ではSCARDAが主導して第2相試験まで展開するという。開発力が高まることに期待したい。

河岡ワクチンの研究開発拠点はあくまでシーズを見つける場だ。製品開発には企業との連携が欠かせない。大学や研究機関などのアカデミアは研究成果をオープンにする。しかし、企業では必ずしもオープンイノベーションの文化が根付いているわけではない。特許申請のタイミングも企業とアカデミアとでは異なる。

原田特許申請のタイミングはビジネス上の戦略に基づいているが、企業側もオープンなアプローチを取るべきケースもあるだろう。開発を前進させるために何が最善か互いに考えることが大切だ。

乗竹「革新的な医薬品・ワクチンを生み出す」という共通のゴールに向けて、産学は考え方をすり合わせることでオープンイノベーションを進められそうだ。官の連携はどうか。

鷲見研究開発(R&D)は民間企業が開発力を高め、競争しながら製品を生み出す領域だ。国としては国民を守るために良い製品をいち早く確保し、国民に届けることが課題になる。国産品を確保できるか、調達をどうするか、製造場所をどう考えるかなど、優先順位を付けて適切な予算の割り振りを検討する。オープンイノベーションについては、国からどのような支援があればより効果が高まるか、提案してほしい。

原田国はここまでやる、後は民間がリスクを取るといったメリハリを利かせることが大切だ。その上で、アカデミアからシーズが出てきたらどんどんスピンアウトしてバイオベンチャーを立ち上げる。そうすれば民間同士の会話ができて物事が進みやすい。

乗竹バイオベンチャーを含む創薬イノベーション環境について日本の課題は。

河岡日本ではバイオベンチャーがなかなか立ち上がってこない。海外ではアカデミア発のベンチャーは珍しくなく、経営のプロも紹介してくれる。最終的に大企業に買われて投資した人たちが幸せになるという流れができているが、日本にはそうした環境がない。

乗竹メード・イン・ジャパン、メード・オンリー・ジャパンという意識も根強い。

河岡島国的な感覚は捨てるべきだと思う。補助金を使ってワクチン開発をしていると、それは日本で使えるようになるのかとよく聞かれる。日本を含む世界を救うという考え方が必要だ。

原田補助金を使う場合は、日本国民のためになることを説明する必要はあるだろう。日本国内で特許を取得しながら、外資系企業などと連携して世界展開するのもよい。

河岡日本のワクチンメーカーは、最終的に世界展開していくための体力が十分ではないように思う。しかし、ほかの産業分野では世界中に展開しているので、世界を見据えて物事を進めることはできるはずだ。ワクチンもほかの業界と同じように海外展開できるシステムが構築されることを期待したい。

鷲見世界に貢献しながら日本国民にも寄与するという道筋と同時に、国としては安全保障の観点から必要なものをいかに確保するかという視点が欠かせない。複数のオプションを持ちながら、したたかな戦略で国民を守ることが大切だ。

乗竹今後に向けた期待やメッセージを。

河岡日本のことだけを考えるのではなく、世界の一員であるという認識を持ってグローバルな視点で物事を進めていくことが重要だ。

原田日本には「With Japan」を可能にするポテンシャルやインフラはあると思う。それらをどう生かすかが課題だ。

鷲見政府行動計画を策定する中で様々な立場の人と議論を重ねていく。それぞれの考え方の違いを理解しながら、1つずつ課題を克服していきたい。

乗竹産官学連携やマルチステークホルダー(多様な利害関係者)の連携は重要だが、それぞれ文化の違いがある。オープンイノベーションを進めるには互いの違いを認識し、障害を乗り越える対話を重ねることが大切だ。

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