伊藤 元重 氏(東京大学名誉教授)× デル・テクノロジーズ
SDGsのゴールと進捗状況を
社会に発信することの意味

提供:デル・テクノロジーズ

SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)への関心が高まるなか、独自の施策を推進する企業が増えている。世界最大級のIT企業であるデル・テクノロジーズも、そうした企業の一社だ。同社は2030年に向けたビジョンと、それを推進するための目標「Moon Shot Goal」を掲げ、持続可能な社会の実現に向けた先進的な取り組みを実践。さらに、その進捗状況を毎年公表している。そんな同社の取り組みを識者はどのように評価するのか。東京大学名誉教授の伊藤元重氏と、デル・テクノロジーズの松本笑美氏、佐々木邦彦氏が意見を交わした。

うまくコーディネートできていない
日本企業のSDGs

写真:伊藤 元重 氏

東京大学名誉教授

伊藤 元重

いまSDGsやESGの取り組みが世界的に注目されています。このような潮流をどのように見ていますか。

伊藤とくに気候変動問題に対しては、世界中の国々が取り組んでおり、個々の企業レベルでもかなりの進展が見られます。なかでも欧州では比較的早い時期からサステナビリティーを推進する潮流が見られ、米国でも先駆的な取り組みが進められています。日本では、例えば素材メーカーのような製造業を中心として、個々の企業がそれぞれ努力しているものの、全体としてはうまくコーディネートできていないようです。日本もサプライチェーン全体で協力し、取り組みを進めていく必要があると感じています。

松本欧州が先行しているというお話がありましたが、デル・テクノロジーズの取り組みをけん引しているのはまさに欧州の拠点です。欧州で始まった潮流が米国に到達し、さらに日本へというのがいまの状況です。

伊藤日本政府も気候変動や脱炭素などの取り組みは避けて通れない、中途半端ではいけないと認識し始めています。企業の間でも他社に先駆けてサステナビリティーの取り組みを推進したいという意識が広がっているようです。

写真:松本 笑美 氏

デル・テクノロジーズ株式会社
ソーシャルインパクト ジャパンリード

松本 笑美

デル・テクノロジーズではどのような取り組みを推進していますか。

松本サステナビリティーに関しては、2000年頃からライフサイクルを終えた製品をゴミにしないようにリサイクルの取り組みを開始しました。現在は、2030年に製品の50%、梱包材の100%を再生部材にするという目標を立て、当社が販売した製品と同等の量を引き取ってリサイクルする取り組みを推進しています。ただし、サステナビリティーだけに注力すればよいというわけではなく、さまざまな社会課題の解決に取り組む必要があります。デル・テクノロジーズではソーシャルインパクト(社会的影響)に関する具体的な目標「Moon Shot Goal」の実現に向けて取り組んでいます。

 サステナビリティー以外にも、女性やマイノリティーを積極的に登用するといった多様性を受け入れるための目標、社員がNPOと協力し地域社会のボランティア活動に参加するといった人々の生活に変革をもたらすための目標、倫理とプライバシーを守るための目標などが含まれています。

伊藤2030年というそう遠くない未来を設定し、しっかり取り組んでいるところにデル・テクノロジーズの強い意志を感じます。すでに資源の循環や社会的問題の解決につながる施策を進めているのは、個別の企業がサステナビリティーをはじめとする社会課題の解決に貢献できることを証明しています。

 一般論として環境負荷の低い製品を作るとか、あるいは資源の循環を考えるとか、社会課題に応えていくには、相応のコストがかかります。これを将来に対する「投資」であると捉えることができるのは、ブランド価値を持っている企業だけです。その意味でも、デル・テクノロジーズには先行してほしいと期待しています。

図:デル・テクノロジーズが推進するESGの4つの柱と具体的な目標
図:デル・テクノロジーズが推進するESGの4つの柱と具体的な目標

SDGsの進捗状況を公表する
「ESGレポート」

デル・テクノロジーズは2030年の目標達成に向け、1年ごとの進捗状況を報告する「ESGレポート」を公表していますね。

松本ESGレポートは、国連が策定したSDGsの17項目について、デル・テクノロジーズとしての取り組み状況を公表することを目的にした年次報告書です。19年に2030年ビジョンとMoon Shot Goalという目標を設定したのを機に、CSR(社会的責任)レポートと統合して発信するようになりました。2022年度版からはESGレポートとして発信を始めています。(日本版発行は2022年後半の予定)

図:「ESGレポート 2021年度」で示された実績(一部)
図:「ESGレポート 2021年度」で示された実績(一部)
写真:佐々木 邦彦 氏

デル・テクノロジーズ株式会社
クライアント・ソリューションズ統括本部
クライアント製品本部
フィールドマーケティング 部長

佐々木 邦彦

製品づくりに関しては、これまでどのようなことに取り組んできたのですか。

佐々木資源の循環利用を考慮した再生素材の採用、廃棄物を削減する梱包素材のイノベーション、分解・リサイクルが容易な製品設計を進めています。

 例えば再生プラスチックの利用は08年から、航空宇宙業界から排出される炭素繊維(カーボンファイバー)の再利用は15年から、植物由来のバイオプラスチックは21年から使用しています。また、17年には海洋プラスチックを再生利用した梱包トレイを採用し、18年には梱包箱の印刷に大気中の煤から精製したインクを使用するといった取り組みもインドで実験的に開始されました。アルミニウムやレアアース、金なども循環利用し、梱包には100%古紙を原料にした緩衝材を採用していますし、今年販売開始となったノートPCの梱包箱は全てのビニールを撤廃し、100%リサイクル素材または再生可能素材が使用されることになりました。このような継続的な取り組みの結果、最新のESGレポートでは製品梱包材におけるリサイクル素材、または再生可能素材の利用率は90.2%まで上昇しました。すでにビジネスクライアント製品のほぼ全ての製品で環境評価システム「EPEAT」のゴールド認証を取得しています。

伊藤デル・テクノロジーズの取り組みを聞いて感じたのは、いまさらながら大量消費の時代が終わろうとしているということです。単に製品をつくって使って捨てるというのではなく、製品ライフサイクルを継続的に循環させるという設計思想に基づいた製品づくり、提供体制が、すでに整いつつあるということです。こうした取り組みをデル・テクノロジーズが声を上げて進めることは、日本全体のサステナビリティー、SDGs推進にも寄与するはずです。

重要なのは社会全体が協力して取り組む姿勢

SDGsやサステナビリティーを推進するうえで、どのようなことが重要だとお考えですか。

松本目標に向け、いまどのような状況にあるのか、どこまでできているのかといったことを常日頃から確認することが大切だと思います。そのために当社は1年ごとに振り返り、できているところ、チャレンジが必要なところをESGレポートとして開示しています。

 また、経営者のコミットメントも重要です。地球環境保全については多くの人に認識されつつありますが、女性やマイノリティー、人権などの社会課題について行政が主体となって取り組むべきだという風潮や文化が日本には残っているように思われます。行政や意識の高い人だけに頼るのでなく、企業同士が連携して社会課題の解決に取り組むことが大切だと考えています。

佐々木製品視点では、サステナビリティーの取り組みを製品に反映させていく必要があります。製品に盛り込まれたサステナビリティーのための仕組みや機能を消費者に伝え、価値を認めてもらうことが重要です。そうした取り組みを、一時的なはやり廃りに左右されずに進めていかなければならないと思っています。また、競合かどうかを問わず、一緒にサステナビリティーの取り組みを推進する仲間を増やしていくことも非常に大切です。

伊藤例えば、節電の取り組みをなぜ進めるのかという質問に対し、回答の選択肢は4つあります。「電気代が安くなる」という経済的なインセンティブ、「節約は美徳だ」という道徳的なインセンティブ、「地球環境に貢献する」という社会的なインセンティブ、そして「みんなが取り組んでいる」という集団的なインセンティブです。さまざまな研究によると、このなかで圧倒的に多い回答は、集団的なインセンティブなのだそうです。つまり、行政が主導して推進するだけでなく、社会全体、多くの人々を巻き込むことが重要だということです。その意味でも、デル・テクノロジーズのようなグローバル企業が、日本市場に向けて、できるだけ分かりやすくその活動の内容を発信していくことはとても重要であり、これからも大いに期待するところです。

本日はありがとうございました。

図:環境に配慮したデル・テクノロジーズのPowerEdgeサーバー

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