アート＆カルチャー部門 受賞

1986年東京都生まれ。幼い頃から歌を学び、12歳でミュージカル初主演。高校時代は米国に留学。ミュージカル「レ・ミゼラブル」のマリウス役に抜擢されて以降、俳優・声優・歌手・番組ＭＣとマルチに活躍。今後は映画「イチケイのカラス」（2023年１月13日公開）、「THIS IS IKU 2023」（同年３月21日開催）、ミュージカル「ファインディング・ネバーランド」（同年５月〜）に出演。

　幼いころからの目標だった「レ・ミゼラブル」「モーツァルト！」「ミス・サイゴン」「エリザベート」の４大作品すべてへの出演を、20代のうちにかなえた山崎育三郎さん。“ミュージカル界のプリンス”の名をほしいままにしたが、一方では、ミュージカルは日本のエンタメ界のなかでは少し孤立した場所にあるとも感じていたと言う。

「たとえばボクが街を歩いていても声をかけられることはない。見においでと、友達を誘っても“ミュージカルはわからないからいい”と断られる（笑）。何か新しい挑戦をしない限り、皆さんにとって身近なエンタメにはならないなと考えたんです」

　そこで30代を挑戦の期間と位置づけ、テレビの仕事を積極的に引き受けるように。ミュージカル界を盛り上げたいとの思いからだったが、最初にドラマの仕事をする際にミュージカルの仕事を一旦ゼロにした。

「主役をやらせていただくようになったのですが、日程的に両立は無理で。育三郎、大丈夫か？ なんて、ミュージカル仲間には相当心配されました。でもボクには“怖いところにしか成長はない”という信念があって」

　そう思うようになったのは、留学時代の経験からだ。留学先は米国の片田舎の高校で、アジア人生徒は彼一人。最初は「相当いじめられた」という。その状況を打破するため、高校のダンスパーティに一人で参加。たくさんの生徒が踊る真ん中で得意のダンスを披露したところ、会場中が湧き、その日を境に一気に人気者となった。

「あの経験が原点。すごく怖かったけれど、あそこで勇気を出して一歩踏み出したから、今のボクがある」

　テレビ進出時の目標だった朝ドラと大河ドラマへの出演も果たした。番組ＭＣ（司会）、映画、声優、ラジオ、コンサート活動と、今ではやっていないエンタメ領域はないというほど仕事の幅が広がった。彼のおかげでミュージカルに興味を持った人も相当多いはずだ。

　当然多忙な毎日。でも、だからこそ家族との時間を大切にしている。どんなに遅く就寝しても、朝は子どもたちと一緒に起きる。

「先日は、そんな朝に子どもたちから頼みことをされました。YouTubeに折り紙のチャンネルがあり、そこで紹介される変身キューブをいつか作ってと。“いいよ”と軽く答えたら、ミュージカルの昼夜２公演を終えてクタクタで自宅に帰ったとき、テーブルの上に折り紙が用意されていた。約束は破りたくないので、そこから４時間かけて折り紙と必死に格闘（笑）。それで朝起きたら彼らがものすごく喜んでいて。そういう時間がとても癒されます」

　そう語る山崎さんの腕にあったのは、ＧＭＴ機能を備えたグランドセイコー。ブリティッシュスタイルのスーツにとても似合っていた。

「完全にボクの好きなタイプの時計。ダイヤルが黒色で、精悍（せいかん）さを感じるデザインが気に入りました。今日のようなスーツにも、お休みの日のラフな格好にも似合いそう。時計はその人の想いや覚悟が詰まるアイテムだと考えていて、あれこれ買い足さず、わずかな本数を大切にしてきましたが、これはそこに加えたい」

　最後に今後チャレンジしてみたいことを聞いた。

「日本オリジナルのミュージカル作品を作りたいですね。舞台と映画のどちらでも。それによって若い世代がミュージカルの世界に強い憧れを抱くような作品を。若い人が学ぶ環境も整えたい。ミュージカルで育ったので、その恩返しです」

PHOTO／筒井義昭　文／吉田 巌　
企画協力＝世界文化社 MEN'S EX