三井不動産

持続可能な社会を街づくりから
~三井不動産の挑戦~

#3

持続可能な農業の実現と
豊かな暮らし
-well-being-の追求へ

 農家の高齢化、担い手の定着率の低下など、日本の農業には課題が山積している。三井不動産グループでは、新たな事業領域として農業に参入し、日本の農業の課題解決に向けた取り組みを開始している。

 社内ベンチャー企業2社「GREENCOLLAR」、「三井不動産ワールドファーム」を設立し、農業に参入しているがこれは単なる新規事業の取り組みではない。不動産開発で培ったノウハウやICT(情報通信技術)などの活用を通じて、持続可能な農業の実現、そして、多拠点生活によるwell-beingな暮らしに向けた、都心近郊地域を巻き込む新たな街づくりへの挑戦である。

季節ギャップを生かし、
通年雇用の実現へ

温室効果ガス排出量の削減目標 GREENCOLLARの代表取締役陣
(左より:鏑木裕介氏・大場修氏・小泉慎氏)

 「社員の採用面接時、『農業に従事したいけど通年で受け入れる雇用先がない』という声を本当にたくさんの方から聞きました。若くて志の高い就農希望者は多いものの、受け入れ先が限られていることを実感しました。運よく研修の受け入れ先が見つかっても、冬場の閑散期には作業がなく、春の生産再開時には前年教わったことを忘れてしまっている。生産技術の習得が進まない理由の一つです」。株式会社GREENCOLLARの代表取締役鏑木裕介氏は言う。

温室効果ガス排出量の削減目標 GREENCOLLARの代表取締役陣
(左より:鏑木裕介氏・大場修氏・小泉慎氏)

 株式会社GREENCOLLARは三井不動産グループの事業提案制度「MAG!C」から誕生した社内ベンチャー企業だ。「しぜんと、生きる。」をビジョンに掲げ、北半球の日本と南半球のニュージーランドで高品質な日本品種の生食用ぶどうを生産し、世界中へ販売する事業を行っている。

 2014年にニュージーランドで先行して日本品種の生食用ぶどう生産を手掛けていた葡萄専心株式会社の樋口哲也代表に出会い、樋口氏の協力の元、事業を立ち上げた。ぶどう生産は繁忙期と閑散期の作業量ギャップが激しいため、従業員を大量に通年雇用することが難しく規模の拡大や効率化、高付加価値化が難しい。しかし北半球と南半球で年に2回生産を行うことで、通年雇用の実現と生産性の向上、技術力の向上が可能になる。北半球で生食用ぶどうを提供できない時期に世界中へ供給することで、高付加価値化や高収益化にもつながる。GREENCOLLARでは自社の従業員だけではなく、日本の閑散期にニュージーランドで生産活動を希望する農家を受け入れることで、安定した雇用を実現させる。

農業を「あこがれの職業」に
初心者に門戸開放、
収益力も確保

 GREENCOLLARでは農業を「あこがれの職業」としていくために、3つの柱を据えている。先の「2拠点生産・通年雇用」に加え、「農業の門戸拡大」と「収益力の確保」だ。GREENCOLLARではICTを活用し、熟練農家の技術を可視化した教育ツールの整備を進めている。初心者が気軽に農業に触れることを可能にし、2拠点居住者、副業者やボランティアなどが気軽に農業に携われる機会を創り出す。土に触れ合う楽しさや作物が成長するする喜びを体感してもらうことで、ファンを増やす方針だ。また、大規模かつ効率的な生産、商品のブランディングによって高収益化を成し遂げ、「しっかりと稼ぐ」農家になることを目指している。

地球

北半球(日本)での生産:5月から10月

通年生産

南半球(NZ)での生産:11月から4月

世界へ販売

ぶどうの生産スケジュール

 現在日本では山梨県北杜市に約5ヘクタール、ニュージーランドでは約10ヘクタールの生産ほ場を確保し、生産活動を行っている。

山梨県北杜市

GREENCOLLARの生産ほ場(上:山梨県北杜市、下:ニュージーランド ホークス・ベイ地区)

ニュージーランド ホークス・ベイ地区

GREENCOLLARの生産ほ場(左:山梨県北杜市・右:ニュージーランド ホークス・ベイ地区)

 大量生産、大量消費、情報飽和から大きな転換の時を迎える今、GREENCOLLARは大自然の中で、体と頭と感性を使い、日本の卓越した技術を守り、ローカルコミュニティを支援することで、農業を通じた豊かな生き方を実現する。これが、働く、暮らす、憩う、という人々の生活に寄り添い続けてきた三井不動産からの、ニューノーマルに対する一つの答えでもある。

GREENCOLLARの商品ブランド『極旬』「産地+品種名」での選択から「共感」での選択へ ver.β」 GREENCOLLARの商品ブランド『極旬』
「産地+品種名」での選択から「共感」での選択へ

ICTを駆使、持続可能な
スマート農業の実現へ
人々と農業が共生する
新たな都市づくり目指す

三井不動産ワールドファームの岩崎宏文代表取締役 三井不動産ワールドファームの岩崎宏文代表取締役

 後継者不足で耕作放棄地が増えているというのも、農業が抱える大きな課題だ。三井不動産は20年6月、農業法人大手のワールドファーム(茨城県つくば市)と共同出資の元で、「三井不動産ワールドファーム」を設立。そのような耕作地をお借りし、効率的な農業を進めている。業務用野菜の生産・加工を切り口に、農業そのものの発展に加えて農業を通じた地域の新しい姿の構築を見据える。

三井不動産ワールドファームの岩崎宏文代表取締役 三井不動産ワールドファームの岩崎宏文代表取締役

 ワールドファームはキャベツやホウレンソウ、ブロッコリーなど業務用の冷蔵・冷凍野菜に特化し、複数人で農場を運営する集団農法方式で定植から収穫、カットなどの加工までを一気通貫で手掛けることで安定して収益を上げてきた。出荷の際にきれいな形のキャベツが選定されスーパーマーケットなどの店頭に並ぶ一方、成型でないものや一部の発育が悪いものは廃棄されてしまう。それをカット野菜に加工して販売することで無駄を減らし、販売単価の底上げを実現している。

 新会社で代表取締役を務めている岩崎宏文氏は、ワールドファームと組んだ理由について「日本の農業振興と担い手の育成という社会課題の解決は勿論、生産・加工一体で行うワールドファームの拠点を基軸に、その他様々なビジネスとの連携を図ろうとする同社の考え方が腹に落ち、三井不動産の都市づくりのビジョンとも合致すると考えた」と話す。三井不動産ワールドファームは、ワールドファームが持つ生産・加工一体のビジネスモデルのノウハウを吸収し、より進化させることで当初5年間で「持続可能なスマート農業」を確立させていく目標だ。

 資金的リソースのほかにも、三井不動産ベンチャー共創事業部で出資している企業が提供するICTサービスを駆使することで、より効率的な営農管理や、これまで積み上げてきた生産・加工のノウハウの見える化ができ、これにより「持続可能なスマート農業」のスケーリングができる体制が整うと考えている。さらに今後は、生産・加工一体運営だからこそできる、天候に左右されない社員の安定的な休日の確保や、無駄な残業の回避に徹底的に取り組む方針だ。ワーク・ライフ・バランスを意識し社員が自分の時間を持てる環境を提供することで、日本の若い担い手の確保や就農雇用の創出につなげたいとしている。

都心と近郊地域の新たな都市モデル

近郊地域の就農ライフ 都心ライフ

人とサービスの相互交流

持続可能な農業の実践による新しいライフスタイルの実現

 現在、ほ場がある栃木県宇都宮市や芳賀町、茨城県筑西市は、日帰りや1泊2日の小旅行ができる東京都心から100キロメートル圏内に位置する。その程よい距離感から「人が集まる仕掛けを作り、本格的な農業従事者だけでなく気軽に農業に参画する『農業関連人口』を増やしたい」(岩崎氏)という狙いもある。観光農園に加えて、豪華なキャンプを体験できる「グランピング」施設や温浴施設の整備、収穫した素材を使ったバーベキューなど、人を呼び込むための発想は膨らむばかりだ。

集団農法による収穫の様子 集団農法による収穫の様子

 その先にはリモートワークや2拠点居住、週末や余暇の過ごし方の提案などを通じて、農業に関するイノベーション拠点を創出する構想もある。新たなビジネスを通じた今までにない形の街づくりに向けて、三井不動産の挑戦は続く。

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

三井不動産は持続可能な開発目標(SDGs)を
支援しています。

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