リポート2日経電子版オンラインセミナー「エクスペリエンス・サミット」

提供:PwCコンサルティング

[ パーパス経営 × Experience ]

デザイン思考
パーパス経営本質迫る

  • パネリスト

    I&CO 創業パートナー

    レイ・イナモト

  • パネリスト

    PwCコンサルティング合同会社
    エクスペリエンスコンサルティング・
    マネージャー

    坪井 りん

  • パネリスト

    PwCコンサルティング合同会社
    エクスペリエンスコンサルティング・
    シニアマネージャー

    青木 博信

  • モデレーター

    PwCコンサルティング合同会社
    エクスペリエンスコンサルティング・
    マネージングディレクター

    馬渕 邦美

ビジネスを取り巻く環境が大きく変化し続ける現在、自社の存在意義(パーパス)を明確化して、社会に貢献する価値を示す「パーパス経営」が次世代の経営モデルとして注目されている。パーパスを経営理念として掲げ、それを追求するために価値観(バリュー)や使命・役割(ミッション)、行動(ビヘイビア)を経営戦略のなかに設定する企業も増えている。いま、なぜパーパス経営が重視されているのか。その本質について、I&CO 創業パートナーで世界的なクリエイティブ・ディレクターであるレイ・イナモト氏、PwCコンサルティングの坪井りん氏、青木博信氏が意見を交わした。
(モデレーター:PwCコンサルティング 馬渕邦美氏)

企業はパーパスをどのように定義すべきか

写真:レイ・イナモト 氏

パネリスト
I&CO 創業パートナー
レイ・イナモト

Creativity誌「世界の最も影響のある50人」、Forbes誌「世界広告業界最もクリエイティブな25人」の1人に選ばれ、ニューヨークを拠点に活躍するクリエイティブ・ディレクター。欧米の大手デジタル・エージェンシーに所属し、世界を代表するブランドのデジタル戦略やクリエイティブを数多く手がける。2013年・2019年にカンヌ国際広告祭の複数部門で審査委員長を務める。2016年にI&COを立ち上げ、2019年に東京オフィスを開設。

馬渕 近年、企業経営のなかで「パーパス経営」が重視されています。イナモトさんはなぜ、パーパス経営がいま注目されているとお考えでしょうか。

イナモト 近年、さまざまな産業の発達により世の中は豊かになっているものの、世界全体が「良く」なったかというと、決してそうとは言えません。テクノロジーの発達によって世界何十億人の人たちがインターネットでリアルタイムにつながっていても、戦争や貧困が起きているのが実情です。これを解決するには政治に頼るばかりではなく、企業が力を出し合って状況を改善していく必要があると思います。そのためには、企業の存在意義や活動の目的をいま一度はっきりさせなければなりません。これが、ここ10年ほどの間にパーパス経営が注目されるようになった背景だと考えています。

馬渕 パーパス経営のパーパスとは、どのように定義されているのでしょうか。

イナモト さまざまな定義があり、なおかつビジョンやミッションといった言葉も同じようなニュアンスで使われているので、その定義が混乱したり曖昧になったりすることも少なくありません。そこでやや古い事例ではありますが、パーパスの定義とは何かを私なりにまとめてみました。

 さかのぼること60年前、当時の米国のジョン・F・ケネディ大統領は「We choose to go to the Moon.(我々は月に行くことを選択する)」という演説を行いました。このプロジェクトは「The Apollo Mission」と呼ばれましたが、日本語では「アポロ計画」と訳されました。私はこれを絶妙な訳し方だと思っています。なぜならアポロロケットで人間が月に行くことが目的ではなく、計画であることを表現しているからです。

 このプロジェクトのパーパスは「人類の発展のために宇宙を探検する」ことで、これが最上位の概念になります。このパーパスを実現するには、米国が世界で初めて人類を月へ到達させる「世界一の先進国になる」必要があり、これがパーパス実現のためのビジョンになります。このビジョンを実現するための手段こそが「この10年で月へ行く」というミッションだったのです。つまりパーパスとはビジョンやミッションの上に来る概念で、何よりも優先されるべき目的と言えるでしょう。

馬渕 とてもわかりやすい説明をありがとうございます。では、企業はパーパスをどう探索・定義していけばよいのでしょうか。

図1:パーパスで描く実践的な未来
図1:パーパスで描く実践的な未来

イナモト 「実践的な未来」を常に考えることが必要です。図1は横軸が時間、縦軸が推測を表しています。左下の「ほぼ確実な未来」は現在に近い予測可能な状態、右上の「理想的な未来」はいまの技術では実現できるかどうかわからない遠い先の状態です。実践的な未来とはその中間を指します。いまの技術でぎりぎり届くかどうかというところを着地点に定めて、そこでの自社の存在意義(パーパス)を明確化し、そこに到達するための具体的な目標(ビジョン、ミッション)を策定します。これは常に、時間と可能性との駆け引きになります。

 先ほどのケネディ大統領の事例は、最終的に「人類の発展のため」という、独りよがりでもアメリカファーストでもない目標を掲げたところに、パランスの良さを感じます。日本では20世紀の発展を支えた多くの企業の創業者たちが口をそろえて社会貢献をうたっており、そうしたところに共通点を感じます。ただし今後は、ぼやっとした社会貢献ではなく、何をしてどう世界に貢献するかという具体的で、かつ常にユーザーの視点に立ったデザイン思考でパーパス経営を実践することが重要だと思います。

パーパス経営を実現するためのアプローチ

写真:坪井 りん 氏

パネリスト
PwCコンサルティング合同会社
エクスペリエンスコンサルティング・マネージャー
坪井 りん

外資系CADソフト会社でデータ管理プロダクトのグローバルプロダクトマネージャーを担当し、ロードマップ作成、機能要件策定、UI/UXデザイン、機能デリバリーをリード。その後は国内AIスタートアップのプロダクトマネージャーとして、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)ソフトウェアの新規事業立ち上げに参画し、大手企業に対して画像認識AIプロジェクトの企画立案からデリバリーまでを支援。複雑な課題をシンプル/エレガントに解くプロダクト設計を得意とする。

写真:青木 博信 氏

パネリスト
PwCコンサルティング合同会社
エクスペリエンスコンサルティング・シニアマネージャー
青木 博信

事業会社で携帯電話アプリの開発、スマートフォンアプリの開発に従事。ゲームコンソールを含むマルチデバイスのインタラクションデザイン、全社横断のデザイン言語統一プロジェクトにも参画。帰国後はコンサルティングファームや広告代理店でデザインリサーチ、体験設計などを担当。現職では人間中心設計のアプローチとデザインスキルを生かし、クライアントのビジネス戦略策定から実行まで幅広く支援する。人間中心設計の専門家。

写真:馬渕 邦美 氏

モデレーター
PwCコンサルティング合同会社
エクスペリエンスコンサルティング・マネージングディレクター
馬渕 邦美

大学卒業後、米国のエージェンシー勤務を経て、デジタル・エージェンシーのスタートアップを起業。事業を拡大しバイアウトした後、米国のメガ・エージェンシー・グループの日本代表に転身。4社のCEOを歴任し、デジタルマーケティング業界で20年以上に及ぶトップマネジメントを経験。その後、米国ソーシャルプラットフォーマーのシニアマネージメント職を経て現職。経営、マーケティング、DX、エマージングテクノロジーを専門とする。

馬渕 イナモトさんからパーパス経営の定義やデザイン思考の重要性について話がありました。では具体的に、パーパス経営をいかにデザインして実践していけばよいのでしょうか。

青木 PwCコンサルティングが関わるプロジェクトでは、さまざまな立場の関係者が部門やチームごとに目標を定めて推進していくことが重要だと考え、パーパスにもとづいたミッションを言語化するという活動を行っています。全体の流れとしては、まずサービス/プロダクトのユーザーのリサーチや外部調査による現状把握を通じて明らかにすべき課題を見つけ、課題解決につながるアイデアを出し合って、それらを提供価値(コンセプト)として洗練させます。さらにプロトタイプを作成してユーザーへのインタビューを行い、サービス/プロダクトの成功確率を上げていくといった活動になります。これら一連の流れのなかで、現状把握のフェーズでは企業のパーパスから組織のミッションをまとめ、コンセプトのフェーズでは自分たちが具体的に何を解決したいのかを定めます。関係者が意思決定を行う際に、立ち戻って考えることのできるミッションを定義することがポイントになると考えています。

 このミッションを定義する現状把握のフェーズにおいては、PwCコンサルティング独自のさまざまなフレームワークを活用します。例えばクライアントやベンチマーク企業のサービスのUX/UIを専門家評価を通じて明らかにする「UX/UI Assessment Framework」、組織のミッションとサービス/プロダクトのコンセプト(提供価値)が一貫していることを確認し、利用者視点の顧客体験を具体化する「Experience Canvas」、提供価値がBXT(Business eXperience Technology)の観点から実現できるかを検証する「BXT Canvas」などのフレームワークがあります(図2参照)。

 いずれのフレームワークも、PwCコンサルティング独自のBXTというデザイン思考をベースにした考え方にもとづくもので、これらを活用することで、定義したミッションを常に見える環境に置き、組織の人員が増えたり新しいサービス/プロダクトをつくったりするときにも立ち戻って考えられるようにすることができるようになり、結果的に意思決定を速くすることもできます。

PwC独自のフレームワーク
図2:PwC独自のフレームワーク

イナモト ユーザーを中心にデザインするというデザイン思考をベースにした考え方が大事ですよね。ただ、このデザイン思考ですが、私は中身を完全に理解されないまま、一人歩きしている気もしています。デザイン思考はそもそも複雑な考え方ではありません。個人的にはデザイン思考という言葉に捉われすぎるのではなく、本質的に何をすべきなのかを常に意識することが重要であり、手法は後から決めてもよいと思います。

 これは私の持論ですが、課題解決においてはよく「ロジックよりもマジック」という言い方をしています。何かを計画するときにロジックは大切ですが、次に大きく一歩踏み出すときに必要なのは、ロジックにもとづいたマジックです。人間は感情で物事を決めるのが本質ですので、直感的に刺さらないと物事は大きく進みません。かといってロジックを否定するつもりはなく、マジックを生み出すにもロジックが必要になります。そうした方向性を示すためにフレームワークを用いて考え方を整理し、どのようにマジックを生み出すかを考えていくのは、とても大事なことです。

坪井 いまデザイン思考が流行しているのはなぜかと考えたとき、私は使う人のことを考えなければ価値のあるモノがつくれない時代になったからだと思います。イナモトさんからは「ロジックよりもマジック」という話がありましたが、マジックを生み出すのも容易なことではありません。人の共感が得られないと実現できないわけで、そうした風潮からもデザイン思考という考え方が出てきたと思います。

馬渕 PwCコンサルティングは、デザイン思考をベースにしたBXTを使ってどのようなことを行っているのでしょうか。

坪井 私が実際に関わっている製薬会社向けのプロジェクトについて紹介します。製薬会社のビジネスは基本的に「薬をつくって売る」というものです。ただし、患者の病気を治療するには薬の提供だけでなく、新たな治療法の提案・選択や健康増進のための行動といったニーズを充足しない限り、解決には至りません。また、医療機関や保険業界、介護業界、医療機器メーカー、研究機関など、製薬会社のみならず治療に関与するステークホルダーが患者を中心としてエコシステムを構築することで、医療提供はよりスムーズかつ快適なものになります。

 そこでPwCコンサルティングが製薬会社に提供しようとしているのが、BXTを用いた「ペイシェント・サポート・プログラム」というアプローチです。これは製薬会社にとっても新しい試みですが、①明確なビジネスプランを策定し、②患者の真のニーズを理解し、③テクノロジーを通じて必要なソリューションを構築するという、BXTの3つのアプローチを融合することで、持続可能なペイシェント・サポート・プログラムを提供できると考えています。

 実はこのプロジェクトはPwCコンサルティングとしても新たな試みであり、プロジェクトを立ち上げる際にはメンバー全員で、この取り組みがPwCのパーパス「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」に合致しているかどうかというディスカッションを行いました。私自身、パーパスがあることによって、サービス提供の先に何があるかを自問しながらプロジェクトを推進することができました。

イナモト 今回はパーパス経営について意見を交わしましたが、私は形式に捉われることなく、本質が何かを常に問い続け、そこにフォーカスすることが重要だと思います。

青木 フレームワークはあくまで手段であり、本来達成すべきはパーパスの実現です。そこにつながる過程において的確な意思決定を行っていくことが重要なポイントであり、BXTのアプローチやフレームワークを活用して、企業のパーパス経営を支援していきたいと考えています。

馬渕 ありがとうございました。

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