提供:パナソニック コネクト

未来へつなぐ変革の道
識者と探る持続的成長の鍵

Vol.2 企業カルチャー

企業変革をリードする
マーケティングの新定義

写真左)トーマス・バルタ 氏 Global CMO Expert, Founder, the Marketing Leadership Masterclass
写真右)山口有希子 氏 パナソニック コネクト 取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CMO

写真左)トーマス・バルタ 氏 Global CMO Expert, Founder, the Marketing Leadership Masterclass 写真右)山口有希子 氏 パナソニック コネクト 取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CMO

VUCA(変動、不確実、複雑、曖昧)時代において、企業や顧客のニーズが変化するスピードは日々加速している。それとともに市場との接点を生み出すマーケティングの在り方も以前から変わりつつある。2022年4月にパナソニックグループのBtoBソリューション事業部を引き継いで新設されたパナソニック コネクト(以下コネクト社)は、組織改革と同時にマーケティングの強化に取り組んでいる。同社はどのようにマーケティング活動を推進しているのか。また、マーケターは企業にとってどのような役割であるべきなのか。マーケティングとリーダーシップ研究の第一人者であるトーマス・バルタ氏とコネクト社の山口有希子氏に新時代のマーケティングについて聞いた。

本来のマーケターとは
企業変革を支援するリーダー

――VUCAの環境下で、マーケティングの役割は変わってきているのでしょうか。

近年は貿易障壁や紛争、デジタル化、さらにはAI(人工知能)の活用など多くの変化が起こっています。今後もそのペースは加速していくので、これまで変革に取り組み、一定の成果を上げてきた企業でも、次世代の変革リーダーが必要になるでしょう。私の共著書『The 12 Powers of a Marketing Leader(マーケティングリーダーの12の力)』が多くのマーケターに読まれている理由もそこにあります。

この本では、6万8000人を対象にした調査を通じて得られた、活躍しているマーケターの特徴を紹介しています。彼らが取り組むのはウェブサイトの制作やデジタルマーケティング施策といった「業務」ではありません。「どうすれば企業や顧客が求めている価値を生み出せるか」を考えて、積極的に社内外でアクションを起こしています。会社や顧客が望むものは常に変化し続けるので、それに合わせて変化をリードするのがマーケターの役割だと思います。

VUCA時代には、企業が自ら変化を起こし、変わり続けることが非常に大切です。私もマーケターはそうした変化をリードする存在になるべきだと考えています。ただ、ほとんどの日本企業では、マーケティングを非常に狭く捉えているように思います。そもそも、その定義も曖昧で、ウェブサイトやカタログの制作や広告を担当する部門のようにみなされています。これは日本における課題の1つですが、他の国ではどうなのでしょうか。

山口有希子 氏
山口有希子 氏
パナソニック コネクト 取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CMO

程度の差はあれ、同じ傾向が見られます。しかし、山口さんがおっしゃるとおり、本来のマーケターがすべきは、変革リーダーとして企業変革をけん引し、顧客が正しい価値や知見を見いだせるよう導き、人々を動かしていくことです。

変革をリードすることは生まれつきの能力ではなく、そのスキルを学んでいく必要があります。幼いころ、ココ・シャネルはドレスの作り方を知らなかったし、サルバドール・ダリは絵の描き方を知らなかったけれど、それぞれ技能を学び、大きなイノベーションを起こしました。

私たちが開催する「マーケティング・リーダーシップ・マスタークラス」では毎年数百人の受講者が、上司や同僚の動かし方、変革の作り方、マーケティング手法などを学びます。こうした技術は何度も実践するうちに上達しますが、年齢を重ねればすべての力を習得できるわけではありません。影響力を及ぼす方法を学び続け、それをスキルとして実践し続けることが大切です。マーケターとしてブランディングやプロモーション、AI、デジタルを学び続け、かつ変革をリードできるスキルも身につけてこそ、企業にとっても社会にとっても意味ある「チェンジリーダー」になれるのです。

素晴らしいブランドを持てるのは
素晴らしい企業だけ

――コネクト社のCMO(最高マーケティング責任者)として、どのように変革を推進してきましたか。

私がまず注力して取り組んだのは、企業ブランドと企業カルチャーを創ることです。素晴らしいブランドを持てるのは、素晴らしい企業だけです。つまり、その企業が本当によい会社でないと、よいブランドは創れません。小手先の広告やメッセージでは見透かされる時代です。では、素晴らしいブランドやカルチャーをどうやって創るのか。それには全従業員が共によい企業を目指していく必要があります。これは全社的な活動なので、マーケティングチームだけではできません。CEO(最高経営責任者)に伴走しながら、他部門や経営層、社外の方々など多くを巻き込む必要がありますが、そのときマーケターはハブ(中心)の役割を果たせることが必要です。

私たちは、会社全体の変革を推進するために、従業員エクスペリエンスにも力を入れてきました。当社では社員を「CONNECTers(コネクター)」と呼んでいるのですが、人事部と共同プロジェクトをいくつか立ち上げ、「CONNECTers' Success」のコンセプトを作り、様々な啓蒙・教育プログラムを展開しています。これは通常、HR分野の活動だと認識されていますが、HRの中にもマーケティングの要素があります。連携することによって、より大きなインパクトを生み出せていることを実感しています。

従来のマーケティングの担当領域に閉じこもるのではなく、部署を越えて活動されているのは素晴らしいですね。

トーマス・バルタ 氏
トーマス・バルタ 氏
Global CMO Expert, Founder, the Marketing Leadership Masterclass

2年前の組織再編で、BtoBソリューション領域を担う事業会社としてパナソニック コネクトが発足した際にも、マーケティングチームがハブとなってパーパスとコアバリューを創りました。会社の一番大切な価値は何か、私たちが進むべき方向はどこかという議論は、会社を1つにし、健全なカルチャーを浸透させるうえでも重要です。そこで社長はもちろん、戦略チームや人事、多くの事業部門や海外支社とも連携し、何度も議論を重ねました。

パナソニック コネクト パーパス
パナソニック コネクト パーパス

パナソニック コネクト コアバリュー
パナソニック コネクト コアバリュー

会社が前進したという手応えを感じた活動はほかにもありますか。

当社はハードウエアの製造からソフトウエア、サービス、コンサルティングへとビジネスモデルを拡大しています。いまの時代、性能の良いモノを製造すれば売れるという考えだけではダメで、顧客の本質的な課題にもっと焦点を当てる必要があります。そのために、ある部門で、顧客インサイト(製品やサービスの利用につながる潜在的ニーズ)を理解するための「N1インタビュープロジェクト」を実施しました。顧客にしっかり向き合うことで、通常のヒアリングでは聞き出せないことも含めて、深掘りしようと考えたのです。このプロジェクトは、エンジニア、営業、商品企画、経営幹部などと協力しながら進めました。その結果、顧客ニーズについて多くの新しい発見がありました。

トーマス・バルタ 氏 山口有希子 氏

「価値創造ゾーン」の拡大は
企業カルチャーが1つの鍵

マーケターが部署や人をつなぐハブの役割になるためには、市場と顧客を見る機能と同時に、自社のこともよく理解していることが前提です。これはバルタさんの説く「価値創造ゾーン(Vゾーン)」の概念にも通じることだと思います。

企業のニーズと顧客のニーズが重なったところがVゾーンで、マーケターの仕事はこのゾーンを大きくすることです。例えば、私たちが今日目にする偉大な発明や新製品の多くは、最初に社内で提案されたときに、すぐには承認されなかったはずです。技術面、人事面、倫理面、財務面など様々な課題から、意思決定を躊躇することもあるでしょう。このような場面で変革を起こせるマーケターが重要になるのです。財務、人事、製造など様々な部門の人々と協力して、会社にとって何が重要かというニーズを理解し、その解決策を見いださなくてはなりません。

ただし、Vゾーンを大きくする方法は誰も教えてはくれないし、ブループリントもありません。自分で事例を作っていく必要があります。だからこそ、マーケティングは変革を起こすのが仕事であり、変革をリードすることが重要になるのです。

出典:『The 12 Powers of a Marketing Leader』
出典:『The 12 Powers of a Marketing Leader』

Vゾーンを広げる際には、企業カルチャーも1つの鍵になると思います。私たちの企業カルチャー変革の目的の1つは、顧客に向き合うことです。歴史の長い大企業では、サイロ化された組織の中で、社員が顧客ではなく、社内に目を向けがちです。まさに大企業病です。それに抗うためには、健全な企業カルチャーを創る努力を続けること。現場の声、顧客の声、さらには社会や地球の声を聞くことができるカルチャーが重要です。

市場を理解し、顧客の声を取り入れる際には、マーケターはコネクターになることが重要です。なぜなら、マーケティングは市場との接点を持っている職能だからです。

私は来日するたびに、コカ・コーラやマクドナルド、グーグルなど国際的なマーケティング事例の説明を求められます。いくつか紹介すると、みんな「すごい」と感心します。確かにこうしたグローバルのマーケティング活動は素晴らしいのですが、だからといって自分たちは彼らに劣ると思い込んでしまうのは問題です。日本は世界第4位の経済大国で、多くの分野で成功しています。多くの日本発のグローバル企業がアジアで高度なマーケティングを行っていますが、それは独自の方法で顧客を理解しているからです。

他国から学ぶことは重要ですが、日本のマーケターが目を向けるべきは他国の企業が何をしているのかではありません。自分たちの顧客が何をしていて、何を望んでいるかを理解することです。他国で正しいとされていることが、自国ではそうではない可能性もあります。日本のマーケターの真の力となり得るのは、自分の顧客の理解を深めることなのです。

社内変革の担い手
マーケターはチェンジメーカーに

日本では従来の業務範囲を越えた活動を実践するのに、苦労しているマーケターが多いと感じます。役割を向上させるにはどうすればよいですか。

マーケターがチェンジメーカーになり得ることを、CEOに理解してもらうことだと思います。変革の多くが失敗するのは、人々が変化を好まないからです。例えば、株価を上げるために頑張れと言っても、人々の心は動きません。素晴らしい会社になるため、大義や大きな夢のため、あるいは素晴らしいチームの一員になりたいという動機から、人々は一生懸命に働くのです。

ファクトや数字が求められる世界の中で、マーケターはエモーショナルだとよく言われます。顧客の欲求はエモーショナルなものであり、これは変革にも必要な要素です。マーケターは会社や社内の人々、顧客の考えを理解し、ステークホルダーの心を動かす。それらを結びつけることで夢を実現し、成功事例を作ることができます。

だからこそ、私が伴走してきた優秀なCEOは、優秀なマーケターを社内変革の担い手として抜擢しています。社内のトップマーケターと話をして、彼らが先頭に立って変革を推進できる環境を用意すれば、その効果は指数関数的なはずですから、ぜひ試していただきたいと思います。

日本のマーケターにとって心強いメッセージをありがとうございます。私自身も「CONNECTers」として、マーケティングの力で、会社にも社会にもよりよい変化をもたらすために頑張りたいと思います。

山口有希子 氏

山口有希子 氏 パナソニック コネクト 取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CMO

シスコシステムズやヤフージャパンなど複数の日本企業・外資系企業でマーケティング部門管理職として25年以上従事。日本IBMデジタルコンテンツマーケティング&サービス部長を経て、2017年12月から現職。

トーマス・バルタ 氏

トーマス・バルタ 氏 Global CMO Expert, Founder, the Marketing Leadership Masterclass

消費財大手の米キンバリー・クラークの国際マーケティングディレクターとしての経験を持ち、米マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーとしても活躍。世界的なスピーカーや「マーケティングとリーダーシップ」の専門家で、マーケティングリーダーシップマスタークラスの創設者であり、『The 12 Powers of a Marketing Leader』(米マグロウヒル)の共著者でもある。

未来へつなぐ変革の道
識者と探る持続的成長の鍵

シリーズ一覧