提供:PwCコンサルティング

日経電子版オンラインセミナー「VUCA時代のインテリジェンス経営」

リポート3テクノロジー鼎談

バーチャルテクノロジーの産業実装とその未来

集合写真:馬渕氏、古田氏、金出氏

ロボット技術や生成AIはどう進化していくのか

近未来を変えるバーチャルテクノロジーの課題とは?

PwCコンサルティング合同会社
パートナー

馬渕 邦美

千葉工業大学
未来ロボット技術研究センター・所長
千葉工業大学 常任理事

古田 貴之

PwCコンサルティング合同会社
Technology Laboratory
技術顧問

金出 武雄

メタバースやバーチャルヒューマン、そして生成AI(人工知能)に代表されるバーチャルテクノロジーが爆発的な進化を遂げるいま、これらの技術をいかに産業実装していくかが問われている。また、このイノベーションによって人々の仕事や働き方にはどのような変化がもたらされるのか。日本が誇るロボット工学の第一線で活躍する研究者と、PwCにおいてバーチャルテクノロジー領域に深い知見を有する専門家が、その過程で直面する課題を明らかにするとともに今後の展望について語り合った。

リポート1

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【Keynote】
いまこそ磨くべきマクロ経済のインテリジェンス

リポート2

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【対談】
日本企業が持続的成長を遂げるためのカギとは?

リポート4

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【パネルディスカッション1】
SX/GX分野で日本企業はいかに勝ち筋を掴むか

リポート5

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【パネルディスカッション2】
専門領域を超えた“統合知”としてのインテリジェンス強化が急務

リポート6

相互リンク6:写真

【パネルディスカッション3】
“個と個のつながり”から価値が生み出されていく時代へ

人間はビットを食べて生きてはいけない

写真:馬渕 邦美 氏

PwCコンサルティング合同会社
パートナー

馬渕 邦美

大学卒業後、米国のエージェンシー勤務を経て、デジタルエージェンシーのスタートアップを起業。事業を拡大しバイアウトした後、米国のメガ・エージェンシー・グループの日本代表に転身。4社のCEO(最高経営責任者)を歴任し、デジタルマーケティング業界で20年に及ぶトップマネジメントを経験。その後、米国ソーシャルプラットフォーマーのシニアマネジメント職を経て現職。経営、マーケティング、エマージングテクノロジーを専門とする。

馬渕 社会のさまざまな場面でバーチャルテクノロジーが注目されています。例えば人間の身体や外面を再現したバーチャルヒューマン(デジタルヒューマン)が、人手不足の店舗で接客にあたるといったケースが考えられています。さらに昨今の生成AIの進化から、人間の会話も非常に高い精度で再現する可能性が出てきました。

こうしたバーチャルテクノロジーをいかに産業実装していくのか。それはどんな変革をもたらしていくのかといった点について、お二人のお考えを聞かせてください。

写真:金出 武雄 氏

PwCコンサルティング合同会社
Technology Laboratory
技術顧問

金出 武雄

米国カーネギーメロン大学コンピューターサイエンスおよびロボティクスのワイタカー記念全学教授、京都大学高等研究所特任教授、革新知能統合研究センター(理化学研究所)ではシニアアドバイザーを歴任。コンピュータービジョン、マルチメディア、マニピュレーター、自律移動ロボット、医療ロボット、センサーなどのロボット工学の複数の分野において貢献するのみならず、テクロノジーの先駆者として、複数アルゴリズムや応用技術を創出してきた。1990年代にいち早く自動運転プロジェクトを実現したほか、コンピュータービジョンで最も基本的で幅広く使用されているアルゴリズムの1つであるLucas-Kanade法、マルチカメラスポーツメディアとして使用されるリプレーシステムなどの成果もある。

金出 産業に役立つシステムとは、最終的に人間を相手にするわけですから、そもそも人間がどう行動するのか、どういう働きをするのかを定義したモデルがなければ構築することはできません。しかも人間は非常に複雑な動きをするため容易ではありません。バーチャル空間で人間の行動が広がると言われますが、一方で私は「人間はビットを食べて生きてはいけない」とよく述べています。バーチャルテクノロジーの産業実装は、とてもチャレンジングな取り組みなのです。

バーチャルヒューマンにしても、対話する際に視線が合うか否かによって人間の受け止め方は大きく変わります。こうした人間の行動を反映したモデルづくりは従来、心理学や社会学といった統計的な観点からしか行えませんでした。システムと人間のより複雑なインタラクションを実現するにあたり、現在の生成AIのテクニックをストーリーテリングに応用するなど新たなモデルづくりに役立てることができれば、バーチャルヒューマンの役割は広がっていくと考えています。

写真:古田 貴之 氏

千葉工業大学
未来ロボット技術研究センター・所長
千葉工業大学 常任理事

古田 貴之

1968年、東京生まれ。博士(工学)。2000年、(独)科学技術振興機構ERATO北野共生システムプロジェクトにロボット研究グループリーダーとして所属。03年から現職。14年から学校法人千葉工業大学常任理事を兼務、現在に至る。福島第一原発で唯一全フロア踏破可能な災害対応ロボットを開発・提供。政府の原発冷温停止ミッションを遂行・成功させた。原発対応ロボットから未来の機械生命体「CanguRo」まで、人々の衣食住のロボット技術による再定義に日夜取り組む。内閣府・首相官邸の改革2020プロジェクト「プロジェクト3:先端ロボット技術によるユニバーサル未来社会の実現」を提案し、政府の重点施策として推進。

古田 金出先生の「人間はビットを食べて生きてはいけない」という言葉は、私もその通りだと思っていて、まさに拍手喝采です。ではバーチャルテクノロジーをどうやってリアル世界に落とし込んでいくのか。そのヒントをつかむために、私ども未来ロボット技術研究センターではバーチャル空間で4096体のデジタルアニマル(4脚ロボット)を飼育し、2万世代にわたって強化学習訓練するという研究を行っています。このバーチャル空間で育ったデジタルアニマルたちにリアルの世界でボディーを与えてやると、驚くべき行動をすることが明らかになりました。障害物などに足を取られて転倒した際、私たちが予想もしていなかったような起き上がり方をするのです。リアル世界では不可能な膨大な数の強化学習訓練をバーチャル空間で行い、その成果をリアル世界に持っていくという方法は、バーチャルテクノロジーの効率的な使いこなし方であり、より良い産業実装のためのキーポイントになっていくと考えます。

リアルとバーチャルの2つの世界をどうつないでいくか

金出 リアルとバーチャルの関係性を考えると、両者の領域が重なり合う部分、つまりどちらの領域でも実現できるものがある一方で、リアルまたはバーチャルの領域でしか存在しないものもあります。私もこうしたリアルとバーチャルの2つの世界をどうつないでいくかに課題解決の鍵があると考えています。例えば生成AIは、Web上の膨大なコンテンツを読み込んでおり、その意味では世界で最も物知りと言えますが、一方で何ひとつ実体験をしたことがありません。AIの世界ではエンボディメント(身体性)問題と呼ばれていたのですが、さまざまな事柄や単語といったものがリアル世界でどういう意味やファンクションを持つのかを知らなければ、知能は実現できないと考えられてきました。ところが現在の生成AIは、実体験を持たないにもかかわらず、リアル世界のさまざまな問題を解くことができ、人間との間でおもしろい受け答えをすることもできます。そうなると、これまで議論してきたエンボディメント問題とは本当のところ何だったのか、改めて問われているような気がします。

一方で、人間は生成AIと比べて非常に狭い範囲の知識しか持ち合わせていませんが、一人ひとりがそれぞれ異なる経験を持っており、そのセットこそが“個性”という価値を生み出している可能性があります。

古田 私も技術者ですが、万能な技術など世の中には存在しないと考えています。したがって生成AIについても、何ができて何ができないかをしっかり見極めた上で、どう使っていくのかが重要ですね。

エンボディメント問題については、ロボット工学の世界では「身体に知能が宿る」という言い方もされています。既存の情報でしか学んでいない現在の生成AIに未来のことを知る余地はありませんが、リアルなボディーを持つロボットにそのモデルを搭載し、さまざまなセンサーを通じて次々に取得する新たな情報にもとづいて強化学習を行えるようになれば、果たしてどんな変化が起こるでしょうか。生成AIは飛躍的に進化する可能性があると考えています。

バーチャルとリアルの関係性

図:バーチャルとリアルの関係性

バーチャル空間がリアル世界を拡張する

馬渕 リアル空間とバーチャル空間が融合することで、自己学習しながら進化していく生成AIの“可動域”がどんどん広がっていくのですね。

金出 それに加えてバーチャル空間では、実験やトライアルがやりやすくなります。バーチャル空間がリアル世界を拡張していく役割を果たすのです。これを私はリアリスティックな実験と呼んでいます。今のところリアルではないが、ひょっとしたら今後はリアルになるかもしれない、あるいは永久にリアルにならないかもしれないけれど、人間の思考実験として価値があるといった使い方です。そういった知の探索(Explore)に活用できれば、生成AIの可能性はさらに広がります。

古田 バーチャル空間がリアル世界を拡張するという意味で、未来ロボット技術研究センターでもすでにそれに近いことをやっています。製造業においてリアルな工場のコピーをバーチャル空間につくって生産状態の監視や最適化などを行う、いわゆるデジタルツインの取り組みが広がりつつあります。簡単に言うと、私たちはこのデジタルツインの仕組みを新たな工場や生産ラインの設計にも役立てようとしています。生産設備をどのように配置すれば、タクトタイム(生産ペース)がどう変化するのか、人間やロボットの動線はどう変化するのか、バーチャル空間で何回もシミュレーションや学習を繰り返すことで最適解を求めることができます。

生成AIは人間の仕事を奪うのか

馬渕 バーチャルテクノロジーの産業実装が進んでいく一方、これまで人間が担ってきたほとんどの仕事が生成AIに奪われるという話も出てきています。この点について、お二人はどのようにお考えですか。

古田 これまでも仕事というものは、常にその時々の最先端ツールを取り入れながら効率化や高度化を進めてきました。生成AIの活用も同じ流れにあると考えます。私自身も実際に利用してその便利さを知ったなかで、これまで情報収集や調査、資料づくりといった作業にどれだけ多くの時間を費やしてきたのか、まざまざと実感しているところです。そうした時間を本来の研究活動に回せるようになるわけですから、どんどん取り入れて使いこなしていくべきです。

ただし、生成AIを使っていると、知らず知らずのうちに他者の著作や知的財産を盗用してしまうおそれもあるので、その点は注意が必要です。

金出 私はロングスパンの問題とショートスパンの問題に分けて考える必要があると思っています。人間は環境に適応する生き物ですから、ロングスパンで見たときには新しいテクノロジーにも必ず適応することができます。しかしショートスパンで見た場合、これまで人間にしかできないと思っていた多くの仕事が生成AIに取って代わられる状況が生まれたならば、その部分の労働人口をどこかにシフトしなければなりません。それが定常状態に達するまでには相当な時間を要するため、過渡期には多くの問題が起こります。生成AIといえども人間がつくり出したテクノロジーであり、決して魔物の類ではありませんが、この問題への対策を避けて通ることはできません。

馬渕 そうした課題解決も見据えつつ、今後のバーチャルテクノロジーの産業実装に向けたビジョンをお聞かせください。

金出 さまざまなバーチャルテクノロジーを人の経験を共有する仕組みづくりに生かせないかと考えています。誰かがある環境にいて経験していることをバーチャル空間に再現し、他者が別の場所や違った時間軸でも同じ経験を得られるようにするのです。これができれば、先に述べた労働人口のスムーズなシフトにも貢献できるかもしれません。

非常に難しいテーマであるのは事実ですが、通信技術の発達に伴いビジュアルやオーディオといったレベルからの経験共有は十分に実現可能と考えられ、実際にこれに近いことに取り組んでいる海外の研究グループもあります。一見、かなり怪しげなアイデアと思われるかもしれませんが、私個人としてはそんなことを構想しています。

古田 現実的な見方をすると、世の中にはバーチャル空間に落とし切れずにいる事象がまだたくさんあります。あくまでもひとつの例ですが、洗濯機のドラムの中で衣類がどのようにグルグル回ってシワが伸びるのかをシミュレーションしても、完全な形で再現することはできません。そうした未踏領域のデジタル化に私自身も取り組んでいます。

金出先生が提示したリアル世界とバーチャル空間の関係性に話を戻すと、両者の論理積(AND)にあたる領域をもっと拡大していくことで、ロボット技術で実現できることも増えていきます。そんなロボット技術のすごさに注目していただければ幸いです。

馬渕 未来に向けた話は尽きませんが、時間いっぱいとなりました。今日は広範囲に及ぶ貴重な話をありがとうございました。

写真:鼎談風景

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リポート1

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【Keynote】
いまこそ磨くべきマクロ経済のインテリジェンス

リポート2

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【対談】
日本企業が持続的成長を遂げるためのカギとは?

リポート4

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【パネルディスカッション1】
SX/GX分野で日本企業はいかに勝ち筋を掴むか

リポート5

相互リンク5:写真

【パネルディスカッション2】
専門領域を超えた“統合知”としてのインテリジェンス強化が急務

リポート6

相互リンク6:写真

【パネルディスカッション3】
“個と個のつながり”から価値が生み出されていく時代へ

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