提供:PwCコンサルティング

日経電子版オンラインセミナー「VUCA時代のインテリジェンス経営」

リポート4パネルディスカッション1

SX/GX日本企業の勝ち筋

集合写真:片岡氏、磯貝氏、三治氏

「100年に一度のチャンス」新たな成長の波

SX/GX分野で日本企業はいかに勝ち筋を掴むか

PwCコンサルティング合同会社
チーフエコノミスト

片岡 剛士

PwCサステナビリティ合同会社 パートナー
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
リード・パートナー

磯貝 友紀

PwCコンサルティング合同会社
上席執行役員 パートナー
Technology Laboratory
所長

三治 信一朗

いまやSX(サステナビリティー・トランスフォーメーション)は企業が最優先で取り組むべき必須要件となり、加えて官民を挙げて取り組むべき課題としてGX(グリーン・トランスフォーメーション)が浮上している。重要なことは、これらの分野は企業にとって対策しなければならないリスクであるだけでなく、新たな成長の波に乗るための「100年に一度のチャンス」でもあることだ。日本企業はいかにしてイニシアチブを発揮し、勝ち筋を見いだすことができるだろうか。PwC Japanグループにおいてサステナビリティーやマクロ経済、さらにテクノロジーと深く関わる専門家たちが語り合った。

リポート1

相互リンク1:写真

【Keynote】
いまこそ磨くべきマクロ経済のインテリジェンス

リポート2

相互リンク2:写真

【対談】
日本企業が持続的成長を遂げるためのカギとは?

リポート3

相互リンク3:写真

【テクノロジー鼎談】
近未来を変えるバーチャルテクノロジーの課題とは?

リポート5

相互リンク5:写真

【パネルディスカッション2】
専門領域を超えた“統合知”としてのインテリジェンス強化が急務

リポート6

相互リンク6:写真

【パネルディスカッション3】
“個と個のつながり”から価値が生み出されていく時代へ

リスクを恐れず先を見据えた投資を

写真:三治 信一朗 氏

PwCコンサルティング合同会社
上席執行役員 パートナー
Technology Laboratory
所長

三治 信一朗

日系シンクタンク、コンサルティングファームを経て現職。産官学のそれぞれの特徴を生かしたコンサルティングに強みを持つ。社会実装に向けた構想策定、コンソーシアム立ち上げ支援、技術戦略策定、技術ロードマップ策定支援コンサルティングに従事。政策立案支援から、研究機関の技術力評価、企業の新規事業の実行支援など幅広く視座の高いコンサルティングを提供する。

三治 日本企業にもSXやGXに取り組む機運が高まっています。PwCが2022年10月から11月にかけて世界105カ国・地域の4410人のCEO(うち日本のCEOは176人)に対して実施した「第26回世界CEO意識調査」からも、日本のCEOは中国のCEOと並び、気候変動リスクに備えた取り組みを実行していることが見てとれます。まずはこの結果について、磯貝さんから意見をいただけますか。

写真:磯貝 友紀 氏

PwCサステナビリティ合同会社
パートナー
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
リード・パートナー

磯貝 友紀

2003年から民間企業や政府機関にて東欧、アジア、アフリカにおける民間部門開発、日本企業の投資促進を手がける。08年から世界銀行アフリカ局にて民間部門開発専門官として、東アフリカを中心に民間部門開発、官民連携プロジェクトなどを手がける。11年から現職、サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスのリード・パートナーとして、日本企業のサステナビリティービジョン・戦略策定、サステナビリティー・ビジネス・トランスフォーメーションの推進、サステナビリティーリスク管理の仕組み構築、途上国における社会課題解決型ビジネス支援やサステナブル投融資支援を実施。

磯貝 日本の経営者の意識が変わったのは事実だと思います。とくに菅政権下でカーボンニュートラル宣言が出されてから機運が高まりました。ただし本来、サステナビリティーは成長アジェンダであるにもかかわらず、気候変動リスクへの対応に関心が集中しすぎている気がします。

これまでサステナビリティー領域をリードしてきたのは欧州ですが、背景にはこのエリアで自分たちが勝ち残っていくという思惑があり、企業の行動様式を変えるさまざまな政策を打ち出し、規制も強化してきました。日本企業はそうした欧州の動きを注視しながら、規制に対応しなければと考えてきました。

これに対して米国はどうでしょうか。欧州の政策がある程度実り、もうかる市場が立ち上がり始めた途端、すさまじい勢いで資金や人材を投入しています。中国やシンガポールなども同様で、国を挙げてこの成長市場を取りにきています。このスピード感に日本は乗り遅れてしまうのではないかと、私は危惧しています。

三治 確かに日本企業は定められた規制に真摯に対応しなければならないというマインドセットが強すぎるのかもしれません。プラスチックを例にとると、その製造・加工に関する日本企業の高度な技術力は世界中で活躍してきましたが、環境保護の観点から欧州で規制が強化された瞬間、「これからどうしたらよいのか」というところで思考が停止している気がします。

磯貝 プラスチックに関して話を続けると、欧州のメーカーはすでに15年ぐらい前から環境規制の対象となることを予測し、ケミカルリサイクルや生分解性プラスチックといったオルタナティブな技術開発など、サステナビリティーのトレンド変化を見据えた技術革新を進めてきました。その意味では、日本企業がいまから同様の技術開発に取り組んでもとても間に合いません。これは仕方がないとしても、心配なのは次の大きな波として押し寄せている気候変動対策に乗り遅れてしまうことです。日本企業にはリスクを恐れず、先を見据えて果敢に投資を行うメンタリティーやカルチャーが強く求められます。

各国CEOの気候変動リスクへの取り組み状況

図:各国CEOの気候変動リスクへの取り組み状況

個社の取り組みだけでは勝ち残れない

写真:片岡 剛士 氏

PwCコンサルティング合同会社
チーフエコノミスト

片岡 剛士

1996年に三和総合研究所に入社し、2001年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程(計量経済学専攻)修了。17年7月から22年7月まで日本銀行政策委員会審議委員を務める。22年8月にPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストに就任し、現在に至る。兼務としては早稲田大学政治経済学術院非常勤講師(12年~17年)など多数。

三治 マクロ経済の観点からはSXやGXの動向をどのように捉えていますか。

片岡 歴史を振り返ると日本企業は70年代のオイルショックを契機に、80年代を通じて必死で省エネに取り組んできました。その結果、ひところは“JAPAN as No.1”と称賛されるほどの極めて生産性の高い企業様式を確立してきました。

ところが90年代以降、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)などで地球温暖化対策が盛んに議論されるようになると、もはや個社単位の省エネ化では対応できず、官や学との連携、さらには国際間のサプライチェーンを見据えた取り組みが不可欠となってきました。今後の取り組みを模索する上では、こうした時代の大きなトレンドをしっかり捉えていく必要があります。

三治 その意味でも日本企業はますます難しい局面に立たされています。個社では対応できないとなると、日本企業はどうしても官に期待しがちです。一方で官の立場からは、企業の自助努力を待っているという“お見合い”状態が続いています。

片岡 官がやるべきこと、民でやるべきことには、ある程度の役割分担があります。金融政策や財政政策は官の役割ですが、その下でどういったビジネスを展開していくのか、どうやって生産性を高めていくのかは個々の企業の責任範囲となります。ロシアによるウクライナ侵攻など地政学上の大きな地殻変動が起こり、サプライチェーンの見直しも求められるといった、ただでさえ状況が複雑化しているなかで、サステナビリティーや環境保護をどう捉えていくのか。国としても企業としても、明確なビジョンを持たなければならない時期を迎えています。

磯貝 おっしゃるとおり、個社の取り組みだけでは勝ち残れないのがサステナビリティーの特徴です。だからこそ自分たちがどうやってイニシアチブを発揮し、新しい産業構造を生み出し、バリュープロポジションを確立していくのか。これを早く成し遂げた者が勝ち残ることができます。

限りある資源のなかで社会の豊かさを維持していく、サーキュラーエコノミーの実現をリードできる優れた技術を日本企業は数多く持っています。これら個々の技術をつなぎ合わせて新たなバリューチェーンをつくるなど、さまざまな規制に受け身で対応するのではなく、逆に各国の規制当局に対して「こうするべき」と働きかけていくといった、ビジネス主導のオーケストレーティングでもっと大きな役割を担えるはずです。いまは「100年に一度のチャンス」と言えるような産業構造が劇的に変わっていく潮流にあります。日本企業にはこのチャンスをしっかりとつかみ、次の成長の波に乗ってほしいと切に願います。

三治 100年に一度の成長チャンスという言葉は、日本企業に対して非常に強いメッセージになるのではないでしょうか。一方で私たちコンサルタントもまた、そうした戦い方の変化に対して、いかなるビジネス戦略を練り、変革を支えていくのかが問われています。

片岡 企業にとって大切なのは継続的な投資を進めていくことですが、そのためには相応の企業体力が求められ、いまの日本の経済状況からはどうしても大企業が中心となっています。そうした投資をいかにして中堅・中小企業にも拡大していくのか。例えば金融機関による新たなファンド創設など、官によるマクロ経済政策と組み合わせた支援策が必要になると考えています。私たちコンサルタントも力を合わせ、そうした新たな仕組みづくりに貢献していかなければなりません。

三治 まったく同感で、私も継続的な投資は非常に重要と考えています。ロボット技術を専門とする立場から述べると、経営者はロボットを導入さえすれば自社工場の生産性が向上すると考えがちですが、実は本当に生産性を高めている企業を調べてみると、継続投資を行っている企業なのです。前後の工程にもロボットの導入を進めたり、別な用途でも活用を広げたり、要するに面的な広がりを持った投資を継続している企業こそが生産性を高め、利益率を向上させています。そんなコンサルティングの経験からも、片岡さんのおっしゃることにはとても実感が持てます。

一本足打法の経営から脱却せよ

三治 テクノロジー目線からもSXやGXについて考えてみたいと思います。

特許庁が作成・公開しているGXTI(グリーン・トランスフォーメーション技術区分表)によれば、GX関連のテクノロジーはエネルギー産業から製造業、交通産業、建築産業まで幅広い産業にまたがっており、エネルギー供給を担うさまざまな発電技術を起点に、水素技術やスマートグリッドもハブとして相互に関連しています。さらに、これらのGX主要分野における日本の特許出願動向を調べてみると、日本企業は一定の競争力を有しているものの、懸念されるのは特許出願の増減率が下がっていることです。2016年に減少が始まり、18年以降はそのペースが加速し、特許出願シェアが年々低下しています。知財の権利関係を考えると20年以上先を見据えた特許を押さえておくことが欠かせないだけに、これは非常に心配な状況です。

また各要素技術における各地域・国の技術力の特徴を調べたところ、日本は自動車産業を中心として水素の製造にかなりの強みを有していることがわかりました。しかし欧州の企業を見ると、自動車業界に限らずプラント系企業や化学メーカーなど複数の業種にまたがる分散した強みを持っています。米国でも化学メーカーに勢いがあり、マネタイズの仕組みづくりで存在感を発揮してくると予想されます。

こうした各地域・国の競争優位性を理解した上で、今後のルールやレギュレーションづくりに向けた戦略を立てることが重要と考えます。

磯貝 この分析に関連して述べておきたいのは素材についてです。欧州や米国の企業はサーキュラーエコノミーを確立することで、素材から生まれてくる新たな価値に注目し、かなり長期スパンの未来を見据えた投資を行っています。日本の素材メーカーもグローバル市場で高い競争力を持っているのですから、いまからでも決して遅くありません、この分野にもっと積極的に投資していただきたいものです。

三治 サーキュラーエコノミーというキーワードが出ましたが、そこでは生産とリサイクルの両方のプロセスで競争力を持つことが重要ですね。ただし、多くの日本企業に見られる一本足打法の経営では対応が難しくなるかもしれません。

片岡 おっしゃるとおり、日本は産業構造全体としても、自動車製造を中心とした一本足打法の経営に近い状況にあることが懸念されます。もっとも日本企業は、磯貝さんが挙げた素材系のほか、エレクトロニクス系や機械系、最新テクノロジーの資本財などでも、いまだに高い競争力を持っています。マクロ経済の観点からも、そうした各企業の強みを生かして相互につなぎながら、産業全体の底上げを図っていくことが重要と考えます。

三治 自社のみならず他社の強みも知って、互いに生かしていくことが、いま求められている時代感覚なのでしょうね。われわれコンサルタントの立場からも、技術面や金融面、さらにはサーキュラーエコノミーに向けた仕組みづくりなど、多様な産業の企業が連携し合うなかから勝ち筋が生まれてくることをより強く訴えていかなければなりません。PwCはこれからも継続して議論を深め、皆さまに価値ある情報を発信していきましょう。

GXの主要分野における日本の特許出願動向

図:GXの主要分野における日本の特許出願動向

写真:鼎談風景

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リポート1

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【Keynote】
いまこそ磨くべきマクロ経済のインテリジェンス

リポート2

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【対談】
日本企業が持続的成長を遂げるためのカギとは?

リポート3

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【テクノロジー鼎談】
近未来を変えるバーチャルテクノロジーの課題とは?

リポート5

相互リンク5:写真

【パネルディスカッション2】
専門領域を超えた“統合知”としてのインテリジェンス強化が急務

リポート6

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【パネルディスカッション3】
“個と個のつながり”から価値が生み出されていく時代へ

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