これまで中小企業では、経営者の子が事業を引き継ぐことが多かったが、少子化などにより後継者がおらず、事業を継続できずに廃業する会社が増えている。廃業で雇用が失われ経営資源が散逸することは日本経済の活力をそぐことになる。
そこで国は、2011年に、後継者探しや事業の引き継ぎ方に関する相談に応じる「事業引き継ぎ支援センター」を全国各地に設置。15年には中小企業庁が、第三者への事業譲渡に関する「事業引き継ぎガイドライン」を作成し、今年4月には「中小M&A推進計画」を策定した。
第三者に会社を譲渡するには、譲渡先を探して交渉し、相手先からの監査を受けて、契約を結ばなくてはならない。会社を譲り渡す側にとってM&Aは初めての経験であることがほとんどでこうしたノウハウを持たないため、M&Aの仲介・支援をする民間業者が急増している。
それとともに、経験不足で顧客とトラブルになる業者や悪質な業者も出てくるなど、M&A支援会社の質が問われるようになってきた。
M&A支援会社には、売り手・買い手のどちらか一方から手数料を受け取るファイナンシャルアドバイザー(FA)型と、売り手と買い手の両方から手数料を受け取る仲介型がある。仲介型の場合、取引が1回限りの売り手よりも、将来も顧客になりうる買い手の利益を優先するのではないかという疑念も持たれている。
こうした状況を踏まえ、中小企業庁はM&A支援機関に登録制度を導入した。今年8月に登録申請受付を開始し、10月15日までに法人1700、個人578の合計2278機関が登録を行った。
今年度中には、M&A仲介会社を中心とした自主規制団体の創設も予定されている。業界の健全化が進み、中小企業が安心してM&Aに取り組めるようになると見込まれる。
M&Aでは事業会社へ会社を譲渡するほかに、PE(プライベートエクイティ)ファンドへの譲渡も考えられる。PEファンドは、投資家から資金を集めて非上場会社の株式を取得し、経営に関与して企業価値を高めたのち、株式を売却して投資家へ還元するという仕組みだ。
M&AやPEファンドは、事業承継だけでなく、事業再構築、業界再編、生産向上などにも活用できる。アフターコロナの中小企業の経営にとって有力な選択肢となるだろう。