NIKKEI Integrated Report Award 日経統合報告書アワード

企画・制作:日本経済新聞社 イベント・企画ユニット

2022年の審査講評

日経統合報告書アワード 2次審査講評

審査委員長

フォト:北川 哲雄氏

青山学院大学名誉教授
東京都立大学特任教授
北川 哲雄氏

統合報告書は新たなステージへ

 今回の二次審査対象企業の統合報告書を改めて読んでみて数年前に比べ全社僅差の状態になっていると感じた。それ故に審査する側はより真剣にならざるを得なかった。審査委員会は当然白熱し昨年までに比べ長期間にならざるを得なかった。一方で審査する側の眼も肥えてきているなと二次審査対象企業の統合報告書は昨年よりも増して粒ぞろいであった。経営者が冷静に自社の経営資源の分析を行った上で、いかに難局に立ち向かうかを論理的矛盾なく記述しているケースが多くなった。
 統合報告書は言うまでもなく「統合思考」に基づいて作成されていなければならない。日本企業は統合報告フレームワークに記載されている「型」に忠実であるが、しかし「統合思考」から醸成されたものでないと上滑りなものに成りがちである。その点、高評価を得た企業は「統合思考」をよく理解しているなと感じた。
 さて昨2月の東証の要請による「株価を意識した経営の促進」を考えると今後の統合報告書の在り方を大きく変えることになろう。サステナビリティ、ROEおよびPBRを包摂して論じなければならない。時間軸において短期・中期・超長期を見据えつつ、様々なタイプの投資家を念頭に置いた隙のない開示が求められる。そうであればこそ、なおさら統合思考が重要となる。

審査委員

フォト:三和 裕美子氏

明治大学商学部 教授
三和 裕美子氏

未来の従業員・投資家を意識したメッセージを

 現代の企業は法定開示にとどまらず、ホームページなどの様々な媒体で企業内容の開示を行っていますが、統合報告書は変化する外部環境のもとで、経営戦略やESGへの対応などが、企業の価値創造にどのように影響を及ぼしているかについて語り、ステークホルダーズとのコミュニケーションを図る有益な開示ツールだと思います。地政学的リスクやパンデミックなどの外部環境リスクが高まり、不確実性が高まる今日だからこそ企業の未来への姿勢を示す統合報告書による開示が求められているといえます。今年度受賞された企業の統合報告書においては、トップ自らによる従業員エンゲージメントへの積極的なコミットメント、社外取締役による忌憚のない対談、さらに機関投資家とのエンゲージメント内容の開示などコミュニケーションを重視している点が印象に残りました。今年度は教員の指導のもと学部学生・大学院生が一次審査に参加致しました。未来の従業員や投資家などになりうる若い世代を意識した価値創造メッセージにも期待しています。

審査委員

フォト:大槻 奈那氏

名古屋商科大学大学院 教授

ピクテ・ジャパン
シニア・フェロー
大槻 奈那氏

数字は世界の共通言語

 今回初めて審査に参加させていただいた。今回の応募企業の特徴を分析したところ、それ以外の企業に比べて、総じて過去の利益成長率が高いことがわかった。高成長企業の集団だけに、持続的な成長に向けた意欲が強く感じられる力作ばかりだった。
 冒頭に語られるトップメッセージには投資家からも審査員からも注目度が高い。そこでは、流行語をあまり使わず、自分たちの言葉で記述しているものが総じて評価された印象だ。特に、自社の欠如している資源やリスク面も考慮して冷静かつ定量的に記述しているものが好感されていた。
 さらに、定量的な分析をわかりやすく伝えるものが高く評価された。統合報告書は、世界の投資家に向けたメッセージだ。共通言語としての数字を用いて精緻に伝える必要がある。そして、自社の目指す姿をいかに世界に伝えるかを社内で議論していくうちに、その前提の曖昧さなどが明らかになり、さらに改善されていく。今後も、報告書の作成やその評価を経て自社の目指す姿が研ぎ澄まされていくことを期待したい。

審査委員

フォト:円谷 昭一氏

一橋大学大学院
経営管理研究科 教授
円谷 昭一氏

統合報告書は「開示」ではなく「経営」の問題

 「あまりに残酷だ・・・」。最終審査会で、ある審査員がつぶやいたことを鮮明に覚えている。グランプリ候補企業の統合報告書はどれも素晴らしく、甲乙がつけがたい。そうした中で数社の受賞企業を選ばなければならないことを表現した一言である。最終審査に残った統合報告書の共通の特徴は、「よく考えられている」ということに尽きるであろう。たとえば、多くの統合報告書では女性活躍推進の特集が組まれているが、女性がどういう状態になれば“活躍している”のかを明確にしているものはあまり見かけない。最終審査に進んだ企業の統合報告書からは、そうしたことまでじっくりと議論したうえで自社の経営と開示の改善を進めていこうという意志が強く伝わってくる。まさに統合報告書は企業の経営姿勢そのものを映し出す鏡となってきているといえるであろう。

審査委員

フォト:三井 千絵氏

野村総合研究所

ホールセール
プラットフォーム企画部
上級研究員
三井 千絵氏

受賞企業をベストプラクティスに底上げを

 今年度は二次審査にも参加させていただいた。株主総会のころから「日経統合報告書アワード」二次審査が終わるまでの半年間を振り返ると、一番驚かされたのは、この間のサステナビリティのテーマの変化と広がりの早さだ。既にコーポレートガバナンスコードでも求められた気候変動については、応募企業はみなそれなりに記載していたと思う。しかし生物多様性や人権、DEIと言われる領域は、半年前には世の中のどれくらいの企業が開示をしているのか、そもそもどれくらい取り組んでいるのか掴めなかった。蓋をあけると特に2次審査に残ってくる企業には、取り組みも開示もグローバルに比較しても引けを取らないと感じるものもあった。このアワードがインセンティブとなり、また受賞企業をベストプラクティスとし、日本企業の対応力や開示力の底上げになればと思う。

審査委員

フォト:井口 譲二氏

ニッセイアセット
マネジメント

執行役員
運用本部副本部長
チーフ・コーポレート
ガバナンス・オフィサー
井口 譲二氏

最終審査委員の卒業にあたって

 2007年から16年にわたり、最終審査委員を勤めてきたが、今回をもって卒業する。思い返してみると、最初の年には、日本語版がない審査対象企業もあり、英語版が送られ、驚いた記憶がある。しかし、今では、多くの企業において投資家にとって有用な企業価値創造ストーリーを日本語で読むことができ、隔世の感がある。このような進化の背景には、間違いなく、日経統合報告書アワード(日経アニュアルリポートアウォード)の存在があったと考える。また、私も含めた審査委員や投資家のフィードバックを真摯に受け取り、報告書の改善に努めていただいた企業のご担当者の方には感謝の念に堪えない。
 足元、有価証券報告書(以下、有報)へのサステナビリティ記載欄の設置、ISSBによる開示基準の策定など、サステナビリティ情報の開示は、任意開示から法定開示への新しいステージに入る。ただ、すでに、有報で、先行的に開示を行っている企業は、すばらしい任意の統合報告書を策定しているケースも多い。まさに、統合報告書の策定を通じ、統合思考が浸透し、どの媒体でも高いレベルの開示が可能になっていることを示していると理解している。今後とも、投資家として、すばらしい統合報告に期待したい。

審査委員

フォト:手塚 裕一氏

三井住友トラスト・
アセットマネジメント

スチュワートシップ
推進部
EGS推進室長
手塚 裕一氏

投資家が読みたくなる魅力的なストーリーを

 各企業とも自社の魅力を分かりやすく伝える工夫がされている点で共通していた。2次審査では重要課題の開示内容とともに①財務と非財務の統合思考②インプットからアウトカムまでの接続性③中長期視点でのストーリー性の3点を重視した。グランプリ受賞企業はこれらの点で優れ、実績の裏付け、強みのある資本、優れたビジネスモデルなどにより最終的に企業価値向上が期待できるかどうかが、より分かりやすく記載され、説得力があったと考えている。また、E・S・G賞ではセクターによる取り組みやすさや個社による重要度も異なる中、受賞企業は野心的、先進的な取り組みなど特筆すべき点があった。新人賞は統合報告書を初めて作成した企業でも1次審査を通過して受賞しており、新たに統合報告書作成に取り組む企業にも投資家が期待するレベル感の参考となるだろう。投資家が読みたくなる魅力的なストーリーのある統合報告書が今後も増えることに期待したい。

審査委員

フォト:小澤 大二氏

インベスコ・アセット・マネジメント

取締役運用本部長 兼
最高投資責任者
小澤 大二氏

再度ガバナンスの重要性を認識してほしい

 統合報告書は、社会や環境と調和した上で持続的な企業価値拡大に向けての取り組みを知るための有益なコミュニケーションツールである。さらに、この統合報告書アワード等を通じて優れた報告書が共有されてきたこともあり、開示内容の充実とレベルアップが進んできている。そのような中で受賞企業との差は、目次的に内容を埋めただけなのか、それとも実効性のある取り組みを一貫した経営理念のもとストーリーとして伝えられたのかにある。また、経済的価値を創造することで企業自身が持続的でなければ、社会や環境のサステナビリリティへの貢献もできないだろう。その観点からは、長期的な企業価値拡大を可能とするビジネスモデル、資本の適切な配分による成長戦略、それを担保するESG、特にガバナンスへの取り組み姿勢が重要だ。ガバナンスのセクションでは真剣に取り組んでいるかの差を感じるケースも多かった。また、大量の情報をいかに読み手に伝えるのかの工夫も今後はより必要だろう。

審査委員

フォト:加藤 正裕氏

三菱UFJ信託銀行

アセットマネジメント
事業部
フェロー責任投資ヘッド
加藤 正裕氏

自発的な情報開示は企業価値に影響を与える

 統合報告書は、企業文化や経営者の思い、社員のモチベーションや働き方など、「数字では見えない定性情報」も把握できる貴重な情報源の1つです。特に、経営者の生の声から始まり、財務と非財務、過去、現在そして未来の結合性を巧みに表現した事例や、自社の強みをどのような戦略でアウトカムに結び付け、存在意義に近づけていくか、その価値創造プロセスを無駄なく表現した事例などは、とてもわかりやすく理解が進みました。
 近年は、何に取り組んだか、その実績などの「What(何)」の開示が充実してきた中、今後はどのように取り組むか、その「How(どのように)」の開示を拡充頂くことで取り組みの実態や実現性、その本気度などへの理解が更に進むと考えています。
 私たちが行った定量分析によると、経営者の思いや考え方の背景なども含めた自発的な情報開示は、株式の流動性の増加を通じて企業価値に影響を与える可能性が示唆されました。統合報告書も含めた自発的な情報開示のさらなる充実化を期待しています。

審査委員

フォト:寺沢 徹氏

アセットマネジメントOne

運用本部
責任投資グループ
エグゼクティブ
ESGアドバイザー
寺沢 徹氏

目指す姿や人的資本経営の解像度向上に期待

 当アワードは回を重ねるごとに、統合報告書の質的向上を実感します。パーパスを起点に長期視点で目指す姿を提示し、重要課題としてマテリアリティを特定し、マテリアリティに沿って事業戦略説明を展開する「型」が定着しつつあります。2022年版においては、人権、ダイバーシティ、研修、エンゲージメントスコアなど人的資本関連の開示充実が印象的でした。
 2023年版に期待するのは、「目指す姿」や「人的資本経営」の解像度向上です。中期計画ありきで後付けでマテリアリティなどを特定している企業には、価値協創ガイダンスなどを参考に、長期的に目指す姿の議論を社内外で今一度進めていただきたいと思います。人的資本関連では、部門長の人選、人事評価の仕組み、人材投資と財務のつながりなど、より踏み込んだ説明に期待します。報告書を発行することが目的化するのではなく、持続的な企業価値向上をアピールする手段として定着することを投資家として願っています。

審査委員

フォト:今村 敏之氏

野村アセット
マネジメント

責任投資調査部長
今村 敏之氏

非財務価値の見える化は情報開示の仕事

 企業価値を決める将来キャッシュフローは、現時点で確定しておらず、目に見えない価値である。その目に見えないいわゆる非財務価値を見える化することは、まさに「情報開示の仕事」である。近年、多くの日本企業が統合報告書を発行しているが、その内容の進歩には目を見張るものがある。当アワード審査においても、単なる事業戦略や財務報告だけではなく、サステナビリティ・リスクの管理やリスクをオポチュニティーに転じる取り組み、さらには社会に与えるインパクトについても説明するケースが増えている。まさに財務と非財務の統合であり、統合報告書が近年の日本企業の情報開示強化の流れを後押してきたことは紛れもない事実である。これをさらに企業価値向上につなげていくために、統合報告書を使って経営者が自らの言葉で、自社のパーパスを出発点としてビジネスモデルや事業・財務戦略、サステナビリティ課題を一貫したストーリーとして語っていくことを期待したい。

審査委員

フォト:井川 智洋氏

フィデリティ投信

運用本部
ヘッド・オブ・
エンゲージメント兼
ポートフォリオ・
マネージャー
井川 智洋氏

統合報告書の作成を企業価値向上の契機に

 日本企業のサステナビリティへの取り組みは近年目覚ましいが、それと比例するように統合報告書のクオリティーも向上している。統合報告書を読む際は、なぜその企業だからこそ成し遂げられるのかという、差別化されたビジネスモデルについての説得力あるストーリーの有無を重視する。なぜならそうした企業がアクティブ運用における長期投資の対象となるからだ。一次審査を通過した企業群はいずれもこうした点で甲乙つけがたかったが、一方でグランプリを受賞した企業は一歩抜きんでていた。行間からにじみ出てくる説得力は、企業価値向上に向けた取り組みが長年にわたり事業運営の中ですでに浸透していることに起因しているのだろう。その意味では、統合報告書の作成を一つのきっかけとして、価値向上に向けた新たな取り組みが始まった企業も多いと思うが、こうした企業がやがてグランプリ受賞企業と同様に、にじみ出るビジネスモデルの説得力を持ち始めることに期待したい。

審査委員

フォト:森 洋一氏

日本公認会計士協会

テクニカルディレクター
森 洋一氏

結合性の確保された開示実務の発展を期待

 本年度の審査では、たいへん多くの企業が参加されるとともに、参加企業各社の統合報告書に様々な新しいチャレンジを発見し、とても心強く感じました。第一に、企業のパーパス、ありたい姿の明確化に取り組まれる企業が多く、自社独自の言葉、切り口によって将来ビジョンやビジネスモデルを語られている報告書が印象的でした。また、人的資本について人材像を含む経営方針、戦略、具体的なアクションと実績を包括的に開示する好事例が多く見られました。サステナビリティにかかる具体的な指標を開示するとともに、経営的視点にたったレビューを提供する実務も広がっています。グローバルにも、国内においても、サステナビリティ開示基準の設定と開示制度導入が加速するとともに、財務情報とサステナビリティ情報の結合性強化への注目も高まっています。統合報告書における財務情報の開示量には企業間での差が大きいという課題も再認識しましたが、結合性の確保された開示実務の発展を期待しております。

 

日経統合報告書アワード 1次審査員一覧

(社名五十音順、株式会社・敬称は省略)

企業・団体

野村アセットマネジメント
野村総合研究所
富国生命投資顧問
日本政策投資銀行
日興アセットマネジメント
東洋証券
東京海上アセットマネジメント
東海東京調査センター
第一生命保険
大和アセットマネジメント
三菱UFJ国際投信
機関投資家協働対話フォーラム
レオス・キャピタルワークス
りそなアセットマネジメント
ラザード・ジャパン・アセット・マネージメント
みずほ証券
ブラックロック・ジャパン
ニッセイアセットマネジメント
アセットマネジメントOne
コモンズ投信
インベスコ・アセット・マネジメント
いちよしアセットマネジメント
いちごアセットマネジメント
アムンディ・ジャパン
T&Dアセットマネジメント

SOMPOアセットマネジメント
フィデリティ投信
SMBC日興証券
PGIMジャパン
PayPayアセットマネジメント
Hibiki Path Advisors Pte. Ltd
BJリサーチ&マネジメント
ジャパンリスクソリューション
浜辺真紀子事務所
BRITE
山内コアバリューデザイン
BoardHR Initiative(経営人事推進機構)
ユナイテッド・マネジャーズ・ジャパン
モロー・ソダリ・ジャパン
S-Cubic
カディラキャピタルマネジメント
インフラ・リサーチ&アドバイザーズ
ピムコジャパンリミテッド
マネックスグループ
エンジェルジャパン・アセットマネジメント
MU投資顧問
三菱UFJ信託銀行
三井住友トラスト・アセットマネジメント
三井住友DSアセットマネジメント
大和証券

個人

一橋大学大学院 経営管理研究科 教授 円谷 昭一 研究室

同志社大学 副学長 経済学部教授 新関 三希代 研究室

慶應義塾大学 名誉教授 塩澤 修平

明治大学 商学部 教授 三和 裕美子 研究室

明治大学 商学部 教授 奈良 沙織 研究室

法政大学 経済学部 教授 田中 優希

法政大学 経営学部 教授 坂上 学 研究室

法政大学 経営学部 教授 川島 健司

法政大学 人間環境学部 特任准教授 竹原 正篤

お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所 教授 斎藤 悦子 研究室

産業能率大学 経営学部 教授 齊藤 弘通

東京国際大学 言語コミュニケーション学部 准教授 櫻井 功男

青山学院大学 経営学部 教授 矢澤 憲一

中京大学 国際学部 教授 矢部 謙介

立教大学 経済学部 准教授 米谷 健司

東京経済大学 経営学部 教授 金 鉉玉

東京経済大学 経営学部 准教授 藤谷 涼佑

東京都立大学 経済経営学部 教授 浅野 敬志

南山大学 経営学部 准教授 高田 一樹

東京国際大学 商学部 教授 奥 倫陽

東北学院大学 経営学部 准教授 古賀 祐也

日本IR協議会 特任研究員 杉 由紀

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