NIKKEI Integrated Report Award 日経統合報告書アワード

企画・制作:日本経済新聞社 イベント・企画ユニット

グランプリ企業対談

価値創造の道筋 明快な言葉で

 

財務情報と、人的資本など非財務情報をまとめた統合報告書を発行する企業が増える中、1998年から23年続いた「日経アニュアルリポートアウォード」が2021年版から「日経統合報告書アワード」に衣替えし、その第1回グランプリに双日が輝いた。長年審査に携わる北川哲雄審査委員長・青山学院大名誉教授と藤本昌義同社社長が対談し、審査での評価ポイントを振り返りつつ、同社が歩む企業価値創造の道筋について語り合った。

双日 代表取締役社長 藤本 昌義
日経統合報告書アワード監修兼審査委員長 青山学院大学名誉教授・東京都立大学特任教授 北川 哲雄

事業や人材を創造し続ける商社

フォト:藤本 昌義氏

藤本 昌義氏

全社員を挙げた議論から出発

北川昨年統合報告書を発行した日本企業は700社を超え、今回のアワードには前年の2.2倍、290の企業・団体から応募がありました。近年統合報告書は質・量とも非常にレベルが上がり、審査も白熱しました。その中でのグランプリ受賞、おめでとうございます。

藤本ありがとうございます。第1回のグランプリ受賞ということで大変誇りに思います。

北川私が思う受賞の一番のポイントは、国際統合報告評議会も唱える「インテグレートシンキング」を実践し、長期的な価値創造について極限まで考え抜き、分かりやすい言葉で表現したことです。その象徴がCEO(最高経営責任者)メッセージでした。藤本社長が語った考えが全ページに浸透し、一気通貫していました。それを飾らずに地に足の着いた姿勢で説明したことが大変評価されました。

藤本初めに心掛けたことは、次の10年に向けて双日がどのような姿を目指すべきか、社内で徹底的に議論することでした。これまでも「当社の強みや存在意義は何か」、常に問われ続けてきました。総合商社の使命は、必要なモノ・サービスを必要なところに届け、市場のニーズや社会課題に応えることです。

総合商社の原点に立ち返り、世の中の変化を的確に、かつスピード感をもって捉え、新しい事業、価値を創出すること。それを果たすには、自らを変革し、価値創造につなげられる人材を育て、創出し続ける会社こそ、これからは一番強いのではないか。そうした議論から「事業や人材を創造し続ける総合商社」を2030年に目指す姿として掲げました。

社会と双日、2つの価値を追求

フォト:北川 哲雄氏

北川 哲雄氏

地に足、飾らない説明に好感

北川目指す姿に到達するための4つのポイントを挙げています。ひとつは「マーケットインの徹底」で、トルコで最大規模の病床数を持つ病院開業の例が印象に残りました。

藤本マーケットインの発想を持つことは、商社の使命を果たし事業を創造する第一歩です。トルコでの病院開業は、病床不足の解消を願う現地の人々の声に応える一方、病院の運営を通じてインフラ・ヘルスケア領域に対する当社の知見が深まります。社会が得る価値と双日が得る価値の2つの価値を創出してこそ、豊かな未来を実現するサステナビリティ経営につながると考えています。

北川4つの中には「スピードの追求」もあります。ここ数年の統合報告書を拝見すると、非常にスピーディーに経営判断されていると感じます。

藤本デジタル化の進展やESG(環境・社会・企業統治)への意識の高まりなど、社会構造が急速に変化する中で旬を捉えるためには、スピードの追求は重要な要素です。と同時に、その場その場で的確な判断を下すことも求められます。いつ何が起こるか分からない時代になり、今まで以上に日常からの備えが必要になっています。

北川双日には風通しの良い組織風土を感じます。こうした企業文化もスピードの追求を後押ししそうですね。

藤本投資した事業を早期に収益化するためには、意思決定のスピードを速める必要があり、風通しの良さは強みになります。そのため例えば、日ごろから社員と気軽に意見交換を行うなど、議論し合える雰囲気づくりを心掛けています。また、取締役会は社外取締役に議長をお任せし、自由闊達な議論を喚起いただいています。社内外の人や情報を活用して事業を立ち上げる際の「共創と共有の実践」も商社の真骨頂です。これらを推進していくには、組織や人材を抜本的に変革することが前提となり、それが4つ目のポイント「組織・人材のトランスフォーメーション」です。

人的資本は「将来の財務情報」

北川人材の育成や社員のエンゲージメントには腐心されているのではないですか。

藤本ここ数年人事制度や研修制度を大きく変え、例えば男性社員を含めた育休の奨励などで女性社員もキャリアを止めずに働き続けられる方向に改善しています。エンゲージメント調査も毎年実施し、年々その分析と対策が向上しています。地道な努力を重ねることで社内の雰囲気がさらに活性化し、社員のエンゲージメントも高まると期待しています。

北川社員の起業家精神を育てる「発想×双日(Hassojitz)プロジェクト」や、退職者とのビジネス交流基盤「双日アルムナイ」など、社会と循環する柔軟で強じんな仕組みも構築しています。独自のこうした施策からも、人的資本を重視する姿勢が読み取れます。

藤本言うまでもなく人材は最大の無形資産で、未来への成長力や変化力を示すものです。人的資本はこれからの企業価値を表す「将来の財務情報」として積極的に開示しています。

北川中期経営計画2023ではPBR(株価純資産倍率)1倍超の達成を目標に掲げました。

藤本本気で企業価値を高め、ステークホルダーの皆さまの期待に応えていく決意表明と同時に、投資や事業に伴うリスクをきちんとコントロールしていることをお伝えしたい気持ちも含まれます。いずれにせよこの目標を通過点に企業価値を高めていくことを考えています。

北川商社は事業ポートフォリオマネジメントの達人ですが、それは商社を見る際の一面に過ぎません。人材と事業を持続的に創造する好循環をつくれているかどうかが重要です。双日の魅力は規模ではなく、人材や時代の変化を見抜く先見性など、質の高さにあると思います。

藤本ありがとうございます。まずは統合報告書で約束したことを地道に実践し、その進捗とともに、持続的な価値創造の実現に向けて双日が変化し続ける姿をお示ししてまいります。

双日の価値創造モデル

――2 つの価値の最大化を目指す

フォト:双日の価値創造モデル

コロナ禍、「生の声」に重心

執行役員 IR担当本部長 遠藤 友美絵

フォト:遠藤 友美絵氏

遠藤 友美絵氏

制作でこだわった点の1つ目は、PBR1倍超達成に向けて1年以上議論した経営計画を丁寧に打ち出すこと。2つ目は、コロナ禍でCEOやCFO(最高財務責任者)が世界の投資家の方々と対面形式で話す機会のない今だからこそ、その生の言葉と思いを伝えるよう工夫したこと。3つ目は、商社の最大の資産は「人」であるからこそ、価値を自ら創り出す社員の生の声が双日の持つ無形資産への納得感の醸成につながると考え、それに努めたことです。その結果、現場の事例を取り上げた「価値創造ストーリー」では当社の強みや特徴、競争優位性を映し出せたのではないかと思います。

2015年から統合報告書を発行してきました。今回はありのままの双日を「見える化」し、生の声を伝えることで読み手の共感を得られたように思います。新たな成長ステージに向けて、変化し続けていく双日の姿をこれからも伝えていきます。

フォト:双日 統合報告書表紙

双日が取り組むEssentialインフラサービス事業の一つ、北米鉄道車両メンテナンス事業を表紙にした双日の統合報告書2021

TOP