NIKKEI Integrated Report Award 日経統合報告書アワード

企画・制作:日本経済新聞社 イベント・企画ユニット

2022年グランプリ企業対談

半導体材料で成長へ 変革を推進

フォト:北川 哲雄氏 髙橋 秀仁氏

レゾナック・ホールディングス 代表取締役社長 髙橋 秀仁(写真右)
第2回 日経統合報告書アワード 審査委員長 青山学院大学 名誉教授、東京都立大学 特任教授 北川 哲雄(写真左)

 

第2回 日経統合報告書アワードでグランプリを受賞したレゾナック・ホールディングス。受賞作は旧昭和電工と旧昭和電工マテリアルズ(旧 日立化成)の統合過程で制作されたものだが、統合後のあるべき姿を見事に描き、高く評価された。2022年1月に前身2社の社長に就任し、今年1月から持ち株会社レゾナック・ホールディングスと事業会社レゾナックの社長CEOとして新生レゾナックの改革をけん引する髙橋秀仁氏と、本アワードで審査委員長を務めた北川哲雄氏が対談。同社が取り組む改革と成長戦略について語り合った。

日本が勝てる分野へ集中投資

フォト:髙橋 秀仁氏

髙橋 秀仁氏

北川トップメッセージは審査で満点を獲得する見事なものでした。髙橋社長の独創的な話と、分かりやすい言葉で真理をえぐるメッセージはとても印象深いものでした。新生レゾナックが目指す方向について、改めて聞かせてください。

髙橋目指す方向は、石油化学を中心とした総合化学メーカーではなく、機能性化学メーカー、つまり個性的な会社です。事業ポートフォリオを変革し、特に半導体材料の分野でグローバルリーダーになりたいと考えています。

北川半導体材料にもいろいろなものがありますね。

髙橋半導体の製造工程にはウエハーに回路を形成するまでの前工程と、それを半導体チップに切り出して製品として出荷するまでの後工程があります。当社の半導体材料の売り上げはウエハーメーカーを入れても現在世界3位で、後工程材料では圧倒的1位です。2位の3〜4倍の売り上げを誇ります。後工程は今後成長する分野で、そこに集中投資することでトップの座を確固たるものにしていきたいと思っています。半導体材料は、日本が勝てる最後の分野の1つだと思っています。

北川具体的にはどのような成長戦略を描いているのですか。

髙橋総合化学メーカーの5カ年計画はどこも似たものになりがちで、戦略自体がコモディティー化しています。このため差別化要因は戦略ではなく、それをやり切る経営陣の覚悟と、経営陣を支え将来を引き継ぐ人材育成にかかっていると思っています。

北川統合報告書ではトップ人事の選考過程もクリアに開示しており、髙橋社長を有事の最適リーダーとして選んだことがよく分かります。髙橋さんご自身は、自分の役割をどう考えておられますか。

髙橋私の役割は、機能性化学会社になるための人材育成はもちろん、まず経営陣をチームリーダーとしてまとめていくことにあります。経営はチームプレーですから、メンバーが得意な領域で頑張ってもらえる環境を整えることが重要です。チームとして議論を重ねてきた結果、当社のポートフォリオ戦略は極めて明確となり、経営陣の中では「どの年までにこうしたい」という改革の意思が共有できています。機関投資家の皆さんは、経営陣を信用できるか、有言実行できるか、収益実績を作れるかを見ていると思いますので、私を含めた経営陣が変革と挑戦をよしとする文化を作り、信頼される企業になりたいと思っています。

北川私はバイサイドアナリストの経験が長かったので、とても共感できます。企業と長期投資家は、リスクをお互いに背負うわけですから。

ビジネスマンの価値は修羅場の積分値

フォト:北川 哲雄氏

北川 哲雄氏

北川髙橋社長は、サステナビリティー重要課題の解決そのものが価値創造につながる、その中に環境や人権、ダイバーシティーなども含まれると話されています。その前提となるパーパスとバリューについて教えてください。

髙橋2社統合で全く知らない人が一緒に仕事をするためには、価値観の共通言語化が必要でした。レゾナックのパーパスは「化学の力で社会を変える」。バリューは「プロフェッショナルとしての成果へのこだわり」「機敏さと柔軟性」「枠を超えるオープンマインド」「未来への先見性と高い倫理観」の4つです。この会社には価値観を共有できる人にしか居てほしくありません。「仕事はできるけど、価値観は共有できない」人を許すと、文化が壊れてしまう。バリューを起点に、「あの人はどんな人?」「仕事は早いしフレキシブルだけど、たまに壁を立てるね」「他にもいいところがあるから、こっちを伸ばしてもらおうよ」など、ポジティブなコミュニケーションが広がります。パーパスとバリューの浸透を図るために、昨年は私も国内外70拠点を回り、61回のタウンホールミーティングと110回のラウンドテーブルに参加しました。昨年は発信の年でしたが、今年は双方向のコミュニケーションにも取り組みます。

北川双方向というのは。

髙橋今年は「モヤモヤ会議」と称して、若手4人ぐらいのグループが各事業所に5〜6組集まり、もやもやしていることを隠さずに話す会議を実施しています。私とCHROが舵取りをして、出てきたもやもやをバリューにひもづけて考えてもらい、解決策を探る趣旨です。例えば、駐車場の場所などすぐに解決できそうなものは、所長を呼んで具体的な実行案まで決めています。

北川パーパスの実現は1社ではできないから、共創型化学会社を目指すとも話されていますね。

髙橋化学には社会を変える力がありますが、脱炭素やデータ社会への対応等、現代は課題があまりにも大きいので、1社でできることには限界があります。機能性化学の特徴は、すり合わせにあります。顧客と必要な機能をすりあわせ、その機能を創出するための材料やその組み合わせを社内で持ち寄って検討する。機能性化学会社への変革という戦略に合わせた共創型人材の育成が、私たちの人的資本経営の根幹です。

北川メッセージの中には「くぐった修羅場の積分値」「頑張るタイミングは人それぞれ」「キャリアパスの選択肢を増やす」など、心に響く言葉がたくさんありました。人材のマネジメントはとても大変ですね。

髙橋私はラウンドテーブルで、「ワーク・ライフはバランスではなくチョイス。選択肢をあげるからライフステージによって好きな働き方を自分で選んでほしい」と話しています。就任時、私は最初に「全員は幸せにできません。ただし、幸せの総和が大きくなるような会社にします」と宣言しました。私が外資系企業で経験したのは、手足を縛られて海に飛び込み生き残り競争をするような世界でした。日本は逆で、プールの周りでずっとうさぎ跳びをさせ、水に入るころには旬を過ぎている。これでは積分値は上がらない。私たちは役員候補のプールと有望な若手人材を見える化し、全役員参加で育成法について議論しています。速く泳げそうだと思ったら早めに水に入れ、かつ溺れない独自のシステムを作っていきたいと思っています。

対話型情報発信を重視

北川統合報告書全体が、ステークホルダーとの対話に資することを強く意識してつくられていると感じました。そのあたりのコミュニケーションについて聞かせてください。

髙橋私の仕事は企業価値の最大化ですから、株主の声はとても大事です。旧昭和電工時代は市況目当てのヘッジファンドも多かったのですが、現在は長期の機関投資家が増えており、「君が辞めないなら投資する」「有言実行を期待している」と勇気づけられるコメントをもらえるようになってきました。当社を理解してくれる株主が増えることを願っていますし、耳の痛い話をしてくれる質の高い投資家との対話も重視していくつもりです。さらに、さまざまなステークホルダーとの対話も積極的に行いたいと考えています。

北川企業経営者はどうしても現在の株主に目が行きがちですが、潜在的な長期投資家はいくらでもいます。ニューヨーク、ボストン、エジンバラ、ロンドンなどには長期オンリーの投資家がいますから、企業の方でそうした投資家にアプローチしていくことも重要だと思います。

フォト:人的資本経営を中心にしたレゾナックの企業価値向上
フォト:レゾナック(昭和電工) 統合報告書表紙

昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧 日立化成)のコーポレートカラーに他の色も織り混ぜ、多種多様な社会課題解決を「化学の力で社会を変える」というパーパス実現への思いとして表現した旧 昭和電工の統合報告書2022の表紙

RESONAC
TOP