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2016年9月の『押さえておきたい良書

イチロー流 準備の極意

偉大な記録の陰には「完璧な準備」と“プロセス思考”があった

『イチロー流 準備の極意』
児玉 光雄 著
青春出版社(青春新書)
2016/05 192p 880円(税別)

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 ビジネスに失敗はつきものだ。けれども、失敗だけでなく、人から評価されなかったり、一生懸命やったのに成果に結びつかなかったりして、落ち込むこともあるのではないだろうか? 落ち込みが長く続くと、なかなかやる気が起きなくなり、ひどい時にはうつ病など心の病に発展することもある。そんな時には、常にメンタルと戦っているアスリートのものの考え方が参考になる。
 海外で高く評価されている日本人アスリートの筆頭に野球選手のイチローを挙げる人は少なくないだろう。2001年から15年にわたりメジャーリーグでプレー(現在はマイアミ・マーリンズに所属)し、2010年には10年連続200安打という大記録を達成。さらに2016年には、日米通算でピート・ローズのもつメジャー通算安打記録越え、メジャー通算3000本安打という二つの金字塔を打ち立てた。
 本書では、長年にわたりイチロー選手を追い続け、多数の著書を著しているスポーツ心理学者が、これまでの同選手の「準備」にまつわる言葉をピックアップ。「結果を出し続けてきた男」が、「準備」を通してどのようにメンタルを律しているのか。本人のリアルな言葉からその「極意」を知ることができる。

準備を完璧に行うことで結果に一喜一憂しなくなる

“ハイレベルのスピードでプレイするために、ぼくは絶えず体と心の準備はしています。自分にとっていちばん大切なことは、試合前に完璧な準備をすることです。”(p.34より)
“ようするに「準備」というのは、言い訳の材料となり得るものを排除していく、そのための考え得るすべてのことをこなしていく、ということですね。”(p.36より)
“いままで自分がやってきたことを、しっかり継続することが、イチローという選手の能力を引き出すためには、はずせないことです。”(p.48より)
“一番の近道は、遠回りをすることだっていう考えを、いまは心に持ってやってるんです。”(p.64より)

 テレビで試合でのプレーや試合後のインタビューを見る限り、イチロー選手は、いつでも冷静だ。うまくいかなくても落ち込まない。結果を出しても浮かれることはない。それは、彼の思考の基本が“プロセス重視”だからだ。結果がどうであれ、準備を含むプロセスに満足していれば心を乱すことはない。
 仮にイチロー選手が、準備が不十分なまま本番に挑んだとする。だがそれでうまくいっても「まぐれ」としか思えないのではないか。失敗すれば「準備が足りなかった」と反省するだけだ。準備することで「これだけ完璧な準備をしたんだから、どんな結果に終わろうとも後悔しない」といった自信と覚悟が生まれる。

「後退」でも“変化”しているだけ現状維持よりマシ

 イチロー選手は、「現状維持」を極端に嫌うそうだ。現状維持なら「後退」した方がマシ、とまで考えている。後退でも、現状から変化することにはかわりないからだ。
 上に引用したように、イチロー選手は準備の「極意」の一つとして「しっかり継続すること」を挙げている。この場合の継続は、「現状」を継続していくことではない。常に「変化」するための「準備」を継続していくということだ。
 イチロー選手の「準備」の実践は、アスリートのみならずあらゆる人の「変化」へのチャレンジにも役立つはず。本書を読み、ぜひそのきっかけをつかんでほしい。(担当:情報工場 吉川清史)

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2016年9月のブックレビュー

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