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蟹江 憲史

SDGs、知識や経験の総動員にワクワク

Norichika Kanie
慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 教授

魅力的な
「目標ベースのガバナンス」

国際政治や、気候変動のような地球環境問題解決のためのガバナンスを研究していた私がSDGsと出会ったのは、2011年9月。グローバルガバナンスのビジョンをまとめるワークショップを箱根で開催した際、各国の交渉担当者や国際機関担当者の中に、SDGsの設定を最初に提案した1人、グアテマラ代表のヒミーナ・レイバさんが含まれていたのが、始まりだ。

箱根ヴィジョン・ファクトリーと題する会合でヒミーナさんからSDGsの提案を聞き、これが今後のグローバルガバナンスを変えていくツールになる可能性がある、と、ピンときた。それまで、国連では条約や議定書といったルール作りに主眼が置かれていたが、この時期は、ちょうどそのアプローチが壁にぶつかっていた時だった。

私自身交渉に参加していた東アジアの越境大気汚染に関するルール作りは進展しなかった。それまで研究を続けていた気候変動に関する国際枠組みも、アメリカの京都議定書離脱や、コペンハーゲン合意形成の失敗に直面し、新たなアプローチを模索していた。そんな折、目標を包括的に設定し、ルールは特に設けないというSDGsの「目標ベースのガバナンス」というアプローチは、非常に魅力的に映った。

その後、SDGs策定過程を通じ、世界中のガバナンス研究者たちを集めて、この新たなグローバルガバナンス戦略を理論化した。SDGsが出来上り、一仕事を終えたと思った。しかしその後起こったのは、予想を上回るSDGsへの社会的注目だった。

SDGsの背景には強い危機感

SDGsが目指す世界は、特に難解なものではない。ごくごく常識的な「あるべき世界」がそこには並んでいる。その達成が難解に見えるとしたら、それは、今の世界がいかにゆがんでいるのかを表している。そして大事なのは、その目標に、国連全加盟国が合意しているという事実だ。

もちろん、SDGsが社会的課題全てを含んでいるというわけではない。SDGsは未来の骨格であり、そこに肉付けをするのは、未来に向けて活動を進める一人一人だ。ただし、骨格を作らないことには、未来は見えてこない。未来の骨格は、現在の世界の骨格とは大きく変わるからだ。地球環境が悪化し、格差が拡大し、パンデミックも起こってしまった世界は危機にひんしている。今の世界の仕組みの延長に未来はない。危機から脱するための道しるべとなるのがSDGsだ。SDGsの背景には、強い危機感がある。

SDGsに取り組むにつれ、この社会には変革が必要だと強く感じている。やるべきことは日本でもまだたくさんあるが、個人的には、多様性にもまれ、国際的活動することにワクワクする自分がいる。SDGsの先に目標を作るとして、そのときに、知識や経験を総動員してその形成をリードすることができるのであれば、個人的にもワクワクする。