コモディティー投資の魅力

[スペシャルインタビュー]消費地であるわが国とっての総合取引所の意義 住友商事グローバルリサーチ 経済部 担当部長 チーフエコノミスト 本間隆行氏

四方を海に囲まれた日本では、こと貿易手段においては海上輸送が主力となります。技術革新により輸送能力は格段に改善されましたが、輸送にはやはり時間が掛かるという難点はあります。荷主である企業にとって、その間の価格変動が大きなリスクになります。そのため、購入時には価格リスクを低減させるために先物を使ってヘッジ取引を行います。

例えば、日本で消費されるアルミニウムは、新しい地金から加工するにせよ、再生地金つまりスクラップを使うにせよ、国産の再生地金を含めて、元をたどれば輸入されたものです。とても身近な金属で、消費量の全量を輸入していることが知られているアルミですが、価格を構成する要因が二つに大別されることはあまり知られていません。

一つはアルミの本体価格で、ロンドン金属取引所(LME)のキャッシュ(スポット)価格が参照されています。もう一つは割増金で、海上輸送運賃やその時点での世界のアルミ需給を反映した価格が売り手と買い手による個別交渉を経て決定されます。私たちはこの金属を、近いところでは東南アジアやオセアニア、遠いところでは中東、アフリカや中南米から調達しています。そのため、輸送には数カ月かかることもあり、海上輸送中の商品を洋上在庫と表現することがあります。もちろん、輸送中も価格変動リスクにさらされているので輸入者はヘッジ取引を実施することになります。しかし日本にはアルミの先物市場がないため、取引が可能なLMEやニューヨーク商品取引所(COMEX)で行うことになります。

グラフ

この一連の商取引に日本の消費者意向が反映されているとは言えません。そして何よりも、上のグラフから分かるように、日本の商品取引所は全く関与していません。過去にアルミが国内で上場されていたこともありましたが、長年の経験に培われた商流や商習慣には、残念ながら合わなかったようです。しかし消費と生産は、本来表裏一体の関係にあります。消費地の経済状況や、産地から消費地までの物流コストなどが反映されている価格を消費者自らが評価し、容易にアクセスできる市場の存在が、すべての市場参加者にとっても大切なはずです。

ところで、市場の重要な機能として価格発見機能が挙げられます。それは、多くの参加者が市場取引に関与し、常に新しい情報を織り込むことによって、初めて公正に価格が形成されたと言えるという考え方に基づいています。商品市場でも当業者のみならず、内外の機関投資家や個人投資家が自らの情報や将来期待を持ち寄って、取引に参加することで市場に厚みがもたらされます。相場が乱高下したり、それによって生活必需品などの高騰を招いたりして政府当局や消費者から批難されることがしばしばあります。しかし公正に価格が形成されている限りにおいて、長期的には、価格変動は生産や消費の現場で構造調整を促し、技術革新を通じて新しい需要を作り出すなど、経済の新陳代謝を高める作用もあります。

わが国でも総合取引所が始動することになりました。これまで近くて遠い存在だった金融市場と一体化することで商品市場がより身近な存在になります。ヒト、カネ(資金)、そして情報(データ)がこれまでの金融市場の変動を支えてきたエンジンで、ここにモノ(商品)が加わることで、新たな取引プラットフォームが誕生し、経済のインフラストラクチャーとしての取引所の機能が強化されます。経済活動を構成する四つの要素を兼ね備えた取引所誕生の影響は、日本にとどまりません。今後の成長が期待されるアジア全体の経済情勢を投影する重要な役割を担える立場にありますし、そうなっていくことが期待されています。

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本間 隆行

住友商事グローバルリサーチ 経済部 担当部長 チーフエコノミスト

1991年明治大学政治経済学部卒業。国内外の市場でコモディティー先物取引に従事。2009年から2014年まで住友商事に在籍し、コモディティーデリバティブ取引、非鉄金属取引を担当。2014年に住友商事グローバルリサーチ入社。経済部所属、マクロ経済情勢、市況動向調査担当。2015年からチーフエコノミスト、現在に至る。

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