コモディティー投資の魅力

[スペシャルインタビュー]金価格 ドル安基調継続で2021年も堅調に推移 マーケット ストラテジィ インスティチュート 代表取締役、金融・貴金属アナリスト 亀井幸一郎氏

2020年7月これまでの高値を更新し、8月には取引時間中の高値としては過去最高の1オンス(=31.1035グラム)当たり2089.20ドルの高値を記録したニューヨーク金先物価格(以下NY金)。上昇の大きな原動力は、欧米投資マネーの歴史的な流入だった。

今日に至る金価格急騰の端緒は、2019年に生まれていた。米中貿易摩擦の高まりの景気への影響を危惧した米連邦準備理事会(FRB)が(景気悪化の)予防的利下げとして連続3回の政策会合(連邦公開市場委員会、FOMC)にて利下げを実施したことによる。ドル金利の低下は金の押し上げ要因。この利下げは株式市場を刺激し株価は高騰し、世界的に満期まで保有すると損をするマイナス利回りの国債を増やすことになった。バブル崩壊など将来の金融波乱に備えた資金が金市場に流れこんでいた。

その金融市場の大波乱は2020年、期せずして新型コロナの世界的拡大(パンデミック)による経済危機により、もたらされることになった。世界同時多発的に物流や人の移動が止まることが、経験したことのない景気の落ち込みを予見させたことによる。経済は急収縮のデフレ状態に。株式も債券市場も急落し、市場はパニックに陥る。2009年をピークにした国際金融危機との違いは、金融機関が傷んでいないこと。それでも景気の底割れ状態と大恐慌の再来まで危惧されることになった。

取られた策はFRBによる空前の緩和策だった。ゼロ金利政策を復活させ3月初旬から2カ月半で約2兆8000憶ドル(約290兆円)の資金供給。さらに特例措置で一般社債の買い取りと銀行融資の肩代わりにまで踏み込んだ。一方、米国政府は3兆ドルを越える緊急財政支援に乗り出した。

金融市場の大波乱に、安全資産とされる金は急騰する。FRBと米国政府の空前の政策は、ドルの価値を薄める政策。ドル価値を裏付ける資産として用いられた歴史的背景を持つ金は、ドルと逆の動きをすることが多い。空前の緩和策に将来のドル安とインフレ高進を危惧した欧米投資資金が、現物を裏付けとする金ETF(上場投資信託)を通し、大量に金市場に流れ込み2000ドルの大台を突破、過去最高値の更新につながった。金ETFの規模拡大は2020年に入り10月末までで重量ベースで1022トンの増加となった。ちなみにこれまで単年度の最大値は2009年の646トンの増加だった。一方、実需と呼ばれる中国やインドなど宝飾品需要は大きく減少している。第3四半期までの累計は730トンと前年同期比で46%の大幅な落ち込みとなっている。経済封鎖に加え価格上昇がマイナス要因となった。2020年の金価格高騰は欧米投資マネーの金ETFへの流入が主導するかたちで起きたといえる。

ニューヨーク金価格の推移
(2018年1月以降の日足)

グラフ

それでは2021年を見るポイントは何か。まず新型コロナワクチンの開発成功で経済正常化への道筋が見えることが大きい。それを織り込んで株式市場は高騰を続ける状況にある。経済の実態からは行き過ぎた株高との見方も台頭する。コロナ禍の経済を立て直すための通貨供給によるカネ余りがなす業といえるが、バブル懸念が高まるのは2019年の状況に似ている。米国ではバイデン新政権の誕生が確実視されているが、インフラ投資など拡大財政を標榜するゆえに財政赤字の拡大は避けられそうにない。FRBによる低金利政策は継続される見通しで、ドルの下落基調は続き、NY金は底堅く推移することになりそうだ。

写真

亀井 幸一郎

マーケット ストラテジィ インスティチュート 代表取締役
金融・貴金属アナリスト

中央大学法学部卒業。山一證券に勤務後、1987年投資顧問会社MMI入社。金市場ニューズレター担当。92年ワールドゴールドカウンシル(WGC)入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年から現職。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウォッチしている。時事的な題材を切り口に分かりやすく金融経済を語ることで知られ、その分析は市場関係者の間でも評価が高い。近著:『通貨の凋落で金急騰がはじまる』(2020年7月、宝島社)

スペシャルインタビュー 記事一覧

本日の市況データ北浜投資塾東京商品取引所
PAGE
TOP

商品投資の魅力

スペシャルインタビュー

商品投資コラム

商品取引入門

  • 北浜投資塾
  • 東京商品取引所